第十九話 晴れのち暴風雨
入学式から一ヶ月、生徒達も学園生活に慣れ始め平穏な日々を送っていた
この時期になると隣国の王族が留学生としてやってくる、次期をずらすのは混乱を避ける為であり、人員や警備体制の調整、無用ないざこざを防ぐ為の互いの国のマナーや法の事前確認、更に事前に生徒達にもその旨を伝え覚えてもらう準備期間にするためだ
留学生が居る年も有れば、居ない年もあるので臨機応変さが求められるゆえに準備期間が設けられているというわけだ
今年の留学生はシェフィーリア王国から見て北西の獣人族の国バーナンド公国のカレル大公の息子、グレン・テイラー・カレル大公子、一言で獣人族と言っても多種多様だ。獣の姿を色濃く残す獣人からぱっと見は人族にしか見えないものまでそれに、狼、獅子、熊、鳥、竜人族と幅広く綿密には更に多くの種族がいる、各種族に長が居て貴族を名乗りそれぞれが身体的能力において人族を凌駕している、公国という体裁を保ちどの種族にも国を治める可能性があるが実際にはパワーバランスから言って先の種族以外が国を治める可能性はほぼない。
今代の大公は三代前から狼族が治めており留学に来るのは同時に生まれた五人の子の中で一番能力に長けたグレン大公子が学園のロータリーに着けた馬車から降りる
オレンジグレーの髪色に一見無造作にも見えるハーフアップショートの髪型、少々幼さを感じる顔とオレンジ色の好気の眼差しで落ち着き無く学園を見回す
「相変わらずだなグレン少しは落ち着きを見せたらどうだ、お前を一目見ようと見物しに来た令嬢たちに幻滅されるぞ」
出迎えに来たジルベリオが握手を求めながら落ち着くよう促す
「別に人族を番にするために来たわけではない、それよりも今までそっちの王城にしか行ったことがなかったのだ周りが気になるのは仕方がないだろう?お前だって我が国の城にしか来たことがないだろう外に出れたのなら同じ様になる」
握手をしながら反論するオレンジグレーの頭からは飛び出した耳が少し不機嫌そうに倒れている
「ところで出迎えはこれだけなのか?」
ジルベリオを含めても10名も居ない出迎えに拍子抜けした様子のグレンにため息をつくジルベリオ
「事前に学園の作法として連絡してあっただろう大方、臣下の言う事をまともに聞いてなかったのであろう」
グレンの隣に立つ同年代、おそらくサポートするために一緒に着たであろう獅子族の少年は何も言わなかったが(もっと言ってやってください)と苦労顔が見える
「ここに居るのは一学年の生徒会の人間、王城では公賓扱いでも学園ではあくまで留学生で生徒だ、無礼な扱いはさせ無いが公賓の様な特別待遇は無いからな…これも隣りにいるエイダンから聞いているはずなんだがな、そうだろうエイダン」
顔は獅子、ダークブラウンの逆だった髪の毛、身体は体毛に覆われているためか服の露出が多めの獅子族の少年は見た目とは裏腹に行儀よく涼し気なサファイアの様な瞳をジルベリオに向けシェフィーリア王国の礼節に習い頭を下げ一礼し
「エイダン・アントゥアン・ライリーにございます。お久しぶりにございますジルベリオ王子。仰る通りです、王子の方からもご注進ありがとうございます」
理解者を得たとばかりに挨拶をしながらグレンにチクリと小言を言うエイダン
エイダンの方はしっかりと予習してきていて敬意を払いながらも少し砕けた口調で話している
「おのれ、二対一で卑怯だぞ!」
ぐぎぎぎぎと悔しさを滲ませ更に耳の垂れたグレンを呆れた目でジルベリオは見ながら
「それでこちらは?初めて見る顔だと思うが」
「ああ、こいつはゲイル、ゲイル・ハーケス・シャーマズそう言えば初めてになるのか竜人族の長ボイド・ハーケス・シャーマズの息子でこいつも子供の頃からの付き合いだ」
元気いっぱい過ぎて王族に見えないグレンから紹介をされた少年
エメラルドブルーの長髪を嘘ろで束ねおでこからは二本の角、青みがかった肌に切れ長な眼と黄色い瞳の竜人族
「ゲイル・ハーケス・シャーマズでございます。以後お見知りおきを」
つっけんどんな態度だがグレンからフォローが入る
「ゲイルは口下手だがいい奴だ、仲良くしてやってくれ」
表情は硬いままだが少し尻尾が振れている、いい奴と言われて嬉しいのだろうか?
バーナンド公国の留学生からの自己紹介も済み、生徒会側からの自己紹介が始まるがルーカスもサイファスも顔なじみのようでゲイル以外には簡単な挨拶で終わり女性陣?の番が回ってくる
「お初にお目にかかります、シンディ・デルファ・グレナドと申します。生徒会では会計を担当させていただいてます。以後お見知りおきを」
スンスンと鼻を鳴らすグレンとエイダン
「あの、なにか?」
「いえ、グレン様と私は見た目以外にも嗅覚で相手を覚えることが出来ますので学園とはいえ襲われる可能性のあるご身分、気を悪くしないで頂きたい」
「気にしなくて良い、私がバーナンドやもし他国に行った際も警備には同じ様に気を回すだろう、嗅覚ではないがな」
ジルベリオも特に気分を害した素振りもなくアリシアに自己紹介を促しアリシアも頷く
「私と同じ様にすれば問題ないから、ファイト!」
生徒会の人間として初めての行事、しかも数年に一度有るかないかの出来事に内心では緊張していたアリシアはシンディの気遣いに感謝した、スゥっと軽く息を吸い込み
「お初にお目にかかります、アリシア・サウストンと申します生徒会では書記を」
アリシアは言葉を繋げない、なぜなら眼前にグレンの顔があったから
「おまえ変わった臭いがするな、面白い」
眼前でスンスンと匂いを嗅がれてアリシアは硬直
「貴様ぁーー何をしているかぁー!アリシアから離れろ!」
「なぜ?こいつはお前の番になるのか?」
「つ、番とか言うな!」
怒りから一瞬で羞恥に染まるジルベリオ
「番でないなら構わんだろ?」
「マナーとしてありえん!それにお前は番を探しに来たんじゃないと言っていたじゃないか」
「探しに来た訳では無いが、目の前に興味を引く面白い女が居れば気になるのは道理だ、お前は違うのか?」
冗談でも言っているかのように笑みを浮かべるグレンだが眼は笑っていない、一触触発で国際問題になりかねない事態に
「グレン様お戯れが過ぎます。ジルベリオ殿下も落ち着いてくださいませ。グレン様、我が国には我が国の貴族のマナーがございます。そしてここはシェフィーリア王国、アリシア嬢にお気が有るのでらしたら我が国のマナーを学んでくださらないと令嬢からは嫌われましてよ」
柔らかい口調では有るもののシンディはきっぱりと言い切った
「わかった、ではアリシア嬢のお眼鏡に叶うよう努力しよう。留学などつまらん時間になると思っていたのだが楽しめそうだ」
シンディの発言でその場はなんとか収まりを見せるが大公子は愉快といった様子
だが周りは気が気ではない、着いて早々のこの騒ぎしかも騒動の中心はこの国の王子と隣国の大公子
先程までの友好的な空気は木っ端微塵に吹き飛んでしまった、この後のレセプションも勿論ギスギス、双方お付きの者たちは場を収めるのに必至、好きあらばアリシアに近づこうとするグレンをシンディが鉄壁のガード、ジルベリオの中でシンディの株はうなぎ登り、ついでにグレンの付き人達からも衝突を身を持って回避し続けるシンディに好感触、それが気に入らないサイファスという訳の分からない構図が出来上がってしまった
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