第二十話 フェリシア対グレン
学園内の騎士科に在る一対一用の闘技場の上
「大公子様どうしました?性根を叩き直していただけるのでは?」
ロングソードより遥に長く重いグレートソードを軽々と振るって見せるフェリシアと対称的に片膝を着き鼻血を出しているグレン大公子
「黙れ男女!」
圧倒的に身体能力で勝るはずの獣人にとって屈辱だが、それよりも目の前の人族の女が化け物じみた剣を振るっている姿の方が驚愕だった
「グレートソードって飾りじゃなかったのか?実際に使える奴初めて見たわ」
「フェリシアって地稽古そんなに強くなかったよな?手を抜いてた?」
「七公(爵令)女はうちの父ちゃんがゴリラだって言ってたのは本当だったんだ!」
最後の奴、顔は覚えたからね。付き添いのヘレネが何やら物騒だがそんな事も気にならない程、フェリシアの真の実力を知るヘレネと教官以外は驚愕の表情で固唾をのんでいる
五・六割くらいで抑えるって言ってたのにフェリシアの馬鹿!ヘレネは内心で愚痴っていた
こうなった原因は昨晩の夕餉のあとの話し合いが切っ掛けだ
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シンディを含めた公爵令嬢八人は夕餉も終わりアリシアを先に退席させたあと
「そこで私はヘレネお姉様を見習ってガツンと言ってやったんです!」
「おお!さっすがシンディ我が妹!」
妹は武勇伝を語り、姉が褒めちぎる茶番が繰り広げられ盛り上がっているのは二人だけ
「っそれで?」
食事をしながらフェリシアが間の手を入れるが聞いているわけではない、本人は騎士科の鍛錬で遅れた食事に夢中で邪魔されたくないだけ
「これで、一人の男を巡って二人の男が争う夢のトライアングル…違ったわ、国際問題の火種に成りかねないわ」
ぽろっとジュリアの口から本音がこぼれかけてしまう、セレーネも口を挟み
「BL嫌いじゃないけど、いや好きだけど国を巻き込んでのトラブルは避けたいわね、東のグリムワルドとの事もあるし大事になって東と南西との二正面作戦とかやりたくないわ」
発言したセレーネと三人を除いた一同が頷く
ジュリアはシンディの方に振り返り
「アリシアの正体をばらさずに大公子が手を引いてくれるのが一番いいのだけれど、ねえシンディ、大公子はアリシアの臭いが面白いと言ったのよね?」
「ええ、そうですよ」
姉とのきゃっきゃうふふなコミュニケーションを止めてシンディは答える
「その時、二人のお付きの反応に何か変わった様子は無かった?」
シンディは顎に人差し指を当てて考え
「気まずそうでしたけど、これと言ってグレン大公子を咎めたりはしてませんでしたね」
「バーナンドが国として何を考えているのかが謎ね、グリムワルドと裏で手を組んでて揉め事を起こさせるように仕組んでるとか…でもそれにしては穏便というか理由として弱くない?」
メリーナは自分で疑問を出しておいて理由にダメ出し
フェリシアは我関せず…いやただ食事に夢中なだけのようだ
「グリムワルドと手を組んでいるかどうかはグレン大公子の動きを見るしか無いわ」
「はいは~い!大公子は正体は判ってないにしてもアリシアの男の部分に興味を惹かれたんじゃないかな、どう見ても女なのに男の臭いみたいな?獣人じゃないから、それがどんなものなのかは私には解らないけどね、という事でフェリシアを近づけてみるのはどうでしょ~」
ブフッ!!まさかの自分でフェリシアは吹き出す
「きちゃないなぁ~」
「ゴホッ…あのなセレーナ、あたしをなんだと思ってんだよ」
「アリシアが限りなく男に近い女で、限りなく女に近い男があんた」
「ぶっ飛ばすぞ」
「冗談はさておき男の代名詞といえばこの世界ではやっぱり腕力、実際学園の中でもそれも騎士科の中でも男子生徒に引けをとらない腕力は貴方しかいないじゃない」
ビシッと指を指され
「それにあんただって強いやつと手合わせしたいでしょ?表で堂々と力を振れるチャンスよ!逃してもいいの!?」
「確かにやってみてぇけどさ、騎士科でも四、五割の力でやってるんだぜ獣人相手じゃ手加減できるかわかんねえよ」
「いいじゃない!適当にやってちょっと見せ場作ったらあとは負ければ、本当に弱ければ勝っちゃってもいいんだし」
「う~~ん」
フェリシアが真面目にやるかどうか悩みだす
「やっても誰も損しないじゃない、フェリシアは力を出せるし、大公子が興味を持つなら力、興味を持たないのなら別の要因だってわかる」
セレーナは完璧な作戦と自画自賛ふふ~んと鼻を高くする
「いや、大公子が私に興味持ったらどうすんのさ」
「その時は煮るなり焼くなり好きにすれば?そのまま付き合ってもいいし嫌なら実力行使で別れればいいし、本気なら勝てるでしょフェリシア」
煽るセレーナだがフェリシアの反応はいまいちだ
「それうちの家とバーナードの関係こじれないか?闘うのは好きだけど家巻き込んでこじれるのは嫌だぞ」
「大丈夫、大丈夫、あっちは弱肉強食がモットーの国、実力で負けて逆恨みなんて末代までの恥だもの再戦を挑んでくることは有っても恨まれることはないでしょ、本気を出すのだって時間制限を掛けて、本気は数十秒とか三分しか出せませんみたいに」
「ウル◯ラマンかよ!でもそうだな学園に入ってからずっと抑えてた分もやもやしてたんだよ、よしその話乗った」
料理を平らげ、意気揚々と出ていこうとするフェリシアにセレーナがストップをかける
「ちょっと、ちょっと!待ちなさい、あんたから仕掛けてどうするのよ、ここはさり気なく偶然を装わなきゃこっちがなんか企んでると思われちゃうかもしれないでしょ。舞台は私達で整えてあげるからそれまで待ちなさい!」
「ちぇっ!わかったよ、あたしはそれまで何してればいいんだ?」
「いつも通り騎士科の鍛錬の時間に連れて行くから普通にしてればいいわ、シンディ歓迎式でも頑張ってくれてたけどもう一頑張りお願いできるかしら?」
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翌日の放課後、学園内の紹介として生徒会メンバーと大公子一同は騎士科の鍛錬場を訪れた
「ここが我が国の騎士を目指す生徒が日夜鍛錬を行なっている鍛錬場になります。グレン大公子様でしたらこの様な場がお好きなのではございませんか?闘いはお好きでしょう?こちらに居るもの達は獣人族にも負けない精鋭揃いでしてよ」
獣人の国が闘い好きなのは周知の事実、シンディは作戦通り笑顔を作って煽る
「ふん、人族の鍛錬など我ら獣人の前では意味もない次に行ってくれ」
シンディの言い方が鼻についたのだろう、騎士科の生徒にわざと聞こえるように言ってみせる
当然だが場の空気は重くなる、騎士科の生徒の殆どが代々騎士になるべく学園に入る前から鍛えられている者たちなのだ、相手が他国のお偉方さんだから我慢しているだけで、本来なら自国の貴族で位が高かろうとも暴言を吐こうものなら気にせずボコボコにして扱き上げていただろう
「グレンいくらお前が他国の王族に準じるものだとしても将来我が臣下になる者たちへの暴言は謹んでくれ」
険悪なムードを振り払おうとジルベリオが忠告する
「ああすまない、つい本音が出てしまった。この程度の者たちであればアリシア嬢を攫って番にするのも楽だと思ってしまってな」
「どうしてそう一々突っかかる」
「そこのシンディ嬢が癪に障る言い方をするからだ」
険悪なムードが解消されるどころかますます広がっていく
「あらあらいえいえそれは大公子様に申し訳ないことをしてしまいました、ですが獣人の方々の実力を私は見たことがございませんので、言葉だけで強いとおっしゃられましても…それに、このままでは我が国の騎士見習いの者たちも納得がいかず大公子様への不満と溜まりましょう、ここは一つ騎士科の生徒にその実力とやらを見せつけて見てはいかがでしょう?」
シンディは謝るどころか更に笑顔でグレンを煽る
「…いいだろう、受けてやるルールはどうする?魔法なしでは話に」
「あとで文句を言われても困りますので人族は剣術のみ、武器がご所望でしたら」
「いらん!魔法なしの人族相手に獣人が武器なぞ使うか!それよりも勝ったときの景品だ」
「なっ!」
「こちらは、、、そうだなアリシア嬢を番に…いや流石にフェアではないなアリシア嬢とのお茶会でも所望するとしよう」
「俺だってまだなのに!」
「殿下、本音が漏れております」
まあまあと殿下をサイファスがなだめる、この場を仕切る教官はグル、何も知らない騎士科の生徒たちは俺が俺がと立候補するのだが
この騒動の中シンディはアリシアに目配せをする、アリシアは頷き
「殿下、その私荒事は苦手でございます…その、よろしければここを離れとうございます。ご一緒に来ていただけませんか?」
「しかしだな、この場に私がいないというのは…」
「気分がすぐれないのでございます…駄目でしょうか?」
上目遣いでアリシア頼み込めば
「そ…そうだな、淑女には少々目の毒だ、一緒に付き添ってやらねばな」
下心が見え見えである。これはチャンスとアリシアを連れ殿下はサイファス達と一緒に鍛錬場をあとにした。その姿を確認してヘレネは教官に合図をした
「フェリシア、前に出ろ!」
「はい!」
教官の宣言にフェリシアは嬉しそうに返事を返し、他の生徒たちは狼狽した
「教官、それはあんまりでは?フェリシアは」
「活!!勝つ見込みのある者を選んだ異論は認めん」
生徒達が狼狽するのも無理はない、普段は『女性』にしては出来るなと言う程度なのだから、しかも公爵令嬢だ教官は気でも狂ったのかと考えても仕方がない
「フェリシア?女みたいな名前だな、なあに、本気は出さんさ魔法を使わぬ人族相手に獣人が本気などみっともないからな」
「では大公子さま、あたしはハンデを頂くということで武器の変更をしても?」
「いいだろう、それにしても貴様騎士なのであろう?言葉遣いまで女の様に振る舞うとは気味が悪い、その性根叩き直してやるかかってこい」
吐き捨てるように言葉をかけるグレン、少々お怒り気味のようだフェリシアはグレンの威圧もどこ行く風、練習用のロングソードに見立てた木剣を棚に戻し、壁に掛かっていたグレートソードを持ち出した
「構わんが身の丈に合わぬ武器なぞ持ち出して何をするつもりだ?そのグレートソードも持ち主に恵まれず泣いておるだろう」
憐れむその様子にフェリシアはニヤリと笑い間合いを詰める
「言い忘れてしたが、大公子様私は生まれつき女ですヨッ!」
速い!油断していたのは事実だが速い、人族のものとは到底思えなかった。
ギリギリ間一髪身体強化を発動して両腕をクロスさせてグレートソード受け止めた。重い!グレートソードには充分に力が乗っている。やけや酔狂で選んでない証拠だ
そして初めてフェリシアの目を見た。目はギラツキ、獣そのもの獣人よりも純粋な獣の目だ、グレートソードを力任せに押し込まれフェリシアの顔が眼前に迫る。馬鹿な獣人が人族ごときに押し込まれるなど…
「あんまり舐めてると、ぶつ切りにして差し上げましてよ」
耳元で呟いたフェリシアの顔は恍惚に歪んでいて背筋を冷たいものが走る
「クッ!ウォォォォォ!!」
力を込めグレートソードを弾きがら空きになった腹めがけて拳を突き出し
取った!そう思った瞬間に視界が視界は黒一色
「大公子様、リーチは足の方が長いんですよ、知りませんでしたか?」
顔面に前蹴りを入れられ端正な顔が歪み鼻血が垂れた
「大公子様どうしました?性根を叩き直していただけるのでは?」
ロングソードより遥に長く重いグレートソードを軽々と振るって見せるフェリシアと対称的に片膝を着き鼻血を出しているグレン大公子
「黙れ男女!」
「そちらから来ないのでしたら、こちらから行きますよ、、、と言いたいところですが参りました私の負けです」
「な!」
「降参です。私にはこれ以上力が残っておりませんので」
フェリシアはそう言ってニコリと笑いグレートソードを手放すと、示し合わせていたのだろう教官が
「勝者グレン大公子!」
「ふ、ふざけるな!」
続けていれば明らかに負けていた。勝ちを譲られたのだ!屈辱以外の何物でもない、今度は油断しない!身体強化を掛け直し…
「大公子殿、勉強になりましたかな?」
教官の低く冷たい声が届く
「短時間であれば人族でも獣人族を凌駕することも有るのです。そしてグレン殿は油断し侮った、ここが戦場であったなら…」
「ぐっ…」
そうだ、ここが戦場であったのならフェリシアは腕ではなく間違いなく首を狙い切り落とせただろう…
「ですがここは学園、良かったですなグレン殿これからの三年間充分に学ばれよ」
教官の言う通りだ自分は奢っていた…一礼をして闘技場を降りようとしていたフェリシアに声を掛ける
「おい!フェリシアと言ったか」
フェリシアは跪き
「はい。フェリシア・デルファ・マハラにございます」
「…無礼な物言いすまなかった、お前だけでなく人族に対しても失礼であった…」
「そのお言葉だけで充分でございます」
フェリシアは先程までの黒い笑顔ではなく、素直な気持ちで笑顔を浮かべる
「その…良ければ、これからもここで一緒に鍛錬をさせて貰っても良いだろうか?」
「勿論でございます。その時はグレン殿とお呼びしてもよろしいですか?皆も獣人族の方と鍛錬できることは歓迎しておりますゆえ」
「勿論だとも、これからよろしく頼む」
立ち上がったフェリシアに握手を求めフェリシアもそれに答えた、事実上獣人族に勝ったことで騎士科の士気は上がり先程までの険悪な空気は霧散したのだった
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