第60章:連れ去られた II
「なんだって?!」千歳がまくし立てた。「お前が上手くできるものなら見せてみろ!」
「じゃあ…どうする?」彩美は千歳の抗議を無視して光瑠とリナを見た。
リナは腕を指でトントンと叩きながら考え込んだ。「…私のズームビジョンを使えば、不審なものを探せるかもしれない」
光瑠が頷いた。「良い考えだ。桜が近くに囚われているなら、何か見つけられるかもしれない」
彩美は伸びをして首をポキポキ鳴らした。「よし。アパートの屋上に行こう。見晴らしがいい」
それ以上言葉を交わすことなく、三人は緊迫した足取りで移動した。
屋上では風が強く、縁に近づく彼らの衣服をビュンビュンと叩きつけた。朝日に照らされた街が彼らの下に広がり、その境界内のどこかで少女が行方不明になっていることなど露知らずの様子だった。
リナは深く息を吸い込み、肩を回してから目が変化し始めた——瞳孔が収縮し、虹彩がかすかに光りながらズームビジョンが発動した。周囲の世界がぼやけ、そして通常の人間の限界を超えて視界が拡大するにつれ鮮明になった。
光瑠と彩美は緊張した沈黙の中で、リナが街をスキャンするのを待った。彼女の頭が微かに動き、異なる地域に焦点を合わせる。数分が過ぎた。
その時、彼女の体が硬直した。
「何か見つけた」彼女は呟いた。
光瑠が近づいた。「どこだ?」
「街の外。森の近くに廃寺がある…動きがある。入口を警護している者たち。それと——」彼女は息を呑んだ。「桜を見た。中にいる」
光瑠が拳を握り締めた。「ならそこへ向かう」
彩美は既にストレッチをしながら笑みを浮かべた。「やっと面白くなってきた」
光瑠の腕の下にまだ挟まれている千歳がうめいた。「お前らは慎重さのかけらもないな」
リナはズームビジョンを解除し、通常の視界に戻るため速くまばたきをした。「慎重になってる時間はない」彼女は光瑠を振り返った。「どれくらい速く着ける?」
光瑠は屋上の反射ガラスパネルを見つめ、手鏡を握る力が強まった。表面がきらめいて反応した。
「十分速く」
***
一方、廃寺の奥深くで、桜はまだ意識を失ったまま薄暗い牢屋の冷たい石床に倒れていた。部屋は湿った土と古い香の匂いがし、割れた壁に長い影を投げる松明の儚い揺らめきがあった。
彼女は微かに身震いし、意識が行ったり来たりする中で柔らかいうめき声を漏らした。頭が痛み、四肢が鉛のように重く——まるで目覚められない夢に囚われているようだった。
牢屋の外で二人の影が警護に立っていた。黒いローブをまとった彼らの顔は儀式的な仮面で隠れ、ひそひそと話していた。
「ただの人間じゃないか」一人が呟いた。
「命令は命令だ」もう一人が答えた。「女神が彼女をここに望んでいる。それだけが重要なのだ」
沈黙が流れた後、最初の人物がため息をついた。「あの少年は来ると思うか?」
二人目の警護員はくすくす笑った。「もちろん来るさ。それが目的なのだから」
牢屋の中で、桜の指がぴくっと動いた。彼女の意識はゆっくりと確実に戻りつつあった。そして目覚めた時、自分がどれほどの危機に陥っているかを悟るだろう。
桜の瞼が震え、ついに細目に開いた。頭がぐらつき、薄暗い光は焦点を合わせるのにほとんど役立たなかった。手の平の下の冷たく粗い石が背筋を震わせながら、彼女はゆっくりと身を起こした。
ここは…どこ?
鉄の重い柵が目の前にある牢屋。時間に削られた古代の壁が揺らめく松明に照らされていた。かすかな香の匂いが漂う中、さらに不安を覚えるもの——乾いた血と古い埃のようなものが混ざっていた。
喉が渇いていたが、彼女は無理やり声を出した。「ねえ…?」
沈黙。
桜は強く唾を飲み込んだ。最後の記憶は自分の部屋にいること——それから仮面の人物、首元の奇妙な圧迫…そして何もかもが闇に消えた。
彼女の指が拳に閉じた。これは夢じゃない。
柵の向こうで囁き声が聞こえた。彼女は鋭く頭を振り、耳を澄ませた。
「注意しろ。あの少年、光瑠は鏡の世界に入れるらしい…いつでも現れる可能性がある」
彼女の息が止まった。光瑠…? 光瑠の話をしてる?
脳内で思考が駆け巡り、パズルのピースがはまる。
桜の鼓動が耳元で鳴り響きながら、冷たい柵に掴まって立ち上がった。
「おい!」彼女の声が石壁に反響した。「なぜ私をここに?!」
外の囁き声が止んだ。
彼女は拳を柵に叩きつけ、内から沸き上がる焦燥感を爆発させた。「何者なのよ?! 私に何が目的なの?!」
足音。ゆっくりと意図的な。
そして、人影が視界に入った。黒いローブに身を包み、フードで顔を隠したその人物は、読み取れない表情で彼女を見下ろした。
「あなたがここにいる理由は」その人物は冷静に言った。「光瑠との繋がりです」
桜の胃が締め付けられた。やはり彼のことが関係しているんだ。
彼女は顎を噛みしめた。「だから何? 彼の関わる神様のくだらない話なんて何も知らないわ」
その人物は柔らかく笑った。「そうかもしれません。ですが、あなたの存在そのものが彼を誘き寄せるには十分なのです」
彼女の指が柵を強く握った。「誘き寄せる…?」声が嗄れた。
その人物は首を傾げた。「彼はあなたを救いに来ます。時間の問題です」
桜の呼吸が速くなった。光瑠のことを知っている——彼なら確かに来る。しかし、その言葉の言い方、声に滲む自信が、彼女の血液を凍らせた。
桜の柵を握る手が緩み、ゆっくりと冷たい石床に座り込んだ。
罠なんだ。
膝に手の平を押し付け、呼吸を整えようとした。私を捕らえたのは光瑠をおびき寄せるため…
思考が混沌と渦巻いた。こんなの狂ってる。神様? 魔法? 私は普通の女の子よ。これに何の関係が?
しかし心の奥底では、答えは分かっていた。光瑠。
彼ができる不可思議なことの一端を彼女は見ていた——普通の理解を超えたものを理解する様子、リナと彼女に聞こえないよう囁く会話。そして今、全てが彼女に追いついたのだ。
彼女は髪をかきむしり、鋭く息を吐いた。「バカみたい」彼女は独り言のように呟いた。「どうしろっていうの? ただここで救いを待ってろ?」
その考えに胃が捩れた。無力で、交換材料にされるのが嫌だった。
拳が再び固まった。いいえ。ただ座ってるわけにはいかない。私を餌にしたいなら、助けを待つ無力なお姫様じゃないってことを教えてやる。
彼女の目が再び鉄柵へ、そして壁の揺らめく松明へと向かった。ゆっくりと、ある考えが形を成し始めた。
***
光瑠、リナ、彩美はミラーワールドの果てしない広がりを飛び、現実世界の歪んだ反射が夢のように下に広がっていた。ここの空気は無重力で、目的地へと疾走する彼らを楽々と運ぶ。
リナの鋭い目が前方の風景に釘付けになった。「あの古い寺院の廃墟を越えた辺りだ」風切音の中で彼女の声は冷静だった。
「なんで私がこんなデカい鏡運ばなきゃなんないのよ?!」彩美が叫んだ。寝室から持ってきた特大の鏡を抱えながら。
「小さい手鏡で酔うよりマシだろ」光瑠は流れるような空を飛びながら即答した。
彩美は彼を睨んだが反論せず、歪んだ世界が夢のような霞に溶ける中、鏡を握りしめたまま前進した。
寺院の廃墟に近づくにつれ、周囲の空気が不自然にきらめき、波打った。近づけば近づくほど、ミラーワールドが彼らを拒むかのようだった——見えない力が押し返そうとしている。
リナが目を細めた。「何かおかしい」
光瑠もそれを感じていた。通常のミラーワールドの軽やかさが、今や水の中を歩くように鈍重だった。「結界かもしれない。神が関わってるなら、扉を開けっぱなしにはしない」
彩美は鏡の持ち方を調整しながら吐息をついた。「素晴らしい。で、どうする? 突っ込むか、賢くやるか?」
「その…まずは周囲を探るとか」光瑠が提案した。「隙間とか変なところがないか。ミラーワールドにいる限り、気づかれないだろ?」
リナは周囲の変化する空気を見回し、考え込んだ。「試す価値はある。やみくもに突撃するよりマシだ」
彩美はため息をついた。「わかったよ。でもこれ以上重くなったら誰かに投げつけるから」
三人は慎重に降下し、廃墟の歪んだ反射の上に着地した。この場所はミラーワールドでさらに不気味に見えた——不自然な角度に曲がった構造物、意思があるかのように動く異様に長い影。
光瑠は慎重に一歩踏み出し、足元の地面が微かに波打った。「結界があるはずじゃ…?」
「桜を誘拐した神の信奉者が結界を作れるならそうかも」彩美は鏡を置きながら呟いた。「でもそうでないなら、単に場所の隔絶を頼りにしてるのかも」
リナは緊張した面持ちで周囲を見渡した。「どちらにせよ、気づかれずに入れると思うな」
継続すること。




