第二百九十一話:狂気の引っ越し業者(ポイ活)。星風の霊鳥(ロック鳥)の巨大卵と、究極の黄金オムライス
「同じものを大量に卸せば、市場価格は暴落して紙くずになる……」
10万匹の害虫を109万ポイントという端金で買い叩かれた俺は、キャンピングカーの運転席で、血走った目に隈を作りながらブツブツと呪詛を唱えていた。
税金による80%ピンハネ。そして過剰供給による大暴落。
この世界のシステムは、俺が1億ポイントを稼いで『黄金林檎』を食うことを、あの手この手で全力で妨害してきているとしか思えない。
「……だが、俺は負けない。システムが『薄利多売』を許さないなら、答えは一つだ」
俺はバッ!と顔を上げ、助手席でガタガタ震えているエルフの少女・シルフィの肩をガシッと掴んだ。
「多品種、少量生産。しかも一撃で跳ね上がる『超高単価なレア食材』だけをピンポイントで狙い撃つ! おいシルフィ! この森で一番デカくて、数が少なくて、死ぬほど美味くて高く売れそうなモノはどこにある!?」
「ひぃぃぃっ!? も、もうやめましょうルークス様ぁっ! これ以上森の生態系を……!」
「1億ポイント稼ぐまでは絶対にやめねえ! 言わないと、お前のおやつ(ハチミツ)を没収するぞ!」
「ああっ、それは困りますぅ! わ、分かりました……この先にある『絶壁の頂上』に、絶対に近寄ってはいけない神聖な巣が……!」
俺は迷わずアクセルを踏み込み、キャンピングカーを空高くホバー上昇させた。
◇
シルフィの案内で到達したのは、世界樹の森の中でも一際高くそびえ立つ、切り立った絶壁の頂上だった。
雲海を見下ろすようなその場所に、巨木を何十本も組み合わせて作られた、家が数軒すっぽりと入るほどの巨大な「巣」があった。
「あれは……」
俺たちはキャンピングカーを少し離れた岩場に隠し、双眼鏡で巣の中を覗き込んだ。
留守のようだが、巣の中央には、柔らかそうな巨大な枯れ草に守られるようにして、キャンピングカーのタイヤほどもある巨大な「卵」が、たったの『3個』だけ鎮座していた。
白磁のように滑らかな殻の表面には、微かに星屑のような淡い光が瞬いている。
【鑑定結果】
【対象:星風の霊鳥(スターウィンド・ロック鳥)の卵】
【状態:産卵直後(鮮度S・無傷)】
【特徴:天候を操る神話級の怪鳥の卵。極めて濃厚な味わいと、膨大なマナを内包する超高級食材】
「……ビンゴだ」
俺はごくりと喉を鳴らし、素早く買取価格をチェックした。
【買取参考価格:1個 2,000,000 pt(※無傷・鮮度Sの場合)】
「にっ、200万!?」
俺はガッツポーズを押し殺し、小声で歓喜の叫びを上げた。
「1個200万! 3個で600万ポイントだ! これなら薄利多売の暴落にも引っかからない、正真正銘の超高単価レアアイテムだぞ!!」
「ル、ルークス様ぁぁぁっ! ダメです! あれは森の空を支配する『星風の霊鳥』様の卵です! 親鳥が帰ってきたら、竜巻を起こされて森ごと吹き飛ばされますよぉぉっ! 早く逃げましょう!」
「逃げるかバカ! 目の前に600万ポイントが転がってるんだぞ! 親鳥が帰ってくる前に、全部回収(ポイ活)する!」
俺は『絶対冷却シャツ』の身軽さを活かし、崖の斜面を猿のように駆け登って、巨大な巣の中へと侵入した。
背後からフェンやエレナ様も恐る恐るついてくる。
「よし、一つ持ち上げて……って、重っ!?」
タイヤサイズの卵は、見た目以上にずっしりと重かった。殻の厚みと、中に詰まった濃厚な黄身と白身の質量が腕にのしかかる。
「おい、ルークス君! 早くキャンピングカーに運ばないと、いつ親鳥が……!」
「バカヤロー! 走るな!! 絶対に走るな!!」
焦るガリウス所長を、俺は血走った目で怒鳴りつけた。
「いいか!? これはただの卵じゃない! 『1個200万ポイント』の超デリケートな生鮮食品だぞ! 少しでもヒビが入ったり、親鳥の気配がないからって冷えたりしたら、買取価格が1桁下がるんだよ! 絶対に揺らすな! 衝撃吸収結界をフル稼働させろ!」
「い、命より査定を気にするのかキミは!?」
「当たり前だ!! 1億ポイントのためなら命だって賭けてやる!!」
そこから、最強農民一行による「狂気の引っ越し業(運送業)」がスタートした。
「フェン! 抜き足差し足だ! 爪の音を立てるな! 振動が卵に伝わるだろ!」
「む、無茶を言うな! 親鳥の鳴き声が遠くから聞こえてきたぞ! 早く走らせろ!」
「走るなと言っている! エレナ様、足元の小石を全部どけてくれ! つまずいたら600万がパーだ!!」
「ひぃぃぃっ! 分かりましたわ! ルークス様、お顔が完全に悪徳運送業者の社長ですのーっ!」
遠くの空で「ピィィィィィッ!」という怪鳥の鼓膜を劈くような鳴き声が響き、突風が吹き荒れる。
親鳥が帰還しつつあるという即死級の恐怖が迫る中。
俺たちは、重たい巨大卵を抱え、文字通り「ミリ単位」の慎重さで、ソロリ、ソロリと崖を下りていく。
急いで逃げたいのに、ダッシュできない。
この異常なジレンマと、親鳥の影が空を覆い始める恐怖。俺の全身からは、別の意味で滝のような冷や汗が噴き出していた。
「ああっ……! もうダメ、見つかりますぅっ!」
「よし、車に乗せた! 発進!! 揺らさないようにフルスロットルだ!!」
キャンピングカーの衝撃吸収サスペンションを限界まで稼働させ、俺たちは親鳥が巣に舞い降りるコンマ数秒前に、雲海を抜けて猛スピードで安全圏へと逃亡することに成功したのだった。
◇
「はぁっ……はぁっ……。し、死ぬかと思った……」
森の奥深くの安全な洞窟に車を停め、俺たちは全員でへたり込んでいた。
「だが、これで600万ポイント……! 傷一つない、鮮度Sの完璧な卵だ!」
キャンピングカーのリビングに鎮座する、3つの巨大な卵。
俺はそれを撫で回しながら、歓喜に震えていた。
……しかし。
俺の農民としての、いや、食いしん坊としての本能が、システムへの納品ボタンを押す指をジリジリと止めさせていた。
「……なぁ、フェン」
「……なんだ、主よ。嫌な予感がするぞ」
「この卵、神話級の怪鳥の卵だぞ。濃厚な味わいって鑑定に書いてあったよな。……1個くらい、味見(飯テロ)しないと、農民として夜も眠れないと思わないか?」
「ルークス君!? 200万ポイントを食べる気か!? 1億ポイントが遠のくぞ!」
「金はまた稼げばいい! だが、この卵を味わえるチャンスは今しかないんだ!!」
俺の強欲は、ついに200万ポイントという大金を「食欲」でねじ伏せた。
「マリアさん! 巨大なフライパンの準備だ! 今日は洋食の王道、『究極の黄金オムライス』にするぞ!」
俺は、以前の地下迷宮で手に入れた【古代砂小麦】の炊きたてのご飯に、特製スパイスと、マンモス肉で作った自家製ベーコンを大量に混ぜ込み、極上の『特製チキンライス(ベーコンライス)』を巨大な大皿の上にこんもりと盛り付けた。
バターとケチャップの香ばしい匂いが広がる。
そして、メインイベントだ。
俺は『真・アダマンタイトの鍬』の刃先で、タイヤサイズの卵の殻をコンッ、と軽く叩いてヒビを入れた。
パカァッ。
巨大なボウルの中に、ドゥルンッ!とすさまじい質量の卵白と黄身が滑り落ちる。
「おおおおおっ……!! 見ろこの黄身の色を!」
それは黄色ではない。もはや「オレンジ色」に近い、圧倒的に濃厚で深い色合い。
少し箸で突いたくらいでは絶対に破れない、驚異的な弾力を持った極上の卵だ。
俺はそれを素早くかき混ぜ、たっぷりの極上バターを溶かした巨大フライパン(特注サイズ)の中へ、一気に流し込んだ。
ジュワァァァァァァァァァッ!!!!!
バターの芳醇な香りと、焼ける卵の暴力的なまでの甘い匂いが、洞窟内を完全に支配する。
俺は火加減を絶妙にコントロールし、フライパンを素早く振りながら、外側はふんわりと固まりつつも、内側は絶対に火を通しすぎない「究極の半熟オムレツ」へと形を整えていく。
「よし! 完璧な焼き加減だ!」
俺は、巨大なチキンライスの山の上に、プルプルと震える巨大な黄金のオムレツを、ドスゥン!と乗せた。
その迫力は、もはや一つの小山のようだ。
「さあ、みんな。瞬き厳禁だぞ。……開眼の儀式だ!」
俺はミスリルのナイフを手に取り、チキンライスの上に乗ったオムレツの中央に、スッと一直線に刃を入れた。
――パカッ。
その瞬間。
トロァァァァァァァァァァッ……!!!!
「おおおおおおおおおおっ!!!!!」
ナイフを入れた割れ目から、重力に従って、内側に閉じ込められていたオレンジ色に輝く「極上の半熟卵」が、チキンライスの山肌を滝のように、雪崩のように覆い尽くしていった。
限界突破のシズル感。これぞオムライスの醍醐味、半熟卵の崩壊カタルシスだ。
俺はすかさず、何日も煮込んで作っておいた『特製・濃厚デミグラスソース』を、その黄金の海の上からたっぷりと回しかける。
「完成だ! 『星風霊鳥の究極・黄金半熟オムライス』!!」
「た、たまらんですわーっ! このバターと卵の匂い、理性が吹き飛びますの!」
「いただきます!!」
全員が巨大なスプーンを持ち、半熟卵とデミグラスソース、そしてチキンライスを一緒に掬い上げて、大きく口に頬張った。
……ハフッ。
トロットロ……ジュワァァァッ!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
美味い!! なんだこのコクは!!
口に入れた瞬間、半熟卵がクリームのようにとろけ、オレンジ色の黄身が持つ「圧倒的で暴力的なまでの卵の甘みと旨味」が舌を覆い尽くす。
そこに、バターの香るスパイスライスと、マンモスベーコンの塩気。さらに、デミグラスソースのほろ苦い深いコクが完璧に絡み合い、洋食の王道にして究極のオーケストラを奏でていた。
「うおおおおっ! 卵が濃厚すぎる! 200万ポイントの味がするぞォォォッ!!」
「はふっ! とろとろですわ! 飲めますわ! このオムライス、飲み物ですのーっ!」
「ガツガツガツ! 主よ、最高だ! これは無限に食えるぞ!」
俺たちは無言で、狂ったように巨大オムライスの山を掘り進め、極上の卵の海で溺れる快感に身を委ねたのだった。
◇
200万ポイントの極上オムライスを胃袋に収め、至福のゲップを放った後。
俺は、重たい腹をさすりながら、満足げにシステムウィンドウを開いた。
「ふぅ……。最高の味見(飯テロ)だったな。さて、残った『2個』の卵を納品して、400万ポイントをゲットするとするか!」
俺は、無傷のまま残してある2つの巨大卵を選択し、「納品」ボタンをタップした。
これで一気に資金が潤う。そう確信していた。
チャリンッ♪
(どこか冷たい、事務的な決済音)
「よしよし……って、あれ?」
画面に表示された『換金明細』を見た瞬間、俺の笑顔は再び凍りついた。
【納品アイテム:星風の霊鳥の卵×2】
【買取査定:無傷(外殻ダメージ0%)】
ここまではいい。完璧だ。だが、その下の行。
**【※生鮮食品(卵)の鮮度低下を検知。産卵から一定時間が経過したため、鮮度ランクが『S』から『B』にダウンしました】**
**【買取価格が、時間経過による値崩れ規定に基づき『30%ダウン』します】**
【1個あたりの買取価格:1,400,000 pt】
【合計獲得ポイント:2,800,000 pt】
「…………………………………………」
俺は。
オムライスの皿を前にして、両手で顔を覆った。
「ふざ……ふざけるなァァァァァァァァッ!!!」
俺の、今日何度目か分からない血の涙を伴う絶叫が、洞窟の中に虚しく響き渡った。
「ナマモノだから時間経過で値崩れするだとォォォッ!? なんだそのリアルすぎるタイムセール仕様は!! 俺たちはオムライス食って最高に幸せだったのに、その『食事の時間』のせいで120万ポイントも損したってことかよ!!」
過剰供給による暴落。環境保全税によるピンハネ。
そして今回突きつけられた、第三のインフレ防止システム……『生鮮食品の時間制限(鮮度)による値崩れ』。
「配達スピード(鮮度)まで求められるのかよ! ウー○ーイーツか、システムのバカヤローッ!!」
1億ポイントを稼ぐためには、ただレアなものを狩るだけではダメだ。
傷をつけず、税金を避け、市場の暴落を読み、さらには「秒速で納品する」というスピードまで要求される。
「あぁ……1億ポイントが……遠い……」
極上のオムライスの余韻は消え失せ、果てしないポイ活の過酷さと、無慈悲なシステムの壁の前に、最強農民はついに燃え尽きたように白く灰になっていくのだった。
【読者へのメッセージ】
第二百九十一話、いかがでしたでしょうか。
「絶対に割ってはいけない」という、命よりも査定を優先するルークスの狂気の引っ越し業(ポイ活)! 親鳥の恐怖とのギャップが笑えますね。
そして、200万ポイントを犠牲にして作った『究極の黄金半熟オムライス』!
ナイフを入れた瞬間に滝のように崩れ落ちる半熟卵のカタルシスと、デミグラスソースの香り……深夜の洋食テロ、皆様の胃袋にダイレクトアタックできたなら幸いです。
しかし、食後に待っていたのは「時間経過による鮮度低下(値崩れ)」という、システムの無慈悲なタイムセール仕様!
食事を楽しんでいた時間すらも「損失」になってしまうという、生鮮食品を扱うポイ活の過酷なリアルが突きつけられました。
インフレ防止策のバリエーションが豊かすぎて、ルークスの絶望が止まりません。
果たして、1億ポイントへの道はどうなるのか?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




