78話 開戦、街壁上の戦い
東側に広がる海。
空との境目が闇を追い払うかの様に、ゆっくりと明るくなる。
白い水平線が綺麗に見えると、その上空は綺麗な青空となった。
そして、一条の光りが水平線から漏れ出し、徐々に輝きを増していく。
日の出だ。
我々骸骨軍団は既に布陣している。
前回小鬼どもと戦った時とは違い、左翼にビデスの歩兵部隊、右翼にシグスの騎兵部隊とドラゴの騎兵部隊が配置されている。
これは北西に構える我々骸骨部隊に対し、城砦都市側が我々の右翼、城砦都市の西側に戦場を設定したからだ。
おそらく彼らは北門を閉ざし、西門と南門から出陣してくる。
こちらはそれに対応し、騎兵部隊が南西寄りに進み、歩兵部隊が西門を突破する作戦だ。
その帝国騎士団は城砦都市の西門を開き騎士達を展開させているようだが、その姿は土壁に遮られてここからは見えない。
南門から出てくるだろう騎士団の姿も同じく見えない。
だが、約束の時間が来た。
戦いの合図はシグスに任せている。
シグスは剣を高々と持ち上げ、それを振り下ろした。
開戦だ。
◇
ここまでの7日間だが、初日に小鬼どもとの戦いはあったものの、その後は「城」は静かだった。
シグス達は残念そうだったが、彼らは訓練を欠かさず精力的に過ごした。
訓練に参加していない者もいた。
屍人の皆さんと一部の骸骨魔法操兵だ。
第一軍城砦都市に流れ込む河川はない。
地下水が豊富なようだ。
だが侵入する側としては厄介だ。
ダークの『暗闇』に紛れてムーブとインビジーの18人が城砦都市に数回侵入している。
目的は城門内の建物の配置や階段などの位置確認だ。
その情報を元にノールデア侯爵らが簡単な見取り図を作成してくれた。
その結果、西側の街壁の内部には広い空き地があり、その奥に複数の大きな建物がある事が分かった。
この空き地が騎士団の待機場所になっている。
南門付近にも多くの騎士の姿があるようなので、こちらは合流した第二軍と推測している。
北門付近には騎士の姿は少なかった。
シーカーにも確認してもらいたいが、城砦都市までは距離がある上、鳥型の魔獣の飛来もあり、城砦都市側も街壁上に弓兵が多く配置されている。
なので、今回はシーカーの出番はなしだ。
仲良しだった腐肉喰い丸スライムをメリッサに取られてさらに落ち込むシーカーだったが、どうやら1匹はメリッサから離れてシーカーと遊んでいるな。
そのメリッサは魔道馬車を操る「太っちょアックス」と「クリストファーじいさん」と仲が良い。
峠越えの道中で仲良くなった様で、いつも魔道馬車に乗っている。
骸骨大砂百足は砂場に潜ったまま出てこない。
どうやら海風が吹いてくるのが気に入らないようだ。
地面の砂場の面積が広くなると、我々も骸骨馬も足を取られるので、砂場はあまり広くはしないように、と注意した。
彼らの好きにさせてしまうと、ここも砂漠になってしまう。
俺の言いつけを守って、彼らは地下深くに潜ってしまった。
地下水で溺れる様な事にはならないと思うが、まぁ、呼べば出てくるから好きにさせておく。
◇
シグスとドラゴの騎兵部隊が西側を先行する。
ビデスの歩兵部隊も遅れずに進み続ける。
帝国側は元々あった戦場拠点の土壁から城砦都市街壁の西門までの広い区域に土魔法による障害壁を作成した。
これは骸骨部隊を分散させ各個撃破を狙った細工だ。
だが、それは帝国側部隊も同じで、我々としても各個撃破しつつ進めば良いだけだ。
骸骨部隊の先頭が土壁を越えて、迷路に入ったタイミングで飛翔物の音が空中に響いた。
街壁上には弓だけでなく、投石機も設置されていた様だ。
人間の上半身程もある大きな岩が次々と飛んできて、幾人もの骸骨が潰される。
だが、我々は歩みを止めない。
■■■
【第一軍城砦都市防衛隊 隊長エドワード=ムーア】
大砂百足の姿がない。
朝日が昇り、戦闘が始まった。
我々防衛隊が一番の強敵と定めた大砂百足の動向確認だが、肝心な相手が見えない。
地下に潜ったか。
大砂百足は主に大陸の西側に生息しているので、我々第一軍に奴らの生態に詳しい者がいない。
この地に現れた時には地上を這い進んでいたので、その様に動くと思っていたが、数日前から地上に群れを見ることが無くなった。
ただ、時折砂状になった地面から這い出している姿が目撃されていた。
なので地下にいる事は予想していたが、もしや、そのまま地下を進んでこれるのか?
私は100人程の防衛隊騎士を街壁上から下に降ろし、その者達に街壁に耳を当てて音を聞け、と命じた。
地下の動きは、街壁に伝わる。
街壁上を走り回る足音に紛れた、その音を聞き分けなければならない。
◇
私は防衛隊の指揮を執るため西門直上の街壁上にいる。北西監視所には騎士団長と参謀の連中が残り、軍団長以下は各部隊を指揮している。
骸骨どもが動き出したのを見て、笛が吹き鳴らされ、地上にいる部隊に伝声管で伝える。
骸骨どもが二手に分かれた。
騎兵は西側から南門方向へ、歩兵は戦場拠点から続く障害壁区域にまっすぐ突入してくる。
「投石放て!」
本来は大砂百足用に準備していた複数の投石機から大岩が放たれる。
さらに弓兵が弓を放つ。
投石器が再装填を行い、二射目を放つ。
その時、慌てた様子の伝令兵が街壁上を駆けてきた。
「隊長!北門が開いています!」
「なに?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
ここは西門だ。
第二軍は南門から出て布陣し、そこに骸骨騎兵が向かっている。
北門?
北門は封鎖され、監視役の騎士を1部隊10人配置している。
「すぐに確認に向かえ!北門を閉じるのだ!ケビン、30人程連れて行け!エドゥー、北門周辺を確認しろ、骸骨を探せ。」
「はっ!」
「ミューズ、仮設司令部へ行き、軍団長に伝えろ。北門周辺に骸骨侵入の未確認情報あり、だ。」
「はっ。」
私の部下達が街壁上を走り、階段を駆け降りる。
夜のうちに街壁への接近を許していたようだ。
だが、どうやって侵入した?
なぜ、北門を開けたのだ?
骸骨の本隊は北側に展開していないし、別働隊の姿もない。
侵入者は少数だ。
奴等は侵入に成功した。
いや、侵入したのは少数で、北門にいた10人を倒し、北門を開けたのか。
そこにいる大勢の仲間を入れる為に。
それ程の人数が夜のうちに接近していたのか?
なぜ気付かなかったのだ。
いや、それよりも、そいつらの目的だ。
内部からの混乱か?それとも・・・。
「お前ら全員付いて来い!」
「はっ!」
私は北西監視所に向かって走り出した。
西側の街壁上には我々がいるが、北側の街壁上は誰もいなかった。
暗殺が目的なら、敵はここに来る。
私の予想は当たった、だが、間に合った。
北門に向かったケビン達30人の騎士が街壁上で骸骨相手に戦っている。
部下達を増援に向かわせ、私は監視所の階段を駆け上がった。
「閣下!ご無事ですか!」
「どうした、エドワード。その様に慌てて。」
「申し訳ございません。北門から骸骨の侵入を許しました。敵は少数と思われ、現在北の街壁上で戦闘になっております。」
「そうか。闇に紛れて接近したのか。」
「おそらく。すぐに討伐いたします。」
「任せる。その後に南西監視所に移動しよう。どうやら骸骨どもはこちらの用意した戦場で戦ってくれるようだ。」
「はっ。」
私は街壁上に降りてきた。
剣戟の音が予想以上に近い。
街壁上の戦闘に目を向けて、私は驚きの声を上げた。
そこには10体ほどの骸骨の姿があった。
その足元には多数の騎士が倒れている。
ボフゥ
炎の斬撃が放たれ、一人の騎士の身体が燃え上がり倒れた。
ザシュザシュザシュ
連続する切断音が聞こえ、騎士の腕が落ち、頭が落ち、身体は分断され倒れた。
骸骨の集団の前衛に2体の骸骨騎士がいる。
火炎を纏った斧を持つ小柄な骸骨と、2本の剣を両手に持つ長身の骸骨だ。
私はこの二人を知っている。
リッター=ムーアとレクター=ムーア。
私は剣に手を掛けた。
この戦いは私にとって仇討ちであった。
そして、弔いでもある。
骸骨に成り果ててしまった二人の魂を救うのだ。
「魔技、水剣、岩断斬!」
「極炎斬」
骸骨は声を発しなかった。
だが、私の耳には、そのように聞こえた。
私の瞬速の抜刀剣より速く、私の右腕は斬り落とされ、身体は炎に包まれた。




