表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
207/248

第二百五話:王都市場の制圧戦! 腐った既得権益をぶっ壊せ


 王都エストリアの中央市場。

 そこは、この国の食の流通を一手に担う巨大な胃袋であり、同時に、腐敗した既得権益が巣食う魔窟でもあった。


 早朝、出荷前の市場調査マーケティング・リサーチに訪れた俺は、並べられている野菜を見て、深い溜息を吐いた。


「……ひどいな。これで銀貨一枚(約千円)か?」


 木箱に並んでいるのは、水分が抜けてしなしなになったキャベツ、黒ずんだ斑点のあるニンジン、そして小指ほどしかない貧相なジャガイモだ。

 リーフ村なら家畜の餌にするレベルの代物だが、ここでは「特級品」として売られている。


「おい、高すぎるぞ! 先週よりまた値上がりしてるじゃないか!」

「嫌なら買うな。他に行っても同じ値段だぞ?」


 買い物客の主婦が悲鳴を上げ、太った商人がふんぞり返る。

 これが、王都の現状だ。

 『商業ギルド』による流通の独占。彼らは地方の農村から野菜を二束三文で買い叩き、王都までの輸送コストという名目で不当な利益を上乗せし、市民に高値で売りつけている。

 生産者は泣き、消費者は飢え、中抜きの仲介業者だけが肥え太る。

 典型的な、腐った構造だ。


「……なるほど。ここは完全に『腐って』いるな。……耕し甲斐がある」


 俺はニヤリと笑った。

 害虫駆除の次は、土壌改良だ。

 この歪んだ市場原理に、俺の育てた「スラム産野菜」という劇薬をぶち込んでやる。


---


 太陽が高く昇り、市場が最も賑わう昼時。

 俺たちは、中央市場の敷地内ではなく、あえてスラムと平民街の境界線にある広場に陣取った。

 簡易的な屋台に並べられたのは、今朝収穫したばかりの野菜たちだ。

 朝露に濡れて輝く真っ赤なトマト、大人の腕ほどもある太い大根、そして鮮やかな緑色の葉を広げたほうれん草。

 どれもが、王都の人間が見たこともないほどの生命力マナを放っている。


「いらっしゃいませ! 朝採れ野菜はいかがですか!」


 売り子を務めるのは、清潔な作業着(第203話で支給)を着た、スラムの元・浮浪者たちだ。

 彼らの顔には、以前のような卑屈さはない。「自分たちが育てた最高の野菜を売る」という誇りが、背筋を伸ばさせている。


「な、なんだあの野菜は……? 宝石みたいだぞ」

「でも、売ってるのはスラムの連中だろ? 危なくないか?」


 道行く人々が足を止めるが、遠巻きに見るだけで近づこうとしない。長年の偏見と、ギルドへの恐怖がブレーキをかけているのだ。


 そこへ、待っていた「客」が現れた。


「おいおい、勝手な商売は困るなぁ」


 人垣を割って現れたのは、脂ぎった顔に高そうな服を着込んだ男。胸には『商業ギルド・王都支部』のバッジ。後ろには、強面の用心棒を数人引き連れている。


「私はギルドの監査官だ。ここで商売をするには、ギルドの発行する『出店許可証』と、売上の五割を『場所代』として納めるルールになっている。……許可証はあるのかね?」


 監査官がニヤニヤと笑いながら手を差し出す。

 これだ。この「許可証」と「上納金」が、新規参入を阻む壁であり、野菜の価格を高騰させている元凶だ。

 スラムの仲間たちが怯えて身をすくめる。

 だが、俺は一歩前に出た。


「許可証? ありませんよ」


「はっ! ならば即刻撤去だ! 商品は没収、貴様らは不法営業で投獄――」


「おっと、早とちりしないでください。俺たちは『商売』なんてしていませんから」


 俺は懐から、リアム陛下より賜った『王室御用達』の金看板を取り出し、ドンッ! と屋台の上に置いた。

 王家の紋章が、陽光を反射して監査官の脂ぎった顔を照らす。


「なっ……『王室御用達』だと……!? き、貴様、何者だ!?」


「俺はただの農民です。そしてこれは、販売(小売り)ではありません。王室に納品した野菜の『余剰分』を、市民の皆様に無料で『おすそ分け(配布)』しているだけです」


「は、配布だと……? だが、値札がついているじゃないか!」


「いいえ、これは『寄付金の目安』です」


 俺は値札を指差した。そこには『トマト一袋:銅貨五枚(市場の半値)』と書かれているが、隅に小さく『※生産活動への応援寄付金』と書き加えてある。


「俺たちは野菜を配る。受け取った市民が、感謝の気持ちとして箱にお金を入れる。……これは商行為ではなく、善意の寄付活動です。ギルドの管轄外ですよね?」


 これは、前世のパチンコ店における「三店方式」や、グレーゾーンの商法から着想を得た、法の抜けループホールだ。

 本来なら強引な理屈だが、バックに「国王(王室御用達)」がついている以上、役人は強く出られない。


「ぐ、ぐぬぬ……! へ理屈を……! だが、そんな詭弁が通じると思っているのか!」


「通じますよ。陛下は『余の農作業を何人たりとも邪魔することは許さん』と仰いました。……この配布も、次の作物を育てるための『土作り(資金調達)』の一環です。邪魔をするなら、陛下に報告しますが?」


「ヒッ……!」


 監査官の顔色が青から白へ、そして赤へと変わる。

 王の名前を出されては、一介の監査官に手出しはできない。

 彼はギリリと歯噛みし、捨て台詞を吐いた。


「……お、覚えていろ! スラムのゴミ野菜など、誰も口にするものか! 衛生局に通報してやるからな!」


 監査官たちは逃げ帰っていった。

 第一関門、突破だ。


---


 役人は去った。だが、問題はまだ残っている。

 広場を取り囲む市民たちの視線だ。

 彼らは興味深そうに野菜を見ているが、誰一人として手を伸ばそうとしない。


「……やっぱり、スラムの野菜なんて汚いんじゃないか?」

「ギルドに睨まれるのも怖いし……」

「タダより高いものはないって言うしな」


 染み付いた偏見と恐怖は、そう簡単には拭えない。

 この停滞した空気を破るには、強力な「起爆剤」が必要だ。

 誰が見ても「安全」で、「美味しい」と保証できる、圧倒的な説得力を持つサクラが。


(……来たか)


 足元でフェンが、小さく鼻を鳴らした。

 人垣の向こうから、一人の女性が歩み出てくる。

 目深にフードを被り、地味な町娘風の服を着ているが、その歩き方の優雅さまでは隠しきれていない。

 その後ろの物陰には、私服姿の騎士ギデオンと数名の護衛が、ハラハラした様子で控えているのが気配でわかる。


「……あら? とても美味しそうなトマトですわね」


 鈴を転がすような声。

 彼女――エレナ様は、屋台の前に立つと、真っ赤な完熟トマトを一つ手に取った。


「これ、一ついただいてもよろしくて?」


「ええ、どうぞ。……そのままで食べられますよ」


 エレナ様はフードを少し上げ、白磁のような指先でトマトを持ち上げると、躊躇なくその場でかぶりついた。

 

 プチンッ、ジュワァ……。


 静まり返った広場に、瑞々しい音が響く。

 薄い皮が弾け、中から溢れ出した果汁が、彼女の唇を濡らす。


「……んっ……!」


 エレナ様が目を見開き、恍惚の吐息を漏らした。

 それは演技ではない。純粋な「味」への感動だ。


「甘い……! まるで果物みたい! それに、酸味が爽やかで……体が内側から浄化されるようですわ!」


 彼女は口元の果汁を指で拭い、周囲の市民たちに向かって、花が咲くような笑顔を見せた。


「皆さん、これは本物です! 王都の市場にあるものとは比べ物になりません! ……私、これ全部いただきますわ!」


 その瞬間、群衆の理性が決壊した。


「あ、あの綺麗な姉ちゃんが食ってるぞ! 大丈夫なんだ!」

「すげぇ美味そうだったぞ! 俺にもくれ!」

「私にも! 子供に食べさせたいの!」


 ドッと押し寄せる人波。

 「スラムへの偏見」が、「食欲」と「美少女の保証」によって上書きされた瞬間だった。


---


「押さないでください! 野菜は逃げません!」

「並んで! 最後尾はこちらです!」


 屋台は戦場と化した。

 飛ぶように売れる野菜。スラムの売り子たちは、最初は戸惑っていたが、すぐに嬉々として対応に追われ始めた。

 彼らが差し出した野菜を受け取り、客が笑顔で「ありがとう」と言って金を箱に入れる。

 その光景は、彼らが生まれて初めて体験する「尊厳ある労働」だった。


【通知:スラム産野菜の価値を証明しました。……名声ボーナス +2,000pt】

【通知:売り子たちの自己肯定感が向上。……育成ボーナス +500pt】


 一時間後。

 用意していた山のような野菜は、葉っぱ一枚残らず完売していた。

 手元には、寄付金箱に入り切らないほどの銅貨と銀貨の山。


「……すげぇ。全部売れたぞ……!」

「俺たちの作った野菜が……みんなに喜んでもらえた……」


 売り子たちが、空になった木箱を囲んで泣いている。

 俺は彼らの肩を叩いた。


「胸を張れ。お前たちはもう、スラムのゴミあさりじゃない。王都で一番の野菜を作る『生産者』だ」


「へいッ! 旦那様!」


 俺は屋台の片付けを指示しながら、遠くの建物の陰を見た。

 そこには、先ほどの監査官と、さらに恰幅の良い、いかにも悪人面をした男――おそらく商業ギルドの幹部が、こちらを睨みつけているのが見えた。

 ギリリ、と歯噛みする音が聞こえてきそうだ。


「……宣戦布告は完了だな」


 俺は小さく呟いた。

 これは単なる野菜売りじゃない。経済戦争だ。

 俺の安くて美味い野菜が流通すれば、ギルドが独占していた「腐った野菜を高値で売る」ビジネスモデルは崩壊する。

 彼らは必ず、本気で潰しにかかってくるだろう。暴力で、権力で、あるいはもっと汚い手を使って。


 だが、望むところだ。

 俺は懐の「王室御用達」の看板を撫で、ニヤリと笑った。


「次は『流通網』を作るぞ。……王都の食卓を、全部俺の色に染め変えてやる」


 最強の農民による、王都市場制圧作戦。

 その第一ラウンドは、俺たちの完全勝利で幕を閉じた。


---



読者の皆様、第二百五話「王都市場の制圧戦! 腐った既得権益をぶっ壊せ」をお読みいただきありがとうございました!

既得権益を「王室御用達」と「へ理屈」で突破し、ヒロインの飯テロで市場を制圧する。

これぞなろう系の醍醐味! スカッとしていただけましたでしょうか?


しかし、商業ギルドの本気はこれからです。

次回、第二百六話。

「輸送隊を狙う盗賊団と、フェンの進化」。

流通ルートを断とうとするギルドの妨害工作。

街道での戦闘で、ついにフェンが新たな形態へ!?

続きが気になる方は、ぜひ【評価】や【ブックマーク】をお願いします!

皆様の応援が、ルークスの「次なる一手」になります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ