第二百八十八話:狂気の節税ポイ活。外来種ベヒモス・エスカルゴの駆除と、背徳のガーリックバター壺焼き
「はぁ……。額面400万、手取り80万……。80パーセントの税金……」
極上の香草鹿の分厚いローストを平らげた後、俺はキャンピングカーのリビングで膝を抱え、完全に魂が抜けた顔でブツブツと呪詛を呟いていた。
美味かった。肉は間違いなく最高に美味かったが、あの『自然環境保全税』という名の無慈悲なペナルティが、俺のポイ活魂に致命的なトラウマを植え付けていた。
「ル、ルークス様……。どうか元気を出してくださいませ。お肉、とっても美味しかったですわよ?」
「エレナ様、俺はもうダメです。神話級の魔物を命懸けで狩っても、システムに『保護指定だ』と言いがかりをつけられて8割もピンハネされるなら、1億ポイントなんて一生貯まりません。俺の黄金林檎の夢は終わりました。スローライフ終了です」
腐葉土のように暗く沈み込む俺を見かねて、エルフの少女・シルフィがおずおずと声をかけてきた。
「あ、あの……ルークス様。そんなに『税金』が引かれるのが嫌なら、森の理に怒られない……いえ、むしろ『狩ったら森が助かる』魔物を狩ればいいのではないでしょうか?」
「……なんだと?」
ピクッ。俺の沈黙していたポイ活センサーが、バチィッ!と激しく反応した。
「つまり、保護指定じゃない……『外来種の害獣』ってことか!?」
「は、はい! 実は最近、この世界樹の森の若葉を根こそぎ食い荒らす、外来種の巨大な軟体魔獣が異常繁殖して困っているんです! エルフの魔法も効きにくくて……」
俺の頭の中で、弾かれたように電卓が高速で叩かれた。
(外来種の害獣駆除! それなら生態系破壊どころか、むしろ環境保全活動に貢献していることになる! 環境保全税は『非課税(0%)』、いや、それどころか行政から『駆除ボーナス(補助金)』が出るはずだ!!)
「それだァァァァァッ!!」
俺はバンッ!とテーブルを叩いて立ち上がった。先ほどの絶望など微塵もない、完璧なまでの手のひら返しだ。
「シルフィ! そいつはどこにいる!? 俺がこの森の平和と若葉を守るために、一匹残らず『節税な駆除』をしてやる!」
「ひぃっ!? は、はい! あちらの湿地帯にたくさん……!」
シルフィの案内で向かった、じめじめとした湿地帯。
そこで世界樹の若葉をムシャムシャと貪り食っていたのは、家ほどもある巨大な「カタツムリ」だった。
分厚く硬そうな螺旋状の殻を背負い、ドロドロの粘液を撒き散らしながら森を荒らしている。
【鑑定結果】
【対象:貪食の暴殻牛】
【状態:食欲旺盛(外来種・繁殖期)】
【特徴:森の若葉を食い尽くす害獣。強固な殻で身を守る】
「出たな外来種! よしフェン、風の刃で一気に殻ごと叩き割って……」
「待てフェン!! 殻を割るなァァァッ!!」
風魔法を放とうとしたフェンを、俺は全力のダイビングキャッチで阻止した。
「な、なんだ主よ!? あんな硬そうな殻、粉砕したほうが早かろう!」
「バカヤロー! 駆除の『補助金』を満額(査定100%)でもらうには、証拠品として傷のない殻が必要なんだよ! 少しでも割れたら減額査定されるだろ! それに……あの殻は後で『最高の器(壺)』になるんだ!」
俺は『絶対冷却シャツ』の身軽さで巨大カタツムリの正面へと跳躍し、腰から『真・アダマンタイトの鍬』を引き抜いた。
ベヒモス・エスカルゴが危険を察知し、ヌチャァァァッと巨大な殻の中へ身を隠そうとする。
「遅い! 農業スキル・『大地の解体新書(殻外し)』!!」
俺はアダマンタイトの鍬を、まるで巨大な「エスカルゴ・フォーク」のように使い、殻の隙間から滑り込ませた。
テコの原理と農民の神業で、貝柱(?)の接点を完璧に切断する。
――ツルゥゥゥゥンッ!!!
巨大な殻は一切傷つけることなく、中から丸々と太った超巨大な軟体の身だけが、鮮やかに空宙へと引きずり出された。
ドサァッ、と湿地に落ちる巨大な身と、無傷で残された巨大な螺旋の殻。
「よし! 無傷で収穫(駆除)完了だ!」
「す、すごいです……あんなに厄介だった巨大魔獣を、一瞬でツルンッと……」
シルフィが呆然とする中、俺はすぐさま調理の準備に取り掛かった。
だが、このままでは強烈な泥臭さと大量のヌメリがあって食えたものではない。
「ここからが農民の腕の見せ所だ。ポイントショップで購入しておいた『神話級・清めの粗塩』の出番だな!」
俺は巨大な身に大量の粗塩を揉み込み、農業スキル『清流の泥抜き』を発動。
キュッキュッと力強く揉み洗いするだけで、不快なヌメリと泥臭さが一瞬にして完全に消え去り、純白で美しい極上食材へと生まれ変わった。
「下処理完了! さあ、ここからはフレンチの時間だ!」
俺は純白の身をぶつ切りにし、ボウルに投入。
そこに、エルフの里で仕入れていたパセリを大量に刻み込み、極上の発酵バター、そして何より食欲をブーストさせる「ニンニク(大蒜)」を親の仇のように大量にすりおろして練り込んだ。
特製・極上エスカルゴバターの完成だ。
「これを、さっきの無傷の殻(壺)の中に、身と一緒にギュウギュウに詰め戻す!」
「る、ルークス様……なんだか、とてつもなく犯罪的で、暴力的な香りがしてきましたわ……」
エレナ様がゴクリと喉を鳴らす中、俺はあの『極炎石窯(元ゴーレム)』を再びドーンと設置した。
「行くぞ! 『ベヒモス・エスカルゴの特製ガーリックバター壺焼き』だ!」
巨大な殻ごと、400度の石窯の中へと放り込む。
同時に、隣のスペースには、以前の地下迷宮で手に入れた【古代砂小麦】の粉で仕込んでおいた、細長い『特製バゲット(フランスパン)』の生地も投入した。
ジュウウウウウゥゥゥゥッ!!!!!
グツグツグツッ!!
数分後。
石窯の中で、圧倒的なカロリーの暴力が目を覚ました。
巨大な殻の入り口で、鮮やかな緑色に染まったエスカルゴバターが、地獄の釜のようにグツグツ、フツフツと煮え立っている。
熱せられたニンニクの強烈な香ばしさと、極上バターの芳醇なコクが完全に混ざり合い、森の澄んだ空気を「背徳のフレンチレストラン」へと強制的に塗り替えていく。
「くぉぉぉっ! たまらん! このニンニクとバターの匂い、完全に理性を破壊しにきてるぞ!」
「主よぉぉぉっ! 早く! 早くその緑のマグマを我に食わせてくれぇぇ!」
俺は石窯から、グツグツと煮え滾る巨大な殻(壺)と、こんがり焼き上がったパリパリのバゲットを取り出した。
「熱いうちに食うぞ! いただきます!」
俺は長い串で、煮え立つ緑のバターの中から、アツアツの身を一つ突き刺して口に放り込んだ。
……ハフッ、アツッ!
プリィィィッ! ジュワァァァァァッ!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
美味い!! なんだこの弾力は!
アワビ以上に柔らかく、それでいてプリプリとした極上の歯ごたえ。
そこに、ニンニクの強烈なパンチと、バターの暴力的なコク、パセリの爽やかな風味が完璧に絡みつき、口の中を旨味の濁流で押し流していく。
だが、エスカルゴの真髄はここからだ。
「みんな! この石窯で焼きたてのバゲットをちぎって、殻の底に溜まった『緑のバターソース』に、ヒタヒタになるまで浸して食うんだ!」
俺は古代砂小麦で作ったバゲットをちぎり、殻の中でグツグツ煮え立つアツアツのガーリックバターの海へダイブさせた。
パンの気泡が、一滴残らず背徳のバターを吸い上げる。
それを、そのまま口へ。
サクッ、ジュワァァァァァァァッ!!!
「う、美味ぇぇぇぇぇっ!! カロリーの暴力だ! パンに染み込んだニンニクバターが、最高にギルティで最高に美味い!!」
「はふはふっ! カリカリのパンから、ジュワッとバターが……! あかん、これは止まりませんわぁぁぁ!」
「なんという悪魔の食べ物だ……! この森の若葉を食い荒らす害獣を、こんなに下品で……最高に美味しく食べるなんて……!」
シルフィもまた、エルフの矜持を緑色のバターソースに完全に沈め、狂ったようにバゲットを浸しては貪り食っていた。
全員が、カロリーとニンニクの暴力の前に完全にひれ伏した。
◇
巨大な殻の底のソースを一滴残らずパンで拭き取り、完食した俺は、油とバターでテカテカになった顔でシステムウィンドウを開いた。
いよいよ、お楽しみの【討伐(駆除)ボーナス】の確認だ。
[ボーナス獲得:【外来種・貪食の暴殻牛】駆除報酬]
[基本報酬:2,000,000 pt]
[※外来種駆除のため『自然環境保全税』は免除(税率0%)されます]
[さらに、特定外来生物(殻無傷)駆除ボーナス:+500,000 pt]
【現在の純利益(手取り):2,500,000 pt】
「……!!」
俺の目から、今度は歓喜の涙が滝のように溢れ出した。
「にひゃくごじゅうまん!! 税金ゼロ!! 額面イコール手取りィィィィィッ!!!」
俺は、天を仰いでガッツポーズを決め、森中に響き渡る声で絶叫した。
税金で引かれないという事実が、これほどまでに心と財布を温かくするとは!
「これだ! これこそが合法的な節税ポイ活の真髄だ! 最高ォォォォッ!!」
「ル、ルークス君……君は完全にポイント(金)の亡者だな……」
俺は『真・アダマンタイトの鍬』を握り直し、目を血走らせて湿地の奥を睨みつけた。
「あと9195万ポイント! おいシルフィ! このカタツムリ、まだ湿地にウジャウジャいるんだろうな!?」
「ひぃっ!? は、はい、数え切れないほど……」
「よし! 森の平和と若葉のためだ! このカタツムリどもを、一匹残らず根絶やし(駆除&フレンチ)にしてやるぞォォォッ!!」
目を血走らせ、涎を垂らしながら湿地の奥へと疾走していく最強農民の背中を見送りながら。
「……お願い、精霊様。あの人、森の救世主なのか、ただのガメつい悪魔なのか……私、もう分かりません……」
エルフの少女・シルフィの悲痛なツッコミは、狂気のガーリックバターの匂いと共に、鬱蒼とした森の奥へと溶けていったのだった。
【読者へのメッセージ】
第二百八十八話、いかがでしたでしょうか。
税率80%の絶望から一転、見事な「節税対策(外来種駆除)」に目をつけたルークスのガメつさが光るポイ活回でした!
査定のために殻をツルンッと外す神業、そして古代砂小麦のバゲットに吸わせた「緑のガーリックバターソース」。カロリーとニンニクの暴力的な背徳感を画面越しに感じていただけたなら大成功です。深夜のフレンチテロですね!
額面=手取りの喜びにむせび泣き、再び目を血走らせて生態系を脅かすルークス。シルフィのツッコミも冴え渡ります。
残り9,195万ポイント! 狂気の収穫祭はまだまだ止まりません。
次回も極上の食材と斜め上のポイ活をお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




