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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第二百八十九話:狂気の自転車操業。暴落する市場価格と、泥沼蝦(マッド・クレイフィッシュ)の極上スパイス炒め

 1億ポイント。

 世界樹を救い、俺の究極のデザート『黄金林檎』を極上の鮮度で味わうために必要な、途方もない金額。

 だが、俺はその壁をついに突破する「完璧な錬金術(ポイ活)」を見つけていた。


「ハァッ! ハァッ! よし、これで30匹目だ!」


 薄暗い湿地帯で、『真・アダマンタイトの鍬』を振るい続けた俺は、汗(とバターの匂い)を拭いながらガッツポーズを決めた。

 俺の背後には、殻から綺麗に中身だけをツルンッと抜き取られた、家ほどもある巨大な外来種【貪食の暴殻牛ベヒモス・エスカルゴ】の肉の山が築かれている。


「ふはははっ! 1匹で純利益250万ポイント! それを30匹狩ったってことは……単純計算で7500万ポイントだ! 先ほどの残高と合わせれば、一気に8000万ポイントの大台に突入するぞ!!」


 免税&補助金付きという、システムに認められた合法的な荒稼ぎ。

 俺は油でテカテカになった顔を歪ませ、狂喜乱舞しながらシステムウィンドウを開き、「一括納品(換金)」のボタンを力強くターンッ!とタップした。


 チャリンッ♪ チャリンッ♪ チャ……ピィィィーッ!


「……ん?」


 軽快に鳴り響いていたはずの決済音が、突如として不吉なエラー音へと変わった。

 そして、ウィンドウに表示された『換金明細』を見た瞬間。

 俺の笑顔は、石膏像のようにピタリと固まった。


 【納品アイテム:ベヒモス・エスカルゴの特大剥き身×30】

 【1匹目:2,500,000 pt(基本報酬+ボーナス)】

 【2匹目:  500,000 pt】

 【3匹目:   50,000 pt】

 【4~9匹目:  5,000 pt】

 【10匹目以降:   500 pt(供給過多による買取価格下限)】


「……は?」


 俺は目を擦り、二度見し、三度見した。

 だが、何度見ても数字は変わらない。500ポイント。あの家ほどもある巨大エスカルゴの買取価格が、その辺のゴブリン以下の『500ポイント(ワンコイン)』にまで大暴落しているのだ。


 さらに、無慈悲なシステムメッセージが赤い文字でポップアップした。


 **【システム警告:市場への過剰供給により、ベヒモス・エスカルゴの取引価格が暴落しました。需要が回復するまで価格は戻りません。多様な生態系の維持にご協力ください】**


「…………………………………………」


 静寂。

 俺は、その場に膝から崩れ落ちた。


「ふざけるなァァァァァァァァッ!!!」


 俺の血の涙を伴う絶叫が、湿地帯の泥水を震わせた。


「同じのばっか狩っても儲からない仕様かよ! 需要と供給の残酷なリアルをファンタジーに持ち込むな! なんだこの転売ヤー対策みたいなダイナミック・プライシングは! システムのバカヤローッ!!」


 楽して一気に稼ごうとした俺の浅はかな目論見は、資本主義(ポイ活)の絶対的なルールである「市場の飽和」という冷酷なシステムによって、完全に粉砕されたのだ。

 どんなに極上で高単価な食材でも、同じものを大量に卸せば価値は暴落する。当たり前といえば当たり前の経済の基本だった。


「ル、ルークス君……? また白目を剥いて倒れているが……」

「主よ、だから言っただろう。同じ肉ばかり食っては飽きると」

「うるさい! 俺は一億ポイント欲しいんだよ!」


 俺は泥だらけの地面をバンバンと叩き、ギリリと歯を食いしばって立ち上がった。

 つまり、だ。

 一億ポイントを稼ぐためには、「常に新しくて美味い、高単価な別種類の魔物(新銘柄)」を探して狩り続けなければならないということだ。

 それは、終わりの見えないブラックな自転車操業を意味していた。


「……おい、シルフィ」

「ひぃっ!? は、はいっ!」


 俺は血走った目で、震えるエルフの少女を振り返った。


「この森を荒らしている、他の『外来種(非課税ターゲット)』はいないか! 今すぐ案内しろ! 新規上場銘柄が必要だ!!」

「は、はいぃぃっ! あ、あっちの泥沼に、水質を悪化させている巨大な甲殻類が……!」


 俺はシルフィの指差す方向へ、文字通り猛ダッシュで突き進んだ。


 ◇


 案内されたのは、森の奥深くにある広大な泥沼だった。

 水は赤茶色に濁り、強烈な腐敗臭が漂っている。

 その沼の底から、ブクブクと巨大な泡が立ち、キャンピングカーほどの大きさがある凶悪なシルエットが姿を現した。


 全身を覆うのは、泥と苔にまみれた赤黒く分厚い装甲。そして、大木を容易くへし折るであろう、凶悪なトゲの生えた超巨大な二つのハサミ。


 【鑑定結果】

 【対象:暴虐の泥沼蝦マッド・クレイフィッシュ

 【状態:外来種(環境破壊の元凶)】

 【特徴:泥沼を荒らす巨大ザリガニ。獰猛だが、分厚い殻の下には極上のプリプリとした白身が詰まっている】


「出たな外来種! いや、新規上場銘柄だァァァッ!!」


 俺は歓喜の声を上げ、泥沼へと躊躇なく跳躍した。


『ギシャァァァァァッ!!』


 マッド・クレイフィッシュが、巨大な右のハサミを振り上げて俺を挟み切ろうとする。

 だが、俺は空中で体を捻り、そのハサミの関節部分に『真・アダマンタイトの鍬』をピンポイントで叩き込んだ。


「農業スキル・『大地の解体新書(甲殻類・活け締め)』!」


 バキィィィィンッ!!

 急所を貫かれた巨大ザリガニは、一瞬にして動きを止め、泥沼の上にドッスゥゥンと巨体を沈めた。


「よし! 収穫完了だ! フェン、マリアさん! 大鍋の準備だ! 今日は手づかみでワシワシ食うジャンクな宴にするぞ!」


 俺は泥沼から巨大ザリガニを引きずり上げ、すぐに解体(下処理)に取り掛かった。

 尻尾の極太の身を、殻付きのまま輪切り(といっても一つがタイヤほどの大きさだ)にしていく。泥臭さを取るために『清めの粗塩』で入念に揉み洗いし、純白の極上肉へと仕上げる。


 キャンピングカーの前に設置した超巨大な中華鍋に、たっぷりのオリーブオイルと、親の仇のように大量の刻みニンニクを投入する。

 そして今回の味の決め手は、砂漠の地下迷宮で命懸けで収穫した、あの悪魔のスパイスだ。


「喰らえ! 【極炎唐辛子】と特製スパイスの乱れ撃ちだ!」


 俺は、すり潰した極炎唐辛子と、ポイントショップで買い集めたクミン、コリアンダー、ブラックペッパーなどの数十種類のスパイスを、熱したオイルの海へと大量にぶち込んだ。


 ジュワァァァァァァァァァッ!!!!!


 一瞬にして、森の空気が「むせ返るような刺激的な香り」で満たされた。

 油とニンニク、そして極炎唐辛子の暴力的なカプサイシンが熱せられ、目と鼻を強烈に突き刺す。だが、その痛みの奥に潜む「圧倒的な食欲をそそる香り」が、脳髄の理性を完全に焼き切っていく。


「そこに、この極太のザリガニ(オマール海老)の身を殻ごと投入だ!」


 ジャァァァァァァァァァッ!!!


 殻付きの巨大な身が、真っ赤なスパイスオイルの海で豪快に炒められる。

 殻から溢れ出した甲殻類特有の濃厚な旨味エキスがオイルに溶け込み、逆にスパイスの刺激が殻の隙間から分厚い白身の奥深くへと染み込んでいく。

 赤黒かった殻が、熱を通すことで鮮やかで暴力的なまでの「真紅」へと染まり上がった。


「よし! 完成だ! 『マッド・クレイフィッシュの極上スパイシー・ガーリック炒め』!!」


 俺は、大皿に山盛りになった熱々の巨大エビの輪切りをドンッ!とテーブルに置いた。

 立ち上る赤い湯気が、俺たちの食欲を限界まで引き上げる。


「これはフォークもナイフも不要だ! 手づかみで殻を割って、ワシワシと食うんだ! いただきます!」


 俺は、タイヤほどもある巨大な殻の塊を両手で鷲掴みにし、力を込めた。


 バキィッ! メキメキッ!


 硬い殻を割った瞬間、中から湯気と共に、プリッ!と弾き返すような純白の極太の身が姿を現した。

 俺はそこに、皿の底に溜まった真っ赤なガーリック・スパイスソースをたっぷりと絡め、そのまま豪快にかぶりついた。


 ……ブリンッ!!

 ジュワァァァァァァァァッ!!!


「んんんんんんんんんッ!!!!??」


 美味い!! なんだこの弾力は!!

 歯を押し返すような圧倒的なプリプリ感。最高級のオマール海老すら凌駕する、極上の甲殻類の旨味。

 そこに、極炎唐辛子の「痛いほど辛い刺激」と、ニンニクのパンチ、そして複雑なスパイスの香りが一気に爆発し、口の中を旨味の業火で焼き尽くす。


「辛っ! 痛っ! ……でも美味ぇぇぇぇぇっ!! 殻から出たダシとスパイスが、エビの甘みを何百倍にも引き上げてるぞ!!」

「はふっ! 辛いですわ! お口が火事ですの! でも……このジャンクで暴力的なお味、手が止まりませんわーっ!」

「ガツガツガツ! 殻ごと食ってやる! 指についたソースまで美味いぞ!」


 俺もフェンもエレナ様も、全員が顔も手も真っ赤なソースでベタベタにしながら、狂ったように殻を割り、エビの身に食らいつき、指をチュパチュパと舐め回した。

 お上品なフレンチとは対極にある、野性味あふれるジャンクな美味さ。

 甘いものの後に塩気、そして今度は「強烈な刺激スパイス」。この無限ループこそが、飯テロの真骨頂だ。


「あぅぅぅ……辛い……お水……。でも、もう一口だけ……」


 シルフィもまた、涙と鼻水を流し、エルフの誇りをスパイスの海に沈めながら、巨大なエビの殻に齧り付いていた。


 ◇


 極上のスパイシー・ガーリックシュリンプを指まで舐め尽くして完食した後。

 俺は、口の周りを真っ赤にしたまま、システムウィンドウを開いた。

 お待ちかねの、【討伐(駆除)ボーナス】の確認だ。


 [ボーナス獲得:【外来種・暴虐の泥沼蝦】駆除報酬]

 [基本報酬:2,000,000 pt(新規銘柄・初回収穫ボーナス適用)]

 [※外来種駆除のため『自然環境保全税』は免除(税率0%)されます]


「よしっ!! 新規銘柄だから満額の200万ポイントだ! 非課税!!」


 俺はガッツポーズを決めた。

 これで手取りが一気に増えた。だが、俺の心はすぐに深い泥沼のように沈み込んでいった。


「……でも、これもあと数匹狩ったら、また『過剰供給』で500ポイントに暴落するんだよな……」


 俺は、森の奥深くへと遠い目を向けた。


「1億ポイントまで、まだあと9千万ポイント以上……。これ、あと何十種類も『新しい外来種(美味い魔物)』を探し続けて、倒し続けなきゃいけないのか……?」


 需要と供給。価格暴落。そして常に新規開拓を迫られる自転車操業。

 ポイ活の果てしなくシビアな現実に、俺はブルリと身震いをした。


「……森が助かっているのは事実ですけど」


 シルフィが、赤いソースまみれの顔で、ジト目で俺を見つめていた。


「この人が森を救う動機、完全に『市場価格の維持』と『新しい味覚の追求』ですよね……? 精霊様、この救世主、やっぱりただの強欲な悪魔なんじゃないでしょうか……?」


 森の生態系を救うためではなく、市場の暴落から逃れるため。

 最強農民の、果てしない「多品種少量生産(乱獲)ツアー」は、狂気のスパイスの匂いと共に、まだまだ過酷に続いていくのだった。


---



【読者へのメッセージ】

第二百八十九話、いかがでしたでしょうか。

同じものを狩り続ければ価格が暴落する! 「需要と供給」という現代経済の残酷なリアルが、ルークスのポイ活を直撃しました。

インフレ対策としてのシステムの容赦のなさに、思わず絶望する姿は小市民的で笑えますね。

そして、新たな非課税ターゲットは巨大ザリガニ!

極炎唐辛子とニンニクを効かせた、真っ赤な「スパイシー・ガーリック炒め」。

殻をバキッと割り、プリップリの極太の身を手づかみでワシワシと食い、指についたソースまで舐め尽くす……ジャンクで暴力的な甲殻類の旨味を、画面越しに感じていただけたなら大成功です!

新規銘柄で稼いだものの、常に新しい獲物を探し続けなければならない「狂気の自転車操業」が確定しました。

シルフィのドン引きのツッコミも冴え渡ります。

次回はどんな「新銘柄(未知の味覚)」を求めて森を彷徨うのか?

新章もノンストップでお腹を空かせますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!

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