90話 エリーザ妃
【 魔人 スーニャ 】
あら?あららら?
おいしい紅茶を飲んでいたら、皇帝が来て、リリィと話して、リリィの魔力が高まったわ。
まずいわね。
私は急いでテーブルの下に潜りました。
アニタは消えました。
私が仕方なく作ってあげた目の調子は良いようですね。
さて、部屋の中は楽しいことになっています。
皆さんの首が落ちていますわ。
良い香りが漂ってきます。
「スーニャ。」
「はい?」
「庭番の泥人形達を呼んで、ここを片付けさせなさい。ああ、皇帝とその女は使いますので、すぐに処置してくださるかしら。」
「処置ね。いいわよ。」
「私はエリーザの所に行ってきます。」
リリィは部屋を出て行きました。
お庭番の泥人形はずっと昔に作っておいた手駒です。
では、死体を地下室に運んで、私の泥人形にしてあげましょう。
■■■
【 ル・ゴール帝国 エリーザ妃 】
今朝、ファルゴが第一離宮の自室に戻りました。
昨夜遅くに北の戦場から戻り、城の医務室で朝まで休まれたそうです。
医師の話では魔力障害の様な症状で意識が無く眠りについている、とのことです。
彼のベッドの横に座り、彼の手を取りました。
あぁ、ファルゴ。
外傷は見当たらないので戦闘での傷ではないようですが、一体何があったのでしょうか。
騎士団の状況も気にするべきでしょうが、それは私には小さな事です。
無事に目覚めてくれると良いのですが。
私は彼の手に私の魔力をそっと流しました。
魔力障害ならば、これで少しは変化がおこるはず。
そう思ったのですが、私の魔力は強い反発を受けました。
これは一体、どうしたことかしら?
長年そばにいて、ゆっくりと魔力の波長を合わせました。
私の代わりのあの女とも。
そして、生まれたあの子にも。
その私の魔力を拒むなんて。
私は右手を彼の額にあて、左手で彼の手を握りました。
そして魔力を流します。
駄目ですね。
両手、両足でも試しましたが、反発を感じます。
なんらかの術式を掛けられているようです。
私は椅子に座り直し考えます。
誰かしら、私の邪魔をするのは。
北の前線、第一軍城砦都市では骸骨の大群との戦いがあるという話です。
その地で、このような術式を施せる者。
彼しかいないわ。
皇弟。
帝国騎士学校卒業後、騎士団で過ごし城には寄り付かなかった男。
そのせいで私と姉さんの存在を知りつつ、影響を最も受けていない男。
その存在を危険視していたけど、今までは城に寄り付かなかった。
それで放置していたのだけど。
どうやら私達が魔人だと確証を得たのかしら。
それで、何らかの行動に出ようとしている?
そうすると、ファルゴが一人で戻って来たのは変ね。
一緒に戻り私達を糾弾するはず。
考えていても仕方ないわね。
私は眠るファルゴの唇に口付けをして、部屋を出ました。
かわいいトーマスとの昼食です。
◇
昼食後、眠りについたトーマスの顔を見て、彼を乳母に任せて再びファルゴの部屋に向かいました。
すると彼の部屋の前の廊下に20人程の騎士達がいました。
「皆様、何事ですか?」
私が声を掛けると、皆が私の顔を見、姿勢を正します。
部屋の扉の前にいた男が、私の前に進み出てきました。
「これは妃殿下。私、ル・ゴール帝国騎士団司令部のケーニッヒ=ムーアでございます。」
知らない男ですが、ムーア家の者のようです。
私は小さくうなずいて、彼の言葉を促します。
「ファルゴ皇太子殿下にお目通りしたかったのですが、部屋の扉が開かずにおりました。」
「あら、執事かメイドがおりましたでしょうに。家の者ならば開けられましてよ。」
つまり、この者達は家の者の案内を受けずにここまで来たのでしょう。
ファルゴの寝室部屋の扉には"入室許可の魔法"が掛けられています。
個人的な部屋は鍵が掛かっていなくても家の者以外には開けられないのです。
常識だと思っていましたが。
「そうでしたか。では、妃殿下に扉を開けていただきたいものですな。」
彼の笑顔が気に入らないわ。
「よろしくてよ。」
私の返事に彼は壁側に身を引き、通路を空けました。
私は廊下を進み扉に手を掛けます。
バチィ
光がはじけました。
指先に少しの痛みを感じます。
これは聖魔法?
「やはりか!この女を捕らえよ!魔人だ!」
「ははっ!」
周囲の騎士が私に剣を向け、ロープを手にした者が私の腕を取ります。
なんて汚らわしい事。
「お下がり!」
魔力を乗せて腕を振れば彼の身体は騎士達を巻き込んで廊下を吹き飛んでいきます。
ああ、骨の砕ける音と感触が気持ち良いですこと。
「ひるむな!掛かれ!」
ムーア家の男の声に周囲の騎士が剣で切り掛かってきました。
動作が遅いですわね。
私は切り掛かってきた騎士の手を砕き、剣を奪い、剣を振るい、彼の身体を両断します。
どうです?私は美しいでしょう?
『魅了』の力を振りまきますが、彼らの反応がありません。
彼らの鎧の首元に光が見えます。
どうやら魔術具か護符を身に着けて対抗しているようですね。
小賢しいこと。
そういう事でしたら。
全員殺します。
◇
あら、彼らがどうしてここに来たのか、それを伺っていませんでしたわ。
それは別の方から聞くとして、この死体を片付けなくてはいけませんね。
私はお姉さまに『思念通話』で呼びかけました。
(お姉さま、よろしいかしら。)
(エリーザ。今そちらに向かっております。どうしましたか?)
(私を魔人と疑う者がおりまして。)
(まぁ。そちらにも。)
(では、お姉さまの所にも。)
(こちらは片付きました。)
(あら。私も問題なく片付きましたわ。でも後片付けが残っておりますの。)
(そうですか。庭番の者達は北の館の片付けをしています。その後に第一離宮も片付けさせましょう。)
(お願いいたしますわ。)
(後数分で着きます。お待ちなさい。)
(では、お迎えに行きますわね。)
お姉さまとの『思念通話』を終わらせ血と死体で埋め尽くされた廊下を歩きます。
階段の端に気絶しているメイドがいました。
あら。
彼女が彼らを案内したメイドかしら。
では、この女は彼らに気絶させられた?それとも私の美しい姿を見て気絶したのかしら?
確認するには起こすしかないですが、この女の『洗脳』は有効かしら?
確認するのは面倒ね。
私は彼女の首の骨を砕き、階段を降ります。
『遮音』していたので下には物音は届いていないでしょう。
「お、奥様。そのお姿は、一体・・・」
あら、執事の男が私を見て驚いています。
うっかりしていました。
私の衣服は返り血で真っ赤に汚れています。
これは失敗ですわね。
でも大丈夫です。
私が「問題ないですわ。」と一言言えば、この者達は『洗脳』の力で私に従います。
この返り血もドレスの素敵な彩と認識します。
ギィィィ
その時、玄関扉が開きました。
いつもは物音一つ立てない扉ですが、お姉さまが魔力で開けたのでしょう。
素敵な効果音が付きました。
執事の男が振り向き、その顔は恐怖で引きつっています。
良い表情をしますね。
「ごきげんよう。妃殿下。」
「いらっしゃいませ。リリィ皇后様。」
見ればお姉さまのドレスも血で、あら、綺麗ですわね。
ドレスは綺麗ですが、両目は紅く光り輝いておりましてよ。
「エリーザ。なんですか、その格好は。」
「ふふ。素敵でしょ。」
「はぁ。」
お姉さまは右手を振って風魔法を放ちました。
執事の首が床に落ちます。
あら、残念。
「ファルゴとトーマスはいますね。」
「ええ、二人とも寝ておりますわ。」
「寝てる?」
「ええ、トーマスは昼食の後の午睡です。ファルゴはまだ意識が戻っていません。」
「そう。では、この騒動に気付いていないのね。」
「はい。」
「わかりました。あなたはここにいなさい。」
「お姉さまは?」
「私は一度戻ります。あなたはドレスを着替えなさい。」
「あら。これも素敵ですのに。」
お姉さまは外へと出て行きました。
仕方ないです。ドレスを着替えましょう。




