92話 魔人たち
【 魔人 スーニャ 】
北の館地下の転送の間を使って新鮮な死体を私の作業場に運び入れましたよ。
彼らには対骸骨用の兵士として蘇ってもらおうかな。
でも骸骨さん達は人型相手には強かったからなぁ。
うーん、2、3人くっつけてみるか。
あ、魔獣との融合もありかな。
これは楽しみが増えました。
あれやこれやと計画を練っているとアニタが戻って来ました。
リリィは皇帝と女を連れて行ったのね。
ははぁ、かまってもらえなかったんだ。
あ、怒って行ってしまった。
まっ、それよりも計画です。
うーん、あと100人ぐらい調達したいなぁ。
リリィに頼んでみるかな。
あ、まずはサンプル作りだね。
■■■
【 魔人 アニタ 】
はぁァ。
スーニャはおもちゃを貰ってごきげんだネェ。
つまんなイ。
つまんナイィ。
あの骸骨の様子でも見てこようカナァ。
魔人城への"転送の間"は潰したんだネェ。
私には目があるからネ、これで外へ出れるヨ。
面倒だけどネ。
◇
ほんとーに面倒だネェ。
山の反対側に出てかラ頂上行っテ降りてきたヨ。
戦闘はもう終わっているネ。
骸骨が勝ったネ。
予想通りだネ。
さて、あの骸骨はいるかナァ。
いたら殺しちゃおうかナァ。
ああ、いたいタ。
うーん、周りは骸骨だらけだネェ。
横にいるあの盾持チ。
前回邪魔したヤツだネェ。
あたしに剣を振り下ろしてきたヤツだネェ。
フーン。
決めたヨ。
先にあいつをやろウ。
フフフ。
■■■
【 ル・ゴール帝国 皇太子 ファルゴ=グローバー 】
私が気付いた時、私はベッドの上で寝ていた。
見知った部屋だ。
ここはル・ゴール帝国帝都、第一離宮、私の自室。
そのベッドの上で、私は目を覚ました。
「これはどういう事だ!戦いはどうなったのだ!今は、いつなのだ!」
私は叫び、部屋の扉が開き、人が入ってきた。
その姿には見覚えがある。
彼女は、確か、私の家庭教師だったはずだ。
名前は、エリーザ、だったか。
「ファルゴ。お目覚めになりましたか?」
「あ、ああ。」
彼女は親しげに近寄って来るとベッド脇の椅子に座った。
そして私の左手を取る。
バチィ。
光った!
「ギャァ!」
私の左手から強い光が迸ると彼女は悲鳴を上げ飛び退った。
「ええい、いまいましい。」
「これは、一体?」
彼女を見れば両手から煙が立ち上り、その表情は苦しげだ。
私の手の甲から腕、そして胸に掛けて光の線が浮き出ている。
これは魔法陣か?
では、今の光は"退魔の光"か?
では、彼女は。
「エリーザ。貴様は魔人なのか?」
「あら。」
彼女は私に微笑んだ。
「それに気付いたのなら、もう通じないかしら。」
「なに?」
彼女は窓際に歩み寄る。
そこには、私の剣立てがあり、その中の一振りを彼女は抜いた。
切り掛かってくるのか!?
私がベッドの上で身体を動かすと、彼女は剣を振り下ろした。
彼女の左手が飛んだ。
床に落ちた左手は煙を噴いている。
彼女の左手の切り口からは血が流れ落ち、ていない。
肉が盛り上がり、手刀の形から指が分かれて左手になった。
その左手が剣を握り、右手を落とす。
そして、新しい右手が出てきた。
これが魔人か。
彼女は剣を剣立てに戻した。
そして部屋を出て行く。
「エリーザ?」
私は彼女に声を掛けた。なぜか、掛けずには、引き止めずには、いられない気持ちが湧き上がる。
だが、彼女は立ち止まらず、振り向きもせずに部屋を出て行ってしまった。
床に落ちた彼女の手は消失している。
部屋には誰も来ない。
メイドや執事はいないのだろうか。
私はベッドから起き上がった。
そうだ。
私の妻のアルメイヤと息子のトーマスはどこだ。
二人は無事なのか。
私は部屋を出ようとして、出れなくなった。
廊下に近付けば、血臭が漂ってきた。
廊下は血の海であり、床、壁、天井にまで血と人体の欠片が飛び散っていた。
私は状況が飲み込めないまま、その場にうずくまり嘔吐した。
■■■
【 魔人 エリーザ 】
これで皇太子妃としての生活も終わりです。
トーマスの部屋へ向かいながら思い返しますと、あのムーア家の男。
あの男の細工なのでしょう。
ムーア家は魔導に優れた血筋。
そういえば、あの皇弟ブキャナンの母はムーア家の姫でしたね。
やはり彼が何らかの細工と指示をしたのでしょう。
廊下で会ったムーア家の男は「部屋に入れない」と言っていましたが、彼はあの時既に部屋に入り、私の愛しいファルゴに魔法陣を仕掛けていたのです。
そして、扉にも仕掛けを施している時に私が来たのです。
ああ、いまいましい。
楽に殺してしまうべきではなかったわね。
トーマスの部屋に入るとメイドのミヤと乳母がいます。
トーマスはベッドで寝ていますが、私が抱きかかえ魔力を流すとかわいい目を開けて微笑みました。
ああ、かわいい子。
(トーマス。)
(はい、お母様。)
(残念ですが、私はあなたの母ではいられなくなりました。)
(え?)
(感情を抑えて微笑んでいるのです。良いですか、これから大切なお話をしますよ。)
(は、はい。)
(普通の人々は大きな魔力を持つ人間を魔人と呼んで恐れます。そして、私は魔人です。リリィもです。そして、いずれあなたもそう呼ばれるでしょう。よいですか、トーマス。あなたの周囲には普通の人々がいます。彼らにあなたの魔力を知られてはなりませんよ。)
(はい、お母様。)
(ああ、トーマス。愛しい子。私の事はエリーザと呼びなさい。私がこの部屋を出てからはアルメイヤがあなたの母となります。)
(え!?)
(良いですね、決してあなたの魔力を周囲の人間に悟られてはいけません。私はこれからもあなたのすぐそばにいます。)
びっくりお目目のトーマスをベッドに戻します。
すこしぐずりましたが、大丈夫ですね。
私はメイドのミヤと乳母のアルメイヤの顔を見、『魅了』と『洗脳』を解きました。
二人はそのショックで床に崩れ落ちますが、すぐに気が付くでしょう。
私は部屋を、そして第一離宮を出て、北の館に向かいました。
■■■
【 魔人 リリィ 】
第一離宮でエリーザの状況を確認し、北の館に戻ってきました。
今後の動きを考え、私はアマンダにドレスへの着替えを命じます。
私は自分のドレスをメイド服へと魔力で作り変えます。
私の顔を覚えてる者もいるでしょうから、顔には黒のヴェールを掛けます。
皇帝と皇后となったアマンダ。それに泥人形達を連れて帝国騎士団司令部に向かいます。
皇帝は城への入口に立っていた騎士に帝国騎士団司令部の招集と御前会議の緊急招集を告げます。
騎士達は先触れを出すべく動きました。
私達は彼らの案内で帝国騎士団司令部の部屋に向かいます。
◇
帝国騎士団司令部の部屋に入ると司令部の面々が揃っているようです。
皇帝が一同を見渡し言い放ちます。
「卿らに此度の骸骨騒動の責任を取ってもらう。」
「は?」
皇帝の口から予想外の言葉が出たからでしょうか、皆が困惑の表情を浮かべます。
次の瞬間には、私が全員の首を切断します。
これで魔人騒動を知る有力者はいなくなりました。
他に知る者がいたとしても組織だって騒ぐことはないでしょう。
私達を案内してきた騎士に向かって皇帝が言います。
「こやつらの首を包む。布を用意せよ。」
◇
皇帝が退位を告げ、自らの首を切り落としました。
御前会議は騒然としております。
私と泥人形達は会議室を出て北の館に戻りました。
エリーザがいました。
ドレスは着替えていますが、こちらに来る予定ではなかったはずです。
「お姉さま。」
その目が涙で潤んでいます。
あぁ。
おそらくファルゴが目覚め、彼女が魔人である事が知れたのでしょう。
そして、この子は別れを決めたのでしょう。
エリーザは『魅了』の力を持っています。
『魅了』を使えば相手から崇敬の念と愛慕の情を受けることになります。
そのような相手に対し、しばしばエリーザも同様の感情を持ちます。
そう、『魅了』した相手に"魅了"されてしまうのです。
今回の相手はファルゴとトーマスですね。
まったく、何年生きても、何度繰り返しても、同じ事を繰り返す子です。
涙ぐむエリーザに今後の予定を伝えないといけません。
「エリーザ。」
「はい。」
「私は明日よりディアン家に潜入します。」
「ディアン家、ですか?」
「そうです。あの家は現在、西方のノールデア領への移転準備を進めています。人と物の出入りが激しく潜り込むには丁度良いです。」
「では、帝都を出るのですね。」
「そうなります。もっとも移動は新皇帝の戴冠式の後でしょうから、もうしばらくは帝都にいるでしょう。」
「私は残ります。トーマスのそばにいたいのです。」
「良いですよ。」
「えっ!?」
「あなたがそれを望むと思っていました。正体が知られたにも関わらず、ファルゴとトーマスは存命なのでしょう。これまでの慣例では、この北の館は閉鎖されるでしょう。ファルゴ新皇帝の居室も第一離宮から城内に移ります。ですので第一離宮も閉鎖されるでしょう。あなたが潜める場所は多いです。」
「ええ。」
「気を付けるのですよ。」
「はい。お姉さまも。」
エリーザと一時の別れの挨拶をして、私は一人ディアン家の屋敷に向かいます。
ええ、エリーザとはすぐに会う事になるでしょう。
これまで何度も繰り返してきましたから。
帝都は闇に包まれています。
今夜は月が出ていませんね。
長い一日でした。




