表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/157

第百四十九話:種を蒔くのは、王都の絶望


 穏やかな休息の翌日。リーフ村の朝は、一通の早馬が巻き上げる土煙によって、唐突に破られた。


「ルークス殿! 辺境伯レオナルド閣下よりの緊急親書だ! 大至急、確認を!」


 駆け込んできたのは、辺境伯領の正規騎士の鎧を纏った、若き伝令兵だった。俺は、父アルフレッドと共に村の広場でそれを受け取った。封蝋を砕き、羊皮紙を広げると、そこにはレオナルド様の力強い筆致で、王都のドロドロとした暗雲が記されていた。


『宰相オルコ、ついに牙を剥いた。王都周辺の穀物買収を強行し、意図的な食糧危機を煽り始めている。さらに、辺境伯領からの流通に対し、法外な関税を課す「臨時安保税」を王に奏上した。……ルークス、奴はお前を引きずり出すために、王都の民の胃袋を人質に取ったぞ』


(……なるほど。前世の独占禁止法や不当廉売規制があれば即座に逮捕ものですが、この世界じゃ「王の耳」を握った奴がルールだ。権力者の身勝手で市場を歪める……ブラック企業のワンマン経営者と何も変わらないな)


 俺は親書を握りしめ、視界の端に浮かぶシステムウィンドウをスワイプした。

 【保有ポイント:6,850pt】


(オルコ卿。あんたは俺を「便利なシステム」として手に入れたいんだろうけど、やり方が致命的に間違っている。農民を……いや、元「社畜の執念」を持つ農民を怒らせたらどうなるか、その身で味わってもらおう)


 俺は、不安げな表情でこちらを見つめる父と、馬の荒い鼻息を鎮めている伝令兵を振り返った。


「父さん。リーフ村の『冬の備え』、今年は少しやり方を変えよう。……全村人を広場に集めて。それから、行商人のクラウスさんを大至急呼んでほしい。彼なら今頃、隣町の宿場にいるはずだ」


---


 数時間後。村の集会所には、村長ハンスを筆頭とした村の有力者たちと、ルークスの呼び出しに馬を飛ばしてきたクラウスが顔を揃えていた。


「ルークスよ、一体何を始めるつもりだ? 辺境伯様からの不穏な知らせを聞いたぞ。今は大人しく閉じこもって、嵐が過ぎるのを待つべきではないのか?」

 ハンス村長が、震える手で杖を突く。村人たちの間にも、王都の権力という「見えない巨像」への恐怖が広がっていた。だが、クラウスだけは、鋭い商人の嗅覚を働かせてニヤリと口角を上げていた。


「いや、村長。この少年がわざわざ俺を指名したんだ。ただの『守り』で終わるはずがない。……そうだろ、十歳の知恵者殿?」


「ええ、クラウスさん。……俺が提案したいのは、王都の喉元に刺さる『黄金のトゲ』……いえ、『経済の地雷』です」


 俺は、ポイントで交換した「あるもの」をテーブルの上に置いた。

 それは、一見するとただの、どこにでもある『大麦の種』だ。だが、俺が深夜に『土壌改良 Lv.2』と『植物成長加速 Lv.2』を極限まで掛け合わせ、さらに前世のバイオテクノロジーの知識――趣味の家庭菜園動画で得た雑学――で選別した「特製種子」だった。


「これは、極寒の冬でもわずか三週間で収穫でき、かつ、収穫後も半年間は一切の劣化を許さない『氷晶大麦アイス・グレイン』の試作品です。これを、リーフ村、そして信頼できる隣接する村々で、秘密裏に一斉栽培します」


「三週間で収穫!? 馬鹿な、そんなの魔法の杖を振ったって無理だ……。しかも冬に収穫できる麦なんて聞いたことがないぞ!」

 ハンス村長が絶叫する。当然の反応だ。この世界の農業常識を、俺は今、根底から踏み潰そうとしているのだから。


「できますよ。俺の『現代農法』の知識と……まあ、ポイントによる微調整があれば。……クラウスさん、問題は出口戦略です」


 俺は地図を広げ、王都へと続く街道を指差した。


「宰相オルコが王都の食糧を買い占め、価格を吊り上げているなら、その『バブル状態の市場』に、圧倒的に安くて高品質な、それでいて『辺境伯領産』とは一見して分からないルートの食糧を大量投下します」


 クラウスは、俺の言葉の真意を理解した瞬間、一滴の冷や汗を流した。


「……なるほど。各地の小規模農家や、没落した商人の在庫処分を装い、何十もの小規模ルートで王都へ運び込むわけか。オルコが独占している高価な穀物の横に、信じられないほど安くて旨い麦が並び始めたら……」


「ええ。市場価格は暴落します。買い占めに使った宰相府の膨大な資金は、そのまま回収不能な『負債』へと変わる。……さらに、この麦には『ある仕掛け』をしてあります」


 俺は、その麦の種を一つ、光にかざして見せた。


「この麦は、俺が特別に作った『発酵促進剤』……要は特定の肥料ですね、これを与えないと、次世代の発芽能力を失うように設計してあります。王都の強欲な商人が、この麦を『種籾』として奪い取ったとしても、俺の許可なくしては二度と芽吹かない」


 供給の蛇口を、十歳の農民が握る。

 逆らう者には飢えを、従う者には繁栄を。それは、かつて俺を使い潰したブラック企業のトップが持っていた、傲慢なまでの支配力と同じものだ。


「ルークスよ……。お前、本当に十歳か? 腹の中が、冬の夜の闇より真っ黒じゃないか……」

 ハンス村長の呟きに、俺は最大限の「無邪気な神童」の笑みを浮かべて返した。


「失礼ですね。俺はただ、村のみんなが安心して冬を越せるように、市場を『健全化』したいだけですよ」


 [SYSTEM_NOTIFICATION]

 [ミッション:経済の地雷(王都輸出計画)を開始します]

 [推定獲得報酬:20,000pt ~ 50,000pt]

 [プロトコル [L0-V3] 稼働率:0.08% ]


(……愛(LOVE)か。ああ、そうだよ。俺の愛するこの平和を汚す奴には、徹底的な『市場の洗礼』を受けてもらう。……さあ、オルコ卿。あんたの買い占めた穀物が、全部ただの『腐ったゴミ』に変わるまで、徹底的にデリバリーしてやるよ)


 その日の夜。リーフ村の畑には、人知れず淡い金色の光が満ちていた。

 最強の農民による、静かなる侵攻。

 その最初の種は、冷たい秋の土の中で、不敵な意思を宿して芽吹き始めていた。


---




【読者へのメッセージ】

第百四十九話をお読みいただき、ありがとうございます!

ルークスによる本格的な「経済の逆襲」が始まりました。魔法で敵を倒すのではなく、「安くて旨い麦を大量に流して、相手の財政を破綻させる」という、前世の経験を活かしたエグい戦略……いかがでしたでしょうか。


次回、王都の市場は大混乱! 「麦の怪物」と化した特産品が、宰相オルコの喉元に食らいつきます。

「農民の知恵が世界を揺らす瞬間をもっと見たい!」という方は、ぜひ評価やブックマークで応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ