80話 西門前の攻防
【北方騎士団第一軍第二大隊 所属騎士ランディ=オバーン】
西門前の障害壁区域。
「この壁だらけの場所を進めば、骸骨の集団は少数に分散され、俺たちの前に現れる。俺たちはいつも通りの10人の部隊編成で待機し、目の前に現れた骸骨を倒せば良い。深追いはせず、1戦して骸骨が退けば、こちらも下がり交代する。または交代の笛が鳴れば、交代する。」
それが司令部からの説明だった。
説明が足りなかったな。
「この骸骨どもは魔技を使う。そして、俺たちより強い。」
俺たちは障害壁の中の空間の入口側で待ち受けていた。
相手が少数で現れても、こちらも少数なら勝負は互角だ。
こちらの10人が戦えるだけの空間は必要になる。
今居るこの空間はせいぜい5人ぐらいだが。
この空間に繋がる通路に骸骨の姿が見えた。と思ったら矢が飛んできた。
いきなりの矢だ。
しかも『貫通』の武技か魔技が掛かっていた。
正面に立っていた奴は盾を構えていたが、あっさりとやられた。
盾には衝撃耐性の魔法陣は描かれていても貫通耐性の魔法陣は描かれていなかった。
俺たちが相手していた鬼どもは弓矢は使わなかったからな。
そいつが地面に倒れる前に2体の骸骨が盾を構えて空間に飛び込んできた。
そして、剣と槍を突き出す。
これには、こちらも対応できた。
槍先を剣で逸らし、剣を盾ではじく。
こちらの反撃は躱された。
2体の骸骨は揃って身を屈めた。
その後ろに立つ新たな骸骨が剣を横になぎ払う。
それは、俺の「魔技、真空斬。」と同じ動作だ。
咄嗟に俺は骸骨と同じように地面に伏した。
間一髪だった。
真空の斬撃は仲間の腕を切り裂いた。
鎧には斬撃耐性、衝撃耐性、魔法耐性が備わっているので身体は分断されなかったが、両腕は守られていなかった。
仲間の腕が地面に落ち、身体は俺の上に倒れ込み大量の血を流した。
骸骨共は次々と通路から出てきて、俺が10体を確認した後には通り過ぎて行った。
俺は立ち上がる事ができなかった。
だが、いつまでも寝ているわけにも行かないだろう。
頭の中では、そう考えるが、身体が動かない。どうしても、俺は立ち上がる事ができなかった。
仲間の流した血が、地面に染みていくのを、ジッと見つめていた。
■■■
【北方騎士団第一軍第二大隊 所属騎士パトリック=スクワーズ】
西門前の障害壁区域。
「石弾!」
バゴォ。
よしよし、これで6体目の骸骨を倒した。
通路には骸骨が折り重なって倒れている。
俺は土魔法と風魔法が得意だ。
複数属性持ちは珍しい。
そんな俺が得意なのが、この「石弾」だ。
最初にこの魔法を編み出したのは過去の誰かだが、それ以来、土魔法と風魔法を得意とする者には必修の攻撃魔法だ。
さらに今回は状況もぴったりだ。
俺は通路の途中に土壁を作った。
これで骸骨は「この通路は行き止まりだ。戻ろう。」と思う。
だが、この壁には覗き穴と、石弾用の穴が開いている。
そう、俺が壁の裏から石弾を飛ばし、振り返った骸骨の頭を砕く。立ち止まった骸骨の頭も砕く。
ほら、次の骸骨の足音が近付いてきた。これで7体目だ。
俺は覗き穴を見た。
だが、骸骨の姿が見えない。
足音が近付いて来る。どこだ、どこにいる。
あっ、足音は上だ。上から聞こえて来た。
そう気付いて上を見上げれば、そこに、土壁の上辺に、骸骨がいた。
その骸骨は、剣先を下に向けて飛び込んで来た。
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【北方騎士団第一軍城砦都市防衛隊 所属騎士ブライス=ハウスト】
西側街壁上。
北西監視所が炎に包まれた。
投石器に岩を乗せていた俺たちは、手を止めて燃える監視所を見た。
伝令兵が走りながら弓兵達に声を掛けている。
「骸骨だ!街壁上に骸骨がいる。全員抜刀して排除しろ!」
「骸骨!?さっき隊長が倒しに行ったやつか?」
「どこにいるんだ?」
「なんだ、あれ?」
仲間が指差す先を見れば、街壁上の燃える監視塔の前に暗い闇があった。
街壁上の通路が、そこで闇に飲まれている。
その闇が、徐々に近付いてきた。
「ひぃぃぃ。」
伝令兵は情けない声を上げて南西監視所の方へ逃げて行った。
あいつは何とか言う子爵家の跡取り息子だったな。
慌てて逃げて行くその姿を街壁上の防衛隊の仲間が見ている。
緊迫した戦いの最中のはずなのに、その滑稽な姿がおかしく、顔が緩む。
そう、この時まで俺はこの戦いを自分の戦いとは思っていなかった。
敵は遠くにいて、俺は街壁の上から石や弓を放つ。それで終わる。
そう思っていた。
俺たちの横に居る弓兵たちが闇に向かって矢を放った。
あの闇の中に骸骨がいるのか?
俺は剣を抜きつつ、皆に声を掛けた。
「弓兵!魔技を撃つからこちらに下がれ!おそらく闇の中に骸骨がいる。お前らは・・・。」
「ブライス、盾だ!」
仲間の声に俺は咄嗟に盾を持ち上げた。
空気を切り裂く音が響き、相手が魔技を放ったことが分かる。
「これは旋風斬か。」
「ああ、くそ。弓兵がやられた。ブライス、まずいぞ。」
くそ、俺が声を掛けたのが不味かったのか。
仇は討つ。
俺は剣と盾を捨て、腰から二本の短剣を抜き、街壁通路の中央に狙いを付けて、前方に突き出した。
「おい、ブライス!その技は!」
「魔技、二刃振動波斬!」
俺の前方に味方はいない。
この魔技は二本の短剣を共振させることで生じる空気の振動波が、岩をも一瞬で砂に代えてしまう。
おそらく街壁の一部も砂にしてしまうが、知ったことか。
ボフォォオォォ
突然、目の前に炎の壁が立ち上った。
熱風が周囲を襲う。
俺も顔を伏せてしまった。
吸い込む空気が熱く、喉が焼け、髪に火がつき、肌が燃える。
ああ、熱で空気の質を換え、風を起こす事で俺の魔技を封じたのか。
それにしても、俺は一体、何と戦っていたんだろう。
服が燃え上がり、俺の身体が炎に包まれる。
ふらふらと足が動き、俺は街壁の上から地面に落下した。




