表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
208/246

第二百六話:輸送隊の危機と、フェンの課金進化(ペイ・トゥ・ウィン)

 王都の市場に革命を起こしたスラム農園の野菜たち。

 その評判は日増しに高まり、直売所には毎朝長蛇の列ができている。

 だが、事業が拡大すれば、新たなボトルネック(障害)が発生するのは世の常だ。


「……遅いな」


 俺はスラムと市場を繋ぐ路地裏で、腕時計代わりの太陽の位置を確認して眉をひそめた。

 現在の最大の問題点。それは「物流」だ。

 生産拠点はスラムの奥地。販売所は平民街の広場。この間を移動する手段は、今のところスラムの住人たちが引く、人力の古ぼけた荷車しかない。

 道は悪く、時間はかかり、何より――


「……嫌な予感がする。フェン、行くぞ」

「ふん。主よ、鼻が利くな。風に乗って、焦げ臭い硝煙と、腐った人間の臭いがするぞ」


 俺とフェンは路地を駆けた。


---


 予感は的中した。

 路地裏の開けた場所で、我らが輸送隊は立ち往生していた。

 荷車を取り囲んでいるのは、柄の悪い男たち。お揃いの黒い鉢巻を巻き、手には斧や鉄パイプを持っている。

 王都の裏社会で幅を利かせる半グレ集団『黒牙ブラック・ファング』だ。


「お、おい! やめてくれ! これは俺たちが育てた大事な野菜なんだ!」

「どいてくれ! お客さんが待ってるんだ!」


 スラムの若者たちが必死に懇願するが、男たちはニヤニヤと笑いながら道を塞いでいる。


「あぁん? 知らねぇなぁ。ここは俺たちの縄張りだ。通行料を払ってもらおうか」


 リーダー格の男が、荷車に積まれたトマトの木箱を蹴り上げた。


 ガシャァッ!


 箱が地面に落ち、真っ赤な完熟トマトが飛び散る。

 男はそれを革靴の底で、グリグリと踏みにじった。


「おっと、滑っちまった。……へへっ、いい音だ。どうせスラムのゴミ野菜だろ? ゴミがゴミに戻っただけじゃねぇか」


「ああっ……! 俺のトマトが……!」


 若者が悲鳴を上げて駆け寄ろうとするが、別の男が斧を一閃させ、荷車の車輪を叩き割った。


 バキィッ!


 荷車が傾き、大根やカボチャが泥の中に転がり落ちる。

 男たちは人間を殴らない。王室御用達の農民に手を出せば、騎士団が動くことを知っているからだ。だからこそ、より陰湿に、俺たちの「心」と「財布」を狙い撃ちにしてきている。


「ヒャハハ! 運が悪かったな! これじゃあ売り物にならねぇなぁ!」


 男たちが野菜を次々と踏み潰していく。

 瑞々しい果汁が、汚い泥と混ざり合う。

 その光景を見た瞬間、俺の頭の中で何かが切れる音がした。


「……おい」


 俺は路地の入り口から、低く声をかけた。

 男たちが振り返る。


「あ? なんだテメェは……」


「俺を殴るのはいい。俺の悪口を言うのも許そう。……だがな」


 俺は踏み潰されたトマトを見つめ、静かに、しかし煮えたぎる怒りを込めて告げた。


「俺の商品(金ヅル)に手を出す奴は……万死に値する」


「ハッ! なんだその貧弱な兄ちゃんは! やっちまえ!」


 男たちが一斉に襲いかかってくる。その数、三十人以上。

 しかも彼らは散開し、俺ではなく残りの荷車を破壊しようと動き出した。


「くそっ、数が多い! 散らばられたら守りきれない!」


 今の俺には広範囲を制圧する魔法はない。フェンも子犬の姿では、一度に制圧できる範囲に限界がある。

 このままでは、野菜が全滅する。

 今日の売上が、スラムのみんなの努力が、ゼロになる。


(主よ、迷っている暇はないぞ! アレを使え!)


 フェンの鋭い念話が響く。


(アレだ! 先週、アイテム交換リストに追加された『高純度魔石』! あれを我に食わせろ! 一時的だが、全盛期の力を取り戻せる!)


 俺は走りながらウィンドウを開いた。


【アイテム交換:『高純度魔石(闇属性)』 5,000pt】


「ご、五千だと……ッ!?」


 俺は絶句した。

 5,000ポイント。スープを何杯売れば稼げると思っているんだ。スラムの住民百人分の食費に匹敵する大金だ。

 それを、たかが一回の戦闘で使い捨てるだと!?


「高い! 高すぎる! フェン、お前いつもタダ飯食ってるんだから気合でなんとかしろ!」


「バカ者! 野菜が全滅すれば損失はそれ以上だぞ! これだけの『損害あか』を出して、経営者として恥ずかしくないのか!」


 フェンの正論が突き刺さる。

 その時、目の前で、丹精込めて育てた巨大カボチャが、男の鉄パイプで粉砕された。


 パァンッ!


 黄色い中身が飛び散る。

 

「――あ」


 俺の理性が消し飛んだ。

 カボチャスープ百杯分が。俺のポイントが。


「……食えッ! その代わり、一人残らず殲滅(掃除)しろォッ!!」


 俺は怒号と共に購入ボタンを連打した。

 亜空間から現れた、拳大の漆黒の魔石。それを放り投げると、フェンが空中でパクりと食らいついた。


 ガリッ、ボリボリッ。


 次の瞬間。

 路地裏の空気が凍りついた。


「グルァアアアアアアアッ!!!」


 子犬の姿が黒い霧に包まれ、爆発的に膨れ上がる。

 霧が晴れた其処にいたのは、体高3メートルを超す、伝説の魔獣。

 漆黒の毛並み、燃えるような金色の瞳、そして世界を食い千切るような巨大な顎。

 ブラックフェンリル――成獣モード、顕現。


「ひ……ひぃッ!?」

「な、なんだアレは……! 狼……いや、化け物……!?」


 半グレたちの動きが止まる。腰を抜かし、武器を取り落とす者もいる。

 生物としての格が違いすぎる。食物連鎖の頂点に立つ存在の前に、チンピラ風情が立っていられるはずがない。


「……我の主の供物を踏み荒らした罪」


 フェンが低い声で唸るだけで、路地裏の窓ガラスがビリビリと震えた。


「その薄汚い魂で償ってもらうぞ」


「――『絶叫ハウル』」


 WOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!


 フェンが一吠えした瞬間、物理的な衝撃波が路地を駆け抜けた。

 男たちの鼓膜が破れんばかりに振動し、平衡感覚を失い、全員が白目を剥いて地面に崩れ落ちる。

 爪も牙も使わない。ただの声だけで、三十人の暴徒が制圧された。


「……やりすぎだバカ犬。荷車までひっくり返ってるじゃないか」


 俺はフラフラになりながらも、全滅した敵を見下ろした。

 野菜は守られた。だが、被害は甚大だ。

 壊された車輪、踏み潰されたトマト、そして何より……消費した5,000pt。


「……赤字だ。今日一日、タダ働き決定だ」


 元の可愛い子犬に戻り、「ぷふー、食った食った」と欠伸をしているフェンを睨みつけながら、俺は膝をついた。


「見事な手並みだ。……それに、凄まじい従魔だな」


 その時、路地の影から拍手が聞こえた。

 俺が警戒して振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

 油の染み付いた革ジャンに、商人とは思えない鋭い目つき。背後には、屈強な男たちと、頑丈そうな大型の荷馬車が控えている。


「誰だ。……ギルドの追手か?」


「いいや。俺はロベルト。この界隈で運送業をやってる者だ。……ずっと見てたぜ、あんたらの商売」


 ロベルトと名乗った男は、壊れた荷車と、俺の絶望的な顔を見てニヤリと笑った。


「あんた、商品は最高だ。だがあの犬っころ以外、運び方が素人すぎる。……どうだ? 俺と手を組まないか? あんたの野菜を、俺のルートで王都中に運んでやるよ」


 物流のプロ。

 まさに今、俺が喉から手が出るほど欲しかった人材。

 だが、タダで話に乗るほど俺は甘くない。


「……話は聞こう。だが、手数料は高いぞ?」


「ハッ、強気だな。……面白ぇ。商談といこうか、王室御用達の農民様」


 破壊された野菜の残骸の上で、新たな契約の芽が生まれようとしていた。

 経済戦争・第二ラウンド。

 次は「物流」を制した者が、王都を制する。


---



読者の皆様、第二百六話「輸送隊の危機と、フェンの課金進化」をお読みいただきありがとうございました!

5,000ポイントという巨額投資(課金)による、フェンの圧倒的無双!

スカッとしましたが、ルークスの懐事情は氷河期です……。

しかし、そこで現れた新たな協力者。

ここからルークスの「販売網」はどう進化するのか!?


次回、第二百七話。

「王都物流網の構築と、貴族街への逆襲」。

ロベルトとの提携で、ついにルークスの野菜が貴族の食卓へ!?

続きが気になる方は、ぜひ【評価】や【ブックマーク】をお願いします!

皆様の一票が、ルークスの「赤字補填」になります!(泣)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ