第二百八十五話:狂気の養蜂家(ポイ活)。暴食の死帝蜂と、黄金に輝く琥珀のハチミツ
神話級のフルーツ【タイラント・マンゴー】を無傷で収穫(討伐)し、その暴力的なまでの甘みと果汁を堪能した俺たちは、森の奥深くへと歩を進めていた。
1個で50万ポイントという破格の報酬。俺の頭の中には、「世界樹の危機を救う」という高尚な目的はすでに1ミリも存在せず、「あと199個(1億ポイント分)狩り尽くして、究極のデザート『黄金林檎』を食う」という黒い欲望だけが渦巻いていた。
「ル、ルークス様……! お願いです、これ以上森の奥へ進むのは危険すぎますぅ……っ! この先は、森の生態系の頂点に君臨する『処刑部隊』の縄張りなんです!」
エルフの少女・シルフィが、俺の服の裾を両手で力いっぱい引っ張りながら、涙と鼻水で顔をグシャグシャにして泣き叫んでいた。
5万ポイントの【神話級・妖精の防虫オーラ発生器】の結界内にいるにも関わらず、彼女の全身は小刻みに震えている。
森の住人であるエルフにとって、この先にいる存在がどれほどの恐怖の対象であるかが窺い知れた。
ブゥゥゥゥゥン……!
ブブブブブブブブッ……!!!
やがて、鬱蒼とした巨木の隙間から、地鳴りのような重低音が響いてきた。
それは無数の羽音の集合体。巨大な軍用ヘリコプターが編隊を組んで飛来してきたかのような、空気をビリビリと震わせる圧倒的なプレッシャー。
「主よ! 来るぞ! 空からデカいのが群れでやってくる!」
「……お、おいルークス君! あれは……いくら結界があっても、防ぎきれるサイズじゃないぞ!!」
フェンが牙を剥き出しにし、ガリウス所長が腰を抜かす。
見上げると、樹冠の薄闇を縫うようにして、黄色と黒の凶悪な縞模様を持った巨大な「影」が、数十匹の群れとなって俺たちに狙いを定めていた。
一匹一匹が、なんと「牛」ほどの大きさがある。
全身を覆う硬質な甲殻、研ぎ澄まされた大鎌のような大顎。そして何より、腹部の先端でギラリと黒い光を放つ、槍のように太く長い「毒針」。
【鑑定結果】
【対象:暴食の死帝蜂】
【状態:極めて凶暴(巣の防衛モード)】
【危険度:災害級(一刺しで竜すら即死させる猛毒を持つ、森の処刑部隊)】
「ひぃぃぃぃぃぃっ!! し、死帝蜂ですぅぅぅっ! 絶対に刺激してはいけません! 一匹でも怒らせたら、森の果てまで執拗に追いかけられて、一族郎党皆殺しにされますぅぅっ!」
シルフィが頭を抱えて地面にうずくまる。
だが。
俺の目は、群れをなす巨大な殺人蜂たちを通り越し、その後方――世界樹の太い枝の股に作られた、高層ビルのように巨大な「巣」に完全に釘付けになっていた。
六角形の部屋が幾重にも連なる、芸術的で超巨大なフラクタル構造。
その隙間からは、黄金色にキラキラと輝く「何か」が、太陽の光を反射して琥珀のような美しい光を放っている。
「デカい蜂ってことは……」
俺は、ごくりと喉を鳴らした。
「貯め込んでいる『ハチミツ』も、規格外の特大サイズってことだな!!」
「えっ……?」
シルフィが、信じられないものを見る目で俺を見上げた。
「おい見ろよフェン! あの巣のデカさ! この森に咲き乱れる、神話級の数多の幻の花々……その百花繚乱の蜜を、あのかわいい働き蜂どもが、せっせと何百年も集めて熟成させた、究極の『百花蜜』だぞ!!」
「ガウッ! ハチミツ! 肉を焼く時に塗ると、テリとコクが出て最高に美味いやつだな!」
「それだけじゃない! さっきの『マンゴー』にかけて食ってみろ! 果実の酸味とハチミツの暴力的な甘みが、脳髄をぶち抜くようなマリアージュを起こすに決まってるだろ!!」
俺の脳内では、すでに黄金のハチミツがトロォォリと滴り落ちる極上のパンケーキやら、ハニーマスタードチキンやら、無限のレシピが弾き出されていた。
1億ポイント貯めるためには、どんな初期投資も惜しまない。
俺は虚空を光の速さでタップし、システムウィンドウの検索窓にキーワードを打ち込んだ。
【検索ワード:養蜂、完全防護、煙幕、蜂を傷つけない、神話級】
チャリンッ♪
(森の処刑部隊の羽音すらかき消す、冷酷で美しい決済音)
【購入完了:神話級・絶対防護の養蜂スーツ&鎮静の魔導煙幕器】
【価格:20,000 pt】
光の粒子が収束し、俺の全身を白い分厚い特殊繊維のスーツが包み込んだ。顔の周りには強靭なミスリル製のメッシュバイザー。
そして手には、金属製の巨大な筒――先端から煙を出す「魔導煙幕器」が握られている。
「ル、ルークス君……? その格好は……まさか……」
「プロの『養蜂家』の正装ですよ、所長。さあ、ハチミツ(ポイ活)の時間だ!」
『ブブォォォォォォォォォッ!!!!!』
俺のふざけた格好に激怒したのか、数十匹の『暴食の死帝蜂』が一斉に急降下してきた。
竜すら即死させるという槍のような毒針が、雨あられと俺に降り注ぐ。
ガガガガガッ!!!
バキィィィィンッ!!!
「痛っ……くはないな。さすが2万ポイント」
神話級の猛毒針が、養蜂スーツの『絶対防護結界』に弾かれ、火花を散らして次々と折れていく。
シルフィが「ウソでしょ……?」と白目を剥く中、俺はスモーカーのふいごをシュッシュッとリズミカルに押した。
「ほーら、大人しくしろよー。いい子だいい子だ。お前たちが一生懸命集めた蜜、少しだけ分けてくれよな」
プスゥゥゥゥッ……。
スモーカーから、特殊なハーブと睡眠の魔力をブレンドした白い煙がモクモクと噴き出し、死帝蜂の群れを包み込む。
すると、先ほどまで凶暴の限りを尽くしていた巨大蜂たちの羽音が、みるみるうちにトーンダウンしていく。
『ブゥン……ブゥン……zzzz……』
煙を吸い込んだ死帝蜂たちは、スヤスヤと寝息を立てながら、次々と腐葉土の上へと不時着して丸くなっていく。
殺してはいない。ただの「鎮静(睡眠)」だ。
「おいフェン! こいつらを踏み潰さないように気をつけろよ! あいつらは森の豊かな実りを支える重要な受粉の担い手であり、俺のハチミツ工場の大切な従業員だからな!」
「分かっておる! 我はそんな無粋なことはせん!」
どんなに凶悪なモンスターだろうが、俺にとっては「可愛い働き蜂」だ。
俺は寝こけている巨大蜂たちを跨ぎ越え、風の魔法でフワリと浮かび上がると、ビルのような巨大な蜂の巣の正面へと降り立った。
「おおおっ……! 近いとさらに凄い匂いだ!」
巣の表面からは、百花繚乱の芳醇な花の香りが、むせ返るほどに立ち昇っている。
俺は『真・アダマンタイトの鍬』を短く持ち、刃の部分を繊細な「ヘラ」のように使って、巣の六角形の部屋(蜜ツボ)へとアプローチした。
「巣を壊しちゃダメだ。今後の生産(サステナブルな養蜂)に関わるからな。一番蜜がパンパンに詰まった、完熟の『蜜蓋』の部分だけを……慎重に切り出す!」
スゥッ……。
アダマンタイトの鋭い刃が、蜜を閉じ込めている蝋の蓋だけを綺麗に切り取っていく。
プロの養蜂家(農民)としての、ミリ単位の神業。
そして、蓋が外れた巨大な蜜ツボ(直径1メートル)から、ついに「それ」が姿を現した。
「……!!」
黄金色。いや、千年の時を閉じ込めた琥珀のような、深く、美しく、そしてどこまでも透明な輝き。
【世界樹の琥珀蜂蜜】だ。
「よぉぉぉし! 極上の甘味、収穫だぁぁぁッ!!」
俺は切り出した特大の蜜ツボ(重さ数百キロ)を、アイテムボックスから出した巨大なガラス瓶の上へと傾けた。
――トッ、ルゥゥゥゥゥゥン……。
ドロォォォォォォォォリ……。
なんという暴力的なまでの粘度。
黄金色の琥珀が、重力に逆らうようにゆっくりと、ゆっくりと、途切れることなく太い糸を引いてガラス瓶へと滴り落ちていく。
その光景だけで、脳の快楽物質がドバドバと分泌される。
森中に、花畑を何億倍にも濃縮したような甘く芳醇な香りが爆発した。
「うおおおっ……! もう我慢できん!」
俺は養蜂スーツのバイザーを跳ね上げ、素手でそのドロリとした黄金の蜜をたっぷりと掬い取り、そのまま口へと運んだ。
……ペロリ。
――ドッカァァァァァァァンッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
舌に触れた瞬間、雷に打たれたような衝撃が脳天を突き抜けた。
甘い。甘い! 甘すぎる!!
砂糖の甘さではない。森の無数の花々の香りが、複雑に、そして圧倒的な暴力となって味覚を蹂躙する。
とろみのある琥珀色の液体が、喉の奥にねっとりと絡みつき、胃の腑に落ちるまで、その「芳醇な百花の香り」を強烈に主張し続ける。
「美味いぃぃぃっ! なんだこれ! 脳が溶けるような甘さだ!!」
「ルークス様! わたくしたちにも! わたくしたちにもその黄金の蜜を!」
キャンピングカーから飛び出してきたエレナ様たちが、空の皿を持って詰め寄ってくる。
俺は、先ほど冷蔵庫でキンキンに冷やしておいた『タイラント・マンゴーの完熟果肉』をアイテムボックスから取り出し、その上に、掬いたての琥珀蜂蜜を、これでもかとたっぷりと回しかけた。
「さあ! 食ってみろ! 極上フルーツと究極のハチミツの、神話級マリアージュだ!」
黄金の果肉に、黄金の蜜がとろ~りと絡みつく。
全員が、フォークでそれを刺し、無言で口に放り込んだ。
……チュルンッ。
ジュワァァァァァァッ!!
「……ッ!! あ、あはぁぁぁぁぁっ……!!」
マンゴーのトロピカルな酸味と果汁が口に広がった直後、それを包み込むように、ハチミツの重厚で暴力的なまでの甘みと花の香りが押し寄せる。
酸味と甘み。果汁の瑞々しさと蜜の濃厚な粘度。
相反する要素が口の中で完璧に融合し、これまでにない「究極のスイーツ体験」を現出させていた。
「おいちい! おいちいよぉぉぉっ! 甘いのにさっぱりしてて、でもお花の匂いがしゅるのぉぉっ!」
「チュルチュルチュル! うまい! うまいぞ主! 我は甘党だったかもしれん!」
「あぅぅぅ……生きててよかった……エルフに生まれてよかったぁぁぁ……」
シルフィもまた、森の処刑部隊の巣の下で、顔中をハチミツまみれにしながら恍惚の表情を浮かべていた。
もはや恐怖などどこにもない。そこにあるのは、純粋な食欲と多幸感だけだ。
「ふぅ……。甘味の極致だったな……」
俺が指についたハチミツを舐め取りながら、満足げにシステムウィンドウの【討伐(採取)ボーナス】の通知をタップした、その時だ。
[ボーナス獲得(レアアイテム採取):2,000,000 pt]
[※生態系維持(サステナブル採取)ボーナス適用]
「……に、にひゃくまん……?」
俺の目が、カッ!と見開かれ、完全に血走った。
「200万ポイント!? 蜜ツボ1個で、200万ポイントだと!?」
「ル、ルークス君? また顔が魔王のようになっているが……」
「200万ってことは……!」
俺の脳内で、ポイ活狂いの計算式が恐ろしいスピードで弾き出された。
「さっきのマンゴーの50万と合わせて、現在250万! つまり、1億ポイントまで、あと『9,750万ポイント』だ!!」
俺は、養蜂スモーカーを片手に、ビルのように巨大なハチミツの巣(未開拓の蜜ツボがまだ何十個も眠っている)を見上げた。
「……おい、みんな。あの巨大な巣には、あの蜜ツボがまだ山ほどあるぞ」
俺の口角が、耳まで裂けるかと思うほどに吊り上がる。
「よし! この巣の蜜を全部採取(ポイ活)すれば、一気にポイントが跳ね上がるぞォォォッ!! 寝ている蜂どもを起こさないように、根こそぎ搾り取ってやるゥゥゥッ!!」
「ちょ、待て主! そんなに食ったら糖分過多で死ぬぞ!」
「ル、ルークス様! お顔が完全に悪徳商人ですわよ!?」
俺は静止の声も聞かず、猛烈な勢いで巨大な蜂の巣へとよじ登り始めた。
ハチミツまみれの顔で、ギラギラと笑いながら。
その光景を下から見上げながら、森の守護者であるはずのエルフの少女・シルフィは、絶望に満ちた瞳で天を仰いだ。
「ああ……世界樹様、精霊様……。お願い、誰かこの悪魔(最強農民)を止めて……。このままじゃ、森の甘味がすべて奪い尽くされてしまいますぅぅっ……!」
1億ポイントという途方もない目標は、最強農民を「持続可能な悪鬼」へと変貌させ、世界樹の森の生態系を(ハチミツの供給面で)完全に崩壊させようとしていた。
【読者へのメッセージ】
第二百八十五話、いかがでしたでしょうか。
フルーツに続く狂気の収穫祭・第二弾は、森の恵みの結晶「琥珀のハチミツ」!
災害級の殺人蜂を、2万ポイントの養蜂スーツと煙幕でただの「可愛い働き蜂」に変えてしまう、ルークスの圧倒的なポイ活無双! 巣を壊さず丁寧に収穫する農民的SDGsも光ります。
とろ~りと滴り落ちる黄金のハチミツの粘度と、マンゴーの酸味とのマリアージュ……想像して喉が鳴っていただけたでしょうか?
蜜ツボ1個で200万ポイントという超高額報酬に、ルークスの強欲リミッターが完全に崩壊しました。残り9,750万ポイント!
森の生態系を震え上がらせる「狂気のポイ活狩猟」は、まだまだ止まりません。
次回はどんな神話級の食材(と高額ポイント)がルークスの毒牙にかかるのか?
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