81話 閉ざされる西門
【ル・ゴール帝国北方騎士団第一軍 軍団長ファルゴ=グローバー 】
西門内、兵舎前広場仮設司令部。
「北西監視所から炎が!」
「街壁上に骸骨の姿が見えます。」
「見えますではない!討伐せよ!第一大隊から4部隊を向かわせろ!叔父上、騎士団長の安否確認を、急げ!」
「はっ!」
「報告します。北門にて防衛隊の騎士10名の死体を確認。骸骨が侵入したと思われます。」
「遅い!骸骨は既に街壁上にいる。貴様も街壁上に行き、骸骨を討伐せよ!」
「はっ。」
「南門より報告、第二軍は敵、骸骨騎兵部隊と交戦中。敵は強力な毒攻撃を仕掛けており、解毒、回復薬の供出を求めております。」
「許可する。神殿に薬を出すように伝えよ!」
「はっ。」
「失礼します。ブキャナン騎士団長がお見えです。」
「叔父上、生きておられましたか。」
私は伝令兵の報告と差し出された命令書へのサインの手を止め、顔を上げた。
西門からこちらに向かってくる叔父上の姿を認め、ほっ、と息をつく。
その時、視野の上方、街壁の上で炎の噴き上がりが見えた。
視線を向ければ、炎に包まれた騎士が街壁上から落下する姿が見えた。
彼は死んだ。
西門でも南門でも北門でも、騎士が死んでいる。
日の出から、まだ半刻も時間が経っていない。
にも関わらず、私の元に届けられる報告は、死で溢れていた。
これが、戦いか。
これが戦いだというのなら、先日までの鬼との戦いはなんだったのだ。
鬼との戦いにおいても負傷する騎士も死亡する騎士もいる。
だが、半刻の間に、こんなにも死者がでる事はない。
「ファルゴ。大丈夫か?」
「叔父上。」
「顔色が悪いな。少し横になるが良い。」
「いえ、大丈夫です。軍団長が戦いの最中に休む訳には参りません。」
「そうか。しかし、」
「報告します。骸骨が障害壁区域を突破!西門前に現れました!」
「何!?」
「むう。突破しおったか。数は?」
「大量です。ほぼ全ての場所から骸骨が現れています。」
「なんだと!」
それでは、第二大隊は、全滅したのか?
視線を西門に向ければ、そこには炎が燃え盛り、雷撃の光が走り、暴風が吹き荒れていた。
これは騎士の魔技だ。だが、聞こえて来る悲鳴のような雄たけびも騎士の声だ。
「ファルゴ、西門を閉めよ。」
「西門を?ですが、外には騎士達が。」
「退却させるのだ。間に合わない者はあきらめよ!」
「ですが、叔父上。」
「全滅を防ぐためじゃ。決断せよ、ファルゴ。」
くっ。
「西門を閉じよ!騎士達には退却の笛を鳴らせ。骸骨を中に入れるな!急げ!」
「はっ。」
伝令兵が走り、笛が鳴り響き、西門が動き出す。
外にいる第二大隊の騎士達。骸骨との戦闘をしている第三大隊の騎士達。
彼らの内、何人が戻ってこれるのか。
西門が閉じた。
閂が掛けられる。
私は、彼らを見捨てたのだ。
■■■
西門が閉じたのが見える。
だが、西門前の戦闘は継続中だ。
おそらく我々骸骨軍団の侵入を防ぐために早めに門を閉じたのだろう。
これで、ここまでは我々骸骨軍団が優位に戦いを進めていることが分かる。
だが、門を閉ざされた帝国騎士の生き残りは死を覚悟して、その魂は強さを得るだろう。
そうなると、最終的に勝つとしても、こちらの骸骨騎士達の損傷も大きくなる。
シグス達には諸戦なので深追いせずに、早めに引き上げるように言ってあるが。
そのシグスの方は、いつもの様に骸骨馬の機動力を活かした突撃を行っている。敵陣を突破し、反転して再突撃を行い戻ってくるはずだ。
ああ、先頭を走る2台の魔導馬車が見えた。
その後にシグス達の隊列も見える。
彼らの蹄の音を聞けば、ビデス達も引き上げてくるだろう。
俺の「吸魂」も多くの魂を集めている。
では、骸骨軍団の退却を確認したら、死体回収を実行しよう。
■■■
【北方騎士団第一軍第三大隊 大隊長グラン=グローバー】
西門前障害壁区域内での戦闘が始まり、戦闘音が通路から聞こえてくる。
我々第三大隊は西門前から通路前までの空き地に整列して、部隊の交代に備えて待機していた。
第二大隊大隊長のライズと彼の部隊も通路内に入らず、障害壁区域の端で待機している。
後退してきた部隊の確認と骸骨の追撃に備えての事だ。
しばらくすると足音と激しい息遣いが聞こえてきた。
騎士が一人、通路から走り出て来た。
その後ろから、もう一人が出てきて、前の騎士の首を剣ではねた。
彼の首が地面を転がる。
後ろに立っているのは骸骨だ。
これが、俺たちの敵だ。
「が、骸骨だ!」
誰かの声が聞こえ、隊列の中から一人の騎士が飛び出し、骸骨に切り掛かる。
だが、骸骨はそれを剣で受けた。
騎士と骸骨が離れ、距離を取る。
どうする、増援の指示をするか。しかし、骸骨と騎士の1対1の戦いに増援の指示は駄目じゃないか?
判断に迷ってライズの方を見れば、彼らの周囲にも骸骨がいた。
なんて事だ。この一瞬の間に複数の骸骨が通路を通り抜けてきている。
ライズは障害壁を背に立っていた。
その壁が崩れ落ち、巨大なハンマーが現れる。
ライズの姿が消えた。
ハンマーに潰されたのだ。
「総員、かかれー!」
気付けば叫んでいた。
私の周囲の騎士達が抜刀し骸骨どもに襲い掛かる。
炎が湧き上がった。
雷光が走った。
暴風が吹き荒れた。
騎士の身体が炎に包まれ、稲光に貫かれ、手足が切り刻まれる。
骸骨が魔技を使うだと!?
ならば、こちらも。
私も魔技を撃たんと剣を構えるが、私の前には幾人もの騎士がいる。
これでは魔技を撃てない。
だが、骸骨の魔技によって目の前の騎士達が傷ついていく。
なんて事だ。
その魔技によって骸骨も吹き飛ばされるのが見えた。
こいつら仲間がいるのに魔技を撃っているのか。
ゴゴゴン
背後から鈍い音が聞こえ、周囲の音にかき消されそうな笛の音が聞こえた。
退却の笛だ。
西門が閉まる。
待ってくれ、我々はまだ戦っているんだ。
私の隣にいた騎士がハンマーの一撃で吹き飛んだ。
顔を向ければ、そこに骸骨がいた。
剣を突き出す、が躱された。
ドゴォ
右半身に強烈な打撃を受け、下半身が宙に浮く。
私はそのまま地面に倒れてしまった。
◇
気絶していたのか、気が付けば、私の周囲は静かだった。
骸骨は、どこに行った。
「ぐぅ。」
身体を動かそうとしたら、腰から強烈な痛みが走り呻き声が漏れる。
どうやら動けそうにない。
「誰か。いないか。誰か。」
大声も出せないので、小さく声を上げるが、答える声は聞こえない。
聞こえて来るのは背中を通して聞こえる微かな振動だ。
これは何の音だ?
その疑問にはすぐに答えが出た。
地中より現れた大砂百足の頭と身体が、私の視界に入った。
そいつは視界の外に向かったようだが、もう一匹の口が大きく私に覆い被さってきた。
どうやら、私は喰われてしまったらしい。
激しい痛みに襲われ、私は再び気を失った。




