表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
248/260

第二百四十六話:真冬の甘味。雪室(ゆきむろ)リンゴと、ポイント製パイシートの誘惑


 石狩鍋による脂とカロリーの補給を終えた翌日。

 リーフ村は相変わらず深い雪に閉ざされていたが、俺、ルークス・グルトはスコップを担ぎ、自宅の裏庭にある「雪山」の前に立っていた。

 ただの除雪された雪の山ではない。ここは俺が作った天然の冷蔵庫――『雪室ゆきむろ』だ。


「よし。……そろそろ熟成のピークを迎えているはずだ」


 俺は雪山の一角を掘り返した。

 ザクッ、ザクッ。

 白い雪の中から現れたのは、わらに包まれた木箱。蓋を開けると、そこには鮮やかな真紅の果実が、宝石のように眠っていた。

 晩秋に収穫し、あえてすぐには食べず、雪の中で寝かせておいた『聖樹リンゴ(フジ種)』だ。


「……雪の中で保存することで、リンゴは寒さから身を守ろうと、自らのデンプンを『糖』に変える。糖度が極限まで高まった、完熟リンゴの完成だ」


 俺は一つを取り出し、服で拭ってガブリとかじりついた。


 ――パリンッ! ジュワァ……。


 硬質な音と共に、口の中に溢れ出すのは、果汁というより「蜜」そのもの。

 強烈な甘み。酸味は角が取れ、まろやかになっている。


「……甘い! 砂糖なしでもジャムができるレベルだ。……さて、こいつを最高のお菓子にするには、現地の小麦粉とバターじゃ限界があるな」


 俺はニヤリと笑い、リビングに戻ると、虚空に向かって指を滑らせた。


「システム、起動」


 青白く発光する『農業ポイント交換システム』のウィンドウが展開される。

 俺が求めているのは、異世界の技術では再現不可能な「プロの仕事」だ。


「悪いな、俺は楽をして美味いものが食いたいんだ。パイ生地を粉から作って、バターを折り込んで何層にも重ねるなんて重労働、俺は御免だ。……ここは『企業の努力』を買わせてもらう!」


 俺は迷わず「製菓材料(プロ仕様)」のカテゴリをタップした。


『発酵バター使用・冷凍パイシート(144層・業務用)』:2,500 pt

『GABANシナモンパウダー(大瓶)』:800 pt

『ナツメグパウダー』:500 pt

『明治エッセル・スーパーカップ(業務用2Lサイズ)』:1,200 pt


購入ポチッ!」


 ――チャリン♪


 軽快な課金音と共に、光の粒子が集束し、テーブルの上に「文明の利器」たちが実体化した。

 霜のついた冷凍パイシートの束、香り高いスパイスの瓶、そして巨大なバニラアイスの容器。


『主よ、その薄い板はなんだ? 食べ物か? 紙の束に見えるぞ』

「フェン、これは『パイシート』だ。小麦粉とバターを百四十四回も折り重ねた、職人殺しの芸術品だ」


 ◇


 調理開始だ。

 まずはフィリング(中身)を作る。

 雪室リンゴの皮を剥き、八つ割りにする。フライパンにバターと砂糖を熱し、リンゴを投入。

 ジューッという音と共に、甘い香りが立ち上る。

 ここで、ポイント交換した『シナモン』と『ナツメグ』を、惜しげもなく振りかける。


「……っ!? なにこの香り! スパイシーで……でも甘くて……異国の王宮みたいな匂いがする!」


 フィオナが鼻をヒクつかせる。この世界でスパイスは金と同等の価値がある。それを瓶ごと使う贅沢。

 リンゴがキャラメル色になり、透き通ってきたら火を止める。


 次はパイ生地だ。

 解凍したシートを耐熱皿に敷き詰め、煮詰めたリンゴをたっぷりと乗せる。

 さらに、短冊状に切ったパイシートを、格子状(編み込み)になるように被せ、表面に卵黄を塗って艶を出す。


「オーブンへ投入! あとは待つだけだ!」


 二十分後。

 キッチンから漂ってきたのは、暴力的なまでに芳醇な「焼き菓子」の香り。

 発酵バターが熱されて焦げる香り、小麦の香ばしさ、そしてシナモンとりんごの甘い誘惑。

 

 チーン♪


 焼き上がりだ。

 扉を開けると、そこには黄金色(きつね色)に輝き、ふっくらと膨れ上がった『網目アップルパイ』が鎮座していた。


「完成だ……。だが、まだだ。ここで終わればただのパイだ」


 俺は熱々のパイを切り分け、皿に乗せた。

 そして、冷凍庫(保冷コンテナ)から取り出した、2リットルサイズの巨大なアイスの容器を開け、ディッシャーで真ん丸なボール状にすくい取った。


「行け! 『冷』の爆撃!」


 ドスンッ。

 焼きたて激熱のパイの上に、冷たいバニラアイスの塊が鎮座する。

 パイの熱で、アイスの底がジワジワと溶け出し、白いクリームソースとなって網目の隙間へと流れ込んでいく。


「『焼きたてアップルパイ・ア・ラ・モード』だ! ……アイスが溶けきらないうちに食うぞ!」


 ◇


 俺たちはコタツに入り、スプーンを構えた。

 フィオナがアイスごとパイをすくい取る。


 サクッ……パリパリパリッ!


 軽快すぎる音。

 144層のパイ生地が砕ける、繊細かつリズミカルな響き。


「……いただきます! ……はふっ、んんっ!!」


 フィオナが目を見開き、フリーズした。


「……あ、熱っ! 冷たっ! ……なにこれ、口の中が忙しい! 熱々のリンゴの酸味と、冷たいアイスの甘さが……混ざり合って……とろける!」


 そして、彼女はパイ生地の断面を凝視した。


「そしてこのパイ! サクサクなんてレベルじゃないわ! ハラハラと崩れるような繊細な層……。ルークス、あんたこれを魔法も使わずに手で作ったの!? 信じられない技術よ!」


「俺じゃないさ。『企業努力ポイント』の結晶だよ」


 俺も頬張る。

 バターの濃厚な風味が鼻に抜け、シナモンの香りが全体を引き締める。

 雪室リンゴの凝縮された蜜の甘みは、砂糖では出せない深みがある。

 そして何より、この「温かさ」と「冷たさ」の温度差ギャップ。これこそが、文明の味だ。


『ガフッ! ……うまい! 主よ、この白い冷たいアイス、バケツ一杯分よこせ! 熱い果実とよく合う!』


 フェンも鼻にクリームをつけながら貪り食っている。


 その時。

 遠くから、雪を踏みしめる馬車の音と、「甘い! 甘くて香ばしい匂いがするぞ! これは……シナモンか!?」という叫び声が聞こえてきた。


「……まったく。あの公爵は、甘味処の探知機か何かなのか?」


 俺は苦笑しながら、システムウィンドウを開き、追加のパイシートとアイスを購入した。

 冬の寒さが厳しければ厳しいほど、甘いものは美味くなる。

 雪室の知恵と、現代のチート。

 二つの世界が融合したアップルパイは、瞬く間に皿の上から消滅していった。


---



**【読者へのメッセージ】**

いつもご愛読ありがとうございます!

第二百四十六話、いかがでしたでしょうか?

今回は「現地の知恵(雪室)」と「現代のチート(冷凍パイシート)」の合わせ技です。

パイ生地を粉から作るのは大変ですが、ポイントなら一瞬。

焼きたてのパイに冷たいアイスを乗せる「ア・ラ・モード」は、まさに悪魔の発明ですね。

公爵もこの香りには抗えなかったようです。

「アップルパイ食べたい!」「アイス乗せは正義!」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!

皆様の応援が、ルークスのポイント残高を増やします!

次回、第二百四十七話――「春の訪れ。山菜採りと、天ぷらの苦味」。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ