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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第二百六十六話:帰還報告会。黄金マグロの漬け丼と、空飛ぶ島への招待状

 潮風の匂いが、次第に土と若草の匂いへと変わっていく。

 魔導キャンピングカーのフロントガラス越しに見える景色は、どこまでも続く水平線から、見慣れた緑の山々と、黄金色に輝く小麦畑へと移り変わっていた。


「戻ってきたな……。やっぱり、ここが一番落ち着く」


 俺、ルークス・グルトは、運転席でハンドル(ゴーレム・アーム)を撫でながら、心底安堵の息を吐いた。

 深海での大冒険。

 霧の海での人魚姫との出会い。海底都市の危機。そして伝説の巨大魚との死闘(という名の収穫作業)。

 濃密すぎる数日間だったが、やはり我が家――リーフ村の風景を見ると、張り詰めていた糸が緩むのを感じる。


「主よ、早く降りようぞ! 冷蔵庫の中の『黄金の塊』が気になって仕方がない!」


 助手席で、フェンがソワソワと尻尾を振っている。

 彼の頭の中は、すでにマグロでいっぱいだ。

 後部座席では、エレナ様やマキナたちが「お土産話、何からしましょうか!」と盛り上がっている。


 ズズズズズ……ンッ。


 全長12メートルの銀色の巨体が、村の広場に静かに着地する。

 プシューッという排気音と共にサイドドアが開くと、そこにはすでに異変を察知した村人たちが集まっていた。


「お、おい見ろ! 銀色の城が空から降ってきたぞ!」

「またルークス様の新しい魔道具か? 今度は家ごと移動してきたのか?」

「ルークス様だ! ご無事で!」


 村長のハンスさんや、父さん、母さんが農具を持ったまま駆け寄ってくる。

 俺はステップを降り、大きく手を振った。


「ただいま戻りました! みんな、土産話とお土産、山ほどありますよ!」


 ◇


 広場に巨大なブルーシート(これもポイント品)を広げ、俺はアイテムボックスから今回の戦利品を次々と取り出した。

 まずは、ジャブだ。


「これ、人魚の国で採れた『深海真珠』と『七色珊瑚』です。女性陣にはネックレスや髪飾りに。男性陣は……まあ、奥さんへのご機嫌取りに使ってください」


 ザララララ……!

 俺がバスケットいっぱいの宝石を無造作にぶちまけると、村の女性たちから「きゃあああっ!」という悲鳴に近い歓声が上がった。

 王都の宝石店なら卒倒する光景だが、ウチでは「綺麗な石ころ」扱いだ。子供たちがビー玉のように遊んでいる。


「次にゴードン。これ、約束の動力源だ」


 俺は拳大の青い宝石――【海神のアクア・クリスタル】を放り投げた。

 綺麗な放物線を描いて、ドワーフの鍛冶師の手元へ。


「おっと!?」


 受け取ったゴードンが、その内包する魔力を肌で感じ取った瞬間、顔面蒼白になって震え出した。


「ル、ルルル、ルークス!? これ、国宝級じゃねえか! いや、伝説級の魔石だぞ!? 城一つの結界を百年維持できるレベルの代物だ! こ、こんなものをリンゴみたいに放り投げるな! 心臓が止まるわ!」

「え? そうなのか? まあ、キャンピングカーのサブバッテリーくらいにはなるだろ。余ったら溶鉱炉の燃料にしてくれ」

「バッテリーだと!? 燃料だと!? この出力なら、あの車、空どころか宇宙まで飛んでいくぞ!? ……くそっ、腕が鳴るわい!」


 ゴードンが泡を吹いて倒れそうになったが、すぐに職人の目になり、クリスタルを抱きしめて工房へと走っていった。

 よし、これで車の改造も進むだろう。


 そして、俺はニヤリと笑い、本命を取り出した。


「そして、今日のメインディッシュ! みんな、腹を空かせて待っててくれたかい?」


 ドォォォォン!!


 巨大な金色の魚体と、黒く艶やかな昆布の山が現れると、今度は全員が静まり返り、そして一斉に「ゴクリ」と喉を鳴らした。


 【幻の黄金マグロ(ゴールデン・ツナ)】。

 【深海昆布エンシェント・ケルプ】。


 太陽の光を浴びて、マグロの鱗が神々しく輝く。

 その圧倒的な存在感と、漂ってくる潮の香りに、村人たちの本能が「これは美味いものだ」と理解したのだ。


「さあ、マリアさん! 宴の準備だ! 今日は村中総出で『マグロ祭り』ですよ!」


 ◇


 夕暮れ時。

 広場には大鍋とかまどが設置され、村中から集めたまな板と包丁が並んでいた。

 香ばしい匂いと湯気が立ち上り、祭りの熱気が最高潮に達している。


 今日のメニューは、素材の味を極限まで活かした漁師料理――いや、俺が前世の記憶をフル動員して考案した、農民流・究極海鮮フルコースだ。


 まずは、汁物。

 大鍋でコトコトと煮込まれているのは、ただの湯ではない。

 黄金色に透き通った、【深海昆布の極上お吸い物】だ。


「信じられません……。昆布と水だけなのに、この香りは……」


 マリアさんが味見をして、小皿を持ったまま震えている。

 具は、シンプルに村の豆腐と三つ葉だけ。

 だが、その黄金色のスープには、深海のミネラルと数千年の旨味が凝縮されており、一口飲むだけで体が芯から浄化されるような、暴力的なまでの滋味深さがある。

 出汁だけでご飯が食えるレベルだ。


 そして、焼き物。

 炭火の上で豪快に焼かれているのは、【黄金マグロのカマ焼き・スペアリブ風】。

 大人の上半身ほどもある巨大なカマ(エラの後ろの肉)に、特製ニンニク醤油ダレを塗りたくり、遠火でじっくりと焼き上げる。

 脂が炭に落ちて、ジュワッ! ジュワワッ! と音を立てるたびに、食欲を刺激する白煙が立ち上り、村全体を包み込む。

 骨の周りの肉が一番美味い。それを知っている村の呑兵衛たちが、エール片手に焼き上がりを今か今かと待っている。


 だが、真打ちはこれじゃない。

 俺が今、即席のカウンターで、ミスリルの包丁を振るって調理している一品だ。


「よし、漬かり具合は完璧だ」


 大きなボウルの中には、琥珀色のタレに浸かった黄金マグロの切り身。

 使用するのは、赤身と中トロの中間部分。

 タレは、俺の自家製醤油、ドワーフの酒、みりん、そして炒りたてのすり胡麻を合わせた特製ダレだ。

 「漬け」にすることで、マグロの余分な水分が抜け、代わりに旨味の凝縮されたタレが身のねっとりとした繊維の奥まで染み渡る。

 熟成された魚の旨味と、タレのコクが融合した、魔法の調理法だ。


「へい、お待たせ! 『特製・黄金マグロの漬け丼』一丁上がり!」


 俺は丼に盛った酢飯(聖大根酢使用)の上に、タレを纏って艶めく切り身を、花びらのように敷き詰めた。

 一枚、二枚、三枚……ご飯が見えなくなるまで贅沢に。

 中央には窪みを作り、そこへ濃厚な卵黄(コカトリスの卵)を落とす。

 仕上げに、刻み海苔と本ワサビ、そしていり胡麻をパラリ。


 黄金マグロ琥珀タレと太陽(卵黄)。

 まさに、丼の中の宝石箱だ。照明を受けてキラキラと輝いている。


「くぅぅぅ……! 我慢できん! いただくぞ!」


 一番乗りで丼を受け取ったのは、留守番をしていた(ことになっている)ガリウス所長だった。

 彼はスプーンを握りしめ、震える手で卵黄を崩した。

 とろり、と溢れ出したオレンジ色の黄身が、タレの染みたマグロにゆっくりと絡みついていく。

 その、背徳的かつ破壊的なビジュアル。


 ガリウス所長は、黄身とタレが絡んだ切り身と、酢飯を一緒に掬い上げ、大きく口を開けて放り込んだ。


 ……ハムッ。


 一瞬の静寂。

 次の瞬間、ガリウス所長の目から、滝のような涙が噴き出した。


「んんんんん~ッ!! う、美味いぃぃぃっ!!」


 絶叫が、夜空に響き渡る。


「なんだこれは! 刺身とは違う! 身が……身が、ねっとりと舌に絡みついてくる! 噛むたびに、熟成されたマグロの旨味と、甘辛いタレのコクが、口の中で大爆発を起こしている!」


 所長は泣きながら、猛烈な勢いでスプーンを動かす。


「そしてこの卵黄! 反則だ! 濃厚なコクが加わって、まろやかさが限界突破している! 酢飯の酸味が脂を流してくれるから、無限に食えるぞ! 海に行けなくて悔しかったが……この味だけで、私の人生は報われた……!」


 そのリアクションを見て、村人たちも一斉に丼にかっ食らった。


「うめぇぇぇ! こんな魚、食ったことねぇ!」

「ほっぺたが落ちるってのは、このことか!」

「カマ焼きも最高だ! 骨の周りの肉が、箸でほぐれるほど柔らかい!」

「お吸い物が……五臓六腑に染み渡る……! 心が洗われるようだ」


 フェンも、洗面器サイズの特大漬け丼に顔を突っ込んで、ガツガツと音を立てて平らげている。

 鼻先に米粒とゴマをつけて、「おかわり!」と叫ぶ姿は、最強魔獣の威厳など欠片もない。

 エレナ様やマキナも、お上品さをかなぐり捨てて「ルークス様、大盛りでお願いします!」と列に並んでいる。


 広場は、幸福な咀嚼音と、感嘆の声、そして笑顔に包まれていた。

 俺も自分の分の丼をかき込みながら、夜空を見上げた。


 口の中に広がる、ねっとりとしたマグロの旨味。卵黄のコク。そして酢飯の爽やかさ。

 最高だ。


「……やっぱり、家で食う飯が一番美味いな」


 冒険もいい。スリルもいい。美しい景色もいい。

 でも、こうして仲間や家族と、同じ釜の飯を食らい、美味しいものを分け合う時間こそが、俺の求めていた「スローライフ」の真髄だ。

 黄金マグロの味を噛み締めながら、俺は心からそう思った。


 ◇


 宴もたけなわとなり、皆が満腹感と幸福感に浸っていた頃。

 澄み渡った夜空から、何かがヒラヒラと舞い落ちてきた。


「ん? 雪か?」


 いや、違う。季節は初夏だ。

 俺が手を伸ばして掴んだそれは、一枚の純白の羽根だった。

 鳥の羽根ではない。もっと大きく、虹色の光沢があり、微かな魔力を帯びている。

 掌に乗せると、温かい。


 その時。

 ピロリン♪ というシステム音が脳内に響いた。


 【クエスト発生:天空の浮島スカイ・ガーデンへの招待】

 【入手アイテム:天使の招待状(羽根)】

 【解説:遥か上空に浮かぶ伝説の島。そこには、雲で作られた綿飴や、空の魔力を吸って育った『天空トウモロコシ』、そして『雷鳥の極上卵』が存在すると言われている】

 【推奨レベル:測定不能】


「……天空……トウモロコシ?」


 俺の目が、カッと見開かれた。

 マグロの次は、トウモロコシか。

 醤油を塗って焼いた、香ばしい焼きトウモロコシ。

 甘みを凝縮したコーンスープ。

 そして、弾けるポップコーン。

 想像しただけで、満腹のはずの胃袋に新たなスペース(別腹)が生まれた気がする。


「おい、ルークス。何をニヤニヤしておるんじゃ? 酔っ払ったか?」


 ゴードンが、ジョッキ片手に怪訝な顔をする。

 俺は羽根を握りしめ、夜空に浮かぶ月を見上げてニヤリと笑った。


「いや、なんでもないさ。……ただ、次は『上』かなと思ってな」

「上?」

「ああ。海を制した次は、空だ」


 俺は立ち上がり、広場の隅に停められたキャンピングカーを見やった。

 ゴードンが『海神の涙』を組み込んで改造すれば、あの車、本当に空だって飛べるようになるんじゃないか?


「待ってろよ、天空の食材たち。……全部収穫して、最高の料理にしてやるからな」


 最強の農民の、次なるターゲットが決まった瞬間だった。

 俺たちの食欲と冒険は、まだまだ留まるところを知らない。

 空の彼方で待つ未知の味覚に思いを馳せながら、俺は残りの漬け丼を豪快にかき込んだ。


 (深海編・完 → 次章・天空編へ続く)



【読者へのメッセージ】

第二百六十六話、お楽しみいただけましたでしょうか!

激しい戦いの後は、最高の飯テロ回です。

「黄金マグロの漬け丼」。

ねっとりとした食感、タレの染みた赤身、そして卵黄のコク……。

文字だけでお腹が鳴るような描写を目指しました。

村のみんなで美味しさを分かち合う、これぞ大団円です。

そして、空から舞い降りた一枚の羽根。

どうやらルークスの次なる目的地は「天空の浮島」のようです。

空飛ぶトウモロコシに、雲の綿飴?

ファンタジー全開の食材を求めて、最強農民は空へ飛び立ちます!

次章「天空編」も、ワクワクと空腹をお届けしますので、ぜひご期待ください!

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