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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第百五十話:王都崩壊のカウントダウン、あるいは豊作の呪い


 王都エストリア。

 この国の心臓部とも言える巨大な市場は今、かつてない「静かなる恐怖」に支配されていた。

 数日前まで、この街のパンの価格は、宰相オルコ卿による執拗な買い占めによって、平民には手の届かない「金色の宝石」へと化していた。


「……報告しろ。市場の様子はどうだ」


 王宮の一室。冷酷な宰相オルコは、窓の外を見下ろしながら、跪く文官に低く問いかけた。

 彼の計画は完璧だったはずだ。王都周辺の穀物を独占し、飢えを演出し、辺境伯領からの流通を「税」という名の壁で遮断する。そうすれば、辺境伯は折れ、あの『神童』を差し出すはずだった。


「そ、それが……。今朝から、市場に正体不明の『大麦』が大量に流入しております」


「……何だと? どこからだ。辺境の関所は完全に封鎖しているはずだぞ」


「わかりません! 各地の零細商人や、没落した貴族の倉庫から、小規模なルートでバラバラに運び込まれており……。どれも品質は王族に捧げるレベル。しかも価格は、我が方の『買い占め価格』の三分の一以下です!」


 オルコは、手にした羽根ペンをミシリと鳴らした。

 市場経済の基本は需要と供給だ。独占による高値は、圧倒的な「供給」をぶつけられれば一瞬で崩壊する。


「莫迦な……! この冬の時期に、それほどの量の、しかも高品質な麦をどこで収穫したというのだ! 魔法か!? 禁忌の魔導具でも使ったのか!」


「商人間では『氷晶大麦』と呼ばれております……。寒さに強く、驚異的な速度で育つと。……オルコ卿、このままでは、我が方が高値で買い占めた数万トンの穀物は、売れ残ったまま価値を失い……膨大な赤字(負債)となります!」


「黙れッ!!」


 オルコが叫んだその時。王都の広場では、民衆たちが「安くて旨い麦」に歓喜の声を上げていた。

 宰相の権力が、一粒の「種」によって、根底から腐り始めていた。


---


 一方、その頃のリーフ村。

 王都が阿鼻叫喚の渦に叩き落とされていることなど、どこ吹く風。

 秋の爽やかな風が吹き抜けるなか、俺の家の食卓には、何とも香ばしい、それでいて瑞々しい香りが満ちていた。


「あはは、マキナ、そんなに慌てて食べなくても逃げないよ」

「だっで、おひひいんだもん! おにーちゃん!」


 十歳の妹マキナが、口の周りに粉をつけながら、焼き立てのパンを頬張っている。

 それは、収穫したばかりの『氷晶大麦』を粉にし、隠し味にポイントで交換した【天然酵母のエッセンス(200pt)】を加えて焼き上げた、特別なパンだ。


「……本当に、信じられん。三週間前はただの種だったものが、こんなに深い味わいになるとは。ルークス、お前は本当に『土の神』に愛されているな」


 父アルフレッドが、感極まったように麦茶――これも『氷晶大麦』を焙煎して作った、前世の俺が愛した黄金の飲み物だ――を一口飲み、深く溜息をついた。


「ただの工夫ですよ、父さん。……クラウスさん、調子はどうですか?」


 食卓の端で、パンにたっぷりのバターを塗りながら、クラウスが不敵に笑った。


「ああ。王都の『地雷』は予定通り爆発したよ。オルコの息がかかった豪商たちは、今頃、暴落した穀物を抱えて泣き喚いているだろうさ。……奴らが買い占めに使った資金の半分は、もう紙屑ゴミ同然だ」


 クラウスは、ルークスを畏怖の混じった目で見つめた。

 目の前でパンを食べているのは、間違いなく十歳の少年だ。だが、その頭脳が弾き出した「供給の津波」が、国家の宰相を破滅へと追い込んでいる。


「ルークス殿。……この麦、王都では『豊作の呪い』と呼ばれ始めているぞ。あまりに旨くて安いから、誰も他の麦を買わなくなった」


「呪いだなんて、人聞きが悪いな。……俺はただ、市場を『正常化』しただけです。……ね、フェン?」


「主よ、我には難しいことはわからぬが……このパンをあと三つ、いや五つ用意してくれるなら、我はその『おるこ』とやらをいつでも噛み殺しに行ってやるぞ」


 フェンが尻尾をブンブンと振り、パンをおねだりする。

 俺は笑って、フェンの皿に特大のパンを乗せてやった。


(……保有ポイント:6,850pt。……次話あたりで、王都からの利益が確定して一気に跳ね上がるはずだ)


 視界の端で、[L0-V3] の文字が静かに明滅している。

 【 稼働率:0.10% 】


 区切りの良い数字。

 王都の権力が崩壊し、村の食卓が笑顔に満ちる。

 その対価として、俺の中の「何か」が、確実に次の段階へと進もうとしていた。


「おかわり、母さん。……この麦、もっとたくさん植えよう。みんなが、お腹いっぱい食べられるようにね」


 俺は、どこまでも無邪気な「神童」の顔で、空になったカップを差し出した。

 王都を震撼させた「地雷」の主は、今、最高に平和な朝ごはんを楽しんでいた。


---



【読者へのメッセージ】

第百五十話、最後までお読みいただきありがとうございます!

王都での宰相オルコの発狂と、リーフ村での平和な食卓。この「格差」こそが、ルークスによる最高の反撃ですね。

「供給で敵を殺す」という、農民ならではの、そして元経理らしい戦略的勝利……楽しんでいただけたでしょうか。


次回、追い詰められたオルコが禁じ手に打って出る!?

そしてルークスのポイントが前代未聞の桁に到達……!?

「ザマァ展開が加速してきた!」「麦茶飲みたい!」という方は、ぜひ評価やブックマークで応援をお願いします!


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