第59章:連れ去られた
ヒカルとリナは一秒も無駄にしなかった。状況の重みが胸に落ちた瞬間、二人はすでに教室を飛び出し、廊下を駆け抜けていた。
「おい!どこに行くの—?」リサが声を上げたが、二人はもういなくなっていた。
廊下の生徒たちが困惑した視線を向ける中、彼らは校門を押し開き、外へ飛び出した。
門の警備員が鋭い目を向ける。「どこに行くつもりだ?授業が始まったばかりだぞ!」
リナはスピードを緩めず、「大事なものを忘れたのよ!」と叫んだ。
「何がそんなに大切なんだ—」
「家族の緊急事態だ!」ヒカルが即座に続けた。
警備員は制止すべきか迷ったが、口を開く前に二人はすでに通り過ぎ、街へと消えていた。
走りながら、ヒカルは『千斬』を握りしめた。「千斬!桜を見つけないと。今すぐ」
本が苛立たしげにページを揺らす。「朝の挨拶は?—待て、何だって?彼女がどうかしたのか?」
「桜がいなくなった」ヒカルの声は緊張に震えていた。「誰も行方を知らない。お前が『全ての書』なら、探せ」
千斬のページが風を切り、墨の光が脈打つ。「待て。人捜しはレシピ検索じゃない—」
待てない!」リナがさらに速度を上げた。
千斬は不満を漏らしつつも集中し、ページがゆっくりと文字を再構成する。光が強まり—
「見つけた」
ヒカルの呼吸が止まった。「どこに?」
千斬の声が低く、鋭く響く。「この街にはいない。連れ去られた」
二人は急停止し、朝の静けさを切り裂く息遣いが周囲に響いた。
「『連れ去られた』ってどういうことだ?」ヒカルは本を握り締め、鼓動が耳を打つ。「誰に?」
ページが水紋のように揺れ、文字が浮かび上がる。「正確な人物は不明だが…計画的だ」
「誰が?」ヒカルの拳が固まる。
沈黙が流れ、やがて墨が再び動く。「答えは…君たちが望むものではない」
リナの目が鋭くなる。「試してみろ」
「神に関係している」
ヒカルの胃が落ちた。リナが舌打ちする。「神が桜を誘拐したと?」
「神か、その手下か—だが、目的はただの遊びじゃない」
ヒカルは思考を巡らせる。なぜ桜が?
「リナ、鏡を持ってるか?」
「ああ」彼女はハンドバッグから小さな鏡を出す。「鏡の世界に行くぞ」
ヒカルは鏡をつかみ、映った自分と一瞬目が合う。水面のように揺らめくガラスを抜け—
彼らは鏡の世界に立っていた。静寂が重く、ヒカルは目を閉じ、力を解放する。世界が彼の意志に従い、空へ浮かび上がる。
「飛んでるわ」リナが息を吞む。
「アヤミさんを探して、状況を説明する」
現実世界では、アヤミがベッドで寝息を立てていた。
鏡が揺らぎ、ヒカルとリナが水をすり抜ける幽霊のように現れる。
「まだ寝てるわ」リナが呟く。
ヒカルは頬をつねり、「起きろ、起きろ」と繰り返す。
「…あと十分…」アヤミがもぞもぞと手を振り払う。
「猫か。おやつで起こせばよかった」
ヒカルは迷わず彼女の鼻をつまんだ。
「!?」アヤミが目を見開き、咳き込みながら起き上がる。「何するのよ!」
「桜が誘拐された」
眠気が一瞬で消える。「は?」
ヒカルが説明を終えると、アヤミは髪をかき上げ、「どの神だ?」と問う。
「不明。でも計画的だ」リナが腕を組む。
「桜って誰だっけ?」
「ただの人間。クラスメートだ」
アヤミが水を飲み—突然、千斬に吹き出す。「反射だよ」
「この本に唾を吐くな!インクが滲むだろうが!」
「で?桜はどこに?」
千斬が神の気配を感知した場所を示すと、アヤミは眉をひそめた。「…無能な魔法の本だな」
継続すること。




