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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第二百六十七話:空飛ぶキャンピングカー計画。ドワーフの魔改造と、天空の野菜カタログ

 深海から持ち帰った『黄金マグロ』の極上の脂の余韻も冷めやらぬ翌日の朝。

 俺、ルークス・グルトは、愛車の『魔導キャンピングカー』を、村の西側にある鍛冶場の広場へと移動させていた。


 全長12メートル、銀色のアダマンタイト・コーティングが施された巨体は、朝日に照らされて神々しく輝いている。

 だが、俺は満足していなかった。

 この車は、陸と海を制覇した。

 ならば次は、空だ。

 俺の頭上には、まだ見ぬ食材が眠る「未開の農地フロンティア」が広がっているのだから。


「……正気か? ルークス、お前さん、本当に正気で言っておるのか? 朝からエールでも引っ掛けてきたか?」


 ドワーフの鍛冶師ゴードンが、俺の手にある拳大の青い宝石――人魚の国宝【海神のアクア・クリスタル】を凝視し、脂汗を滝のように流しながら問いただしてきた。

 彼の手には、整備用のミスリルレンチが握られているが、小刻みに震えている。


「正気だよ、シラフだよ。空に行くには、今の魔導エンジンじゃ出力不足だろ? 重力制御装置を長時間稼働させるには、桁違いの魔力が必要だ。だからこいつをサブバッテリー、いや、メイン動力炉として組み込んでくれ」


 俺はクリスタルを、まるで使い古した乾電池のように放り投げた。


「おわわわっ!?」


 ゴードンが慌ててキャッチする。


「こ、国宝じゃぞ!? 人魚族が数千年間守り続けてきた、伝説級の魔石じゃぞ!? 城一つの結界を百年維持できるレベルの代物だ! それを、たかが車のバッテリー代わりに……!?」


 ゴードンは白目を剥いて卒倒しかけたが、俺は構わず続けた。


「宝の持ち腐れって言葉があるだろ? こいつは博物館に飾っておくもんじゃない。俺たちを『まだ見ぬ食材』の元へ運ぶための燃料だ。それに、ゴードンならできるだろ? この最高級の素材を使って、世界で一番速い車を作るのが」


 俺の挑発的な言葉に、ゴードンの目がピクリと動いた。

 彼はクリスタルを握りしめ、そしてカッと目を見開いた。

 その瞳には、常識への恐怖ではなく、職人としての狂気と情熱が宿っていた。


「……面白い。やってやろうじゃねえか! こんな出鱈目な魔力を持つ石、普通の魔導具には組み込めねえ! 暴走すれば村ごと消し飛ぶぞ! だが……あのアダマンタイト製の頑丈な車体なら、この怪物の心臓にも耐えられるかもしれん!」


 ゴードンがニヤリと笑い、バンダナを巻き直した。


「任せろ! 空どころか、星の果てまで飛べるような『世界最強のエンジン』に魔改造してやるわい! ドワーフの技術力、舐めるなよ!」


 こうして、ドワーフの国宝級技術と、俺の無茶振りが融合した、世紀の改造計画がスタートした。


 ◇


 ゴードンが車の腹下に潜り込み、カンカン、バチバチと火花を散らしながら作業をしている間。

 俺たちは工房の休憩スペースで、これからの旅の予習をしていた。


「ほほう……。王宮の禁書庫から取り寄せた甲斐があったわい。まさか実在するとはな」


 ガリウス所長が、分厚い古文書をテーブルに広げた。

 表紙には『天空博物誌 ~雲の上の生態系と幻の味覚~』と記されている。

 当然のように、ガリウス所長も同行する気満々だ。彼はもう、完全に「食の探求者」と化している。


「ルークス君、見てみろ。これが天空の浮島に自生するとされる食材だ」


 所長が指差したページを見て、俺と、隣で覗き込んでいたフェンの目が釘付けになった。

 そこには、挿絵と共に、暴力的なまでに食欲をそそる記述があった。


 【天空トウモロコシ(スカイ・コーン)】

 分類:穀物(神話級)

 説明:

 雲の水分と、遮るもののない太陽光を浴びて育つ、空のトウモロコシ。

 一粒一粒が宝石のように透き通り、その糖度は地上の果物を遥かに凌駕する。生で齧れば、口の中で甘いジュースが弾けるだろう。

 特筆すべきは、その調理法である。雷雲の雷に打たれると、その瞬間に弾け、自然の『ポップコーン』となる。

 その味は、雲のように軽く、しかし雷の魔力を帯びて刺激的である。


「……天然の、雷ポップコーン」


 俺はゴクリと喉を鳴らした。

 ただのポップコーンじゃない。大自然の雷で弾けた、空の恵みだ。

 これに、焦がし醤油とバターを絡めたら……。

 香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、サクッとした食感の後に、濃厚なコーンの甘みが広がる。

 きっと、その香りは成層圏まで届くだろう。

 映画を見ながら無限に食べられるやつだ。


「主よ、こっちだ! こっちを見ろ! 我の本能が叫んでいる!」


 フェンが鼻先でページを捲り、涎を垂らした。


 【雷鳥サンダーバードの極上卵】

 分類:卵(UR)

 説明:

 天空を舞う幻獣、雷鳥の卵。直径30センチほどの黄金色の殻を持つ。

 殻を割るとバチバチと静電気が走るが、中身は極上のカスタードクリームのように濃厚で、とろけるような舌触りを持つ。

 オムレツにすれば、口の中で雲が溶けるような、未体験の食感を味わえるだろう。滋養強壮効果はエリクサー並みとされる。


「カスタードクリームのような黄身……だと?」


 俺の脳裏に、黄金色に輝くオムライスが浮かんだ。

 ナイフを入れると、とろりと溢れ出す半熟卵。

 そこに、天空トウモロコシの濃厚なコーンスープを添えて……。

 パンにつけてもいい。そのまま飲んでもいい。


「ダメだ、ヨダレが止まらん! これはもう、食材じゃない。飲む宝石だ!」

「ルークス様! 見てくださいまし! 『雲の綿飴クラウド・コットン』ですって!」


 エレナ様とマキナも、スイーツのページに夢中だ。


 【雲の綿飴クラウド・コットン

 説明:

 特定の気象条件でのみ発生する、甘い積乱雲。

 手でちぎって食べることができ、口に入れた瞬間にシュワリと溶けて、花の蜜のような香りを残す。


 早朝の甘い雲を手でちぎって食べる。なんてメルヘンで、なんて美味しそうなんだ。

 空そのものを食べるような体験だ。


「決まりだな。……何としても、空へ行くぞ」


 俺たちの瞳に、決意の炎が宿った。

 それは冒険心ではない。純粋な食欲だ。

 空に浮かぶ島だろうが、雷雲の中だろうが、美味いものがあるなら、そこは俺の農場だ。


 ◇


 数時間後。

 夕暮れが近づく頃、工房のシャッターが開き、ゴードンがすすだらけの顔で出てきた。

 その顔は疲労困憊しているが、目だけはギラギラと輝いている。


「……できたぞ。化け物が産まれちまった」


 俺たちが広場に出ると、そこには以前とは雰囲気の違うキャンピングカーが鎮座していた。

 外見は変わらない。銀色の流線型のボディだ。

 だが、車体の底面から、青白い光の粒子マナが漏れ出し、地面の砂を巻き上げている。

 そして何より、タイヤが地面についていない。

 数センチほど、フワフワと浮いているのだ。


重力制御術式アンチ・グラビティを組み込んだ新型エンジン……名付けて『アクア・ドライブ・システム』じゃ。海神の涙の無限に近い魔力を変換し、車体にかかる重力を完全に無効化する。……アクセルを踏み込めば、一気に成層圏までカッ飛ぶぞ。理論上は、大気圏外までもな」


 ゴードンが、我が子を見るような、そして恐ろしい兵器を見るような目で車を撫でた。


「すごいな……。タイヤを収納したら、完全に宇宙船じゃないか」

「ああ。それに、防御結界も強化しておいた。上空の薄い空気や寒さも、車内なら関係ない。Tシャツ一枚で成層圏をドライブできるぞ」


 俺はゴードンの肩を叩いた。


「ありがとう、ゴードン。最高の仕事だ。これなら、どんな高い場所にある野菜も収穫に行ける」

「ふん。礼には及ばん。……その代わり、空の土産話を期待してるぞ。あと、その『雷鳥の卵』とやら、ワシにも食わせろよ?」

「もちろんさ!」


 ◇


 そして、翌朝。出発の時。

 快晴の空の下、村人たちが遠巻きに見守る中、俺、フェン、エレナ様、マキナ、フィオナ、マリアさん、そしてガリウス所長が乗り込んだ。

 全員、シートベルトを厳重に締める。マキナはワクワクして足をバタつかせている。


「システム・オールグリーン。動力炉出力、安定。……反重力エンジン、接続」


 俺がダッシュボードに追加された青いスイッチを入れると、車体が微かに震えた。

 

 ヒュオォォォォォ……!


 足元から、今までの魔導エンジンとは異なる、高周波の駆動音が響く。

 青い光が強まり、車体が静かに、しかし力強く上昇を始めた。

 1メートル、10メートル、50メートル。

 ふわり、というよりは、世界の方から離れていくような感覚だ。

 見慣れた屋敷の屋根が、ゴードンの工房が、村の広場が、眼下へと遠ざかっていく。


「うおおおっ! ルークス様の家が飛んだー!」

「空飛ぶ城だ! 行ってらっしゃーい! お土産待ってるぞー!」


 村人たちが帽子を振って見送ってくれる。

 ハンス村長が、口を開けて空を見上げているのが豆粒のように見える。

 俺は窓から手を振り返し、そしてハンドル(操縦桿)を引いた。


「よし、行くぞ! 目標、雲の上の『天空の浮島』! 高度1万メートルへ! 最大出力、発進!」


 俺がアクセルを踏み込むと、背中がシートに押し付けられた。


 ズドォォォォォンッ!!!!!


 青い閃光と共に、キャンピングカーは垂直に空へと射出された。

 ロケットのような加速。

 強烈なGがかかるが、車内の『慣性制御結界』がそれを中和し、コーヒーカップの水面すら揺らさない。


 一瞬で村が消え、山脈がジオラマになり、雲が迫ってくる。

 白い霧の中を突き抜ける。

 視界が真っ白に染まる。


 シュバッ!


 雲を突き抜けた瞬間。

 そこには、突き抜けるような群青色の空と、遮るもののない太陽の光が広がっていた。

 成層圏に近い、深い青の世界。


 そして、その遥か前方に――。


「……あれか」


 俺たちは息を呑んだ。

 空に浮かぶ、巨大な島。

 いや、島というにはあまりに巨大な、浮遊大陸。

 緑に覆われたその大地からは、幾筋もの滝が雲海へと注ぎ、虹を架けている。

 そして中心には、天を突くほど巨大な緑のツル――『ジャックと豆の木』に出てくるような巨大植物が、さらに上空へと伸び、その先に黄金色の輝きを放つ何かが見える。


 【システム通知:新エリア『天空の浮島スカイ・ガーデン』に到達しました】

 【環境適応:低酸素・低重力エリア】


「あれが……天空の農場か」


 俺はニヤリと笑い、傍らに置いてあった『真・アダマンタイトの鍬』を握りしめた。

 あの大地の全てが、まだ見ぬ食材の宝庫だ。


「耕しがいがありそうだ。……待ってろよ、天空トウモロコシ! 雷鳥の卵!」


 最強の農民と愉快な仲間たちを乗せた空飛ぶ車は、新たな食材を求めて、未知なる浮遊大陸へと着陸態勢に入った。

 空の旅は、ここからが本番だ。

 俺の鍬が、空の土をどう耕すのか、楽しみで仕方がない。



【読者へのメッセージ】

第二百六十七話、いかがでしたでしょうか。

ついに空へ!

国宝級アイテムを「バッテリー」にしてしまうルークスの豪快さと、ドワーフの技術力が合わさり、キャンピングカーは宇宙船並みのスペックへ進化しました。

そして明かされた「天空の食材カタログ」。

雷で弾けるポップコーンに、とろける雷鳥の卵……文字を打ちながらお腹が空いてきました。

次回、いよいよ天空の浮島へ上陸!

そこで待っているのは、美味しい野菜か、それとも空の守護者モンスターか?

ルークスの「空の農場開拓記」、スタートです!

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