77話 皇弟ブキャナン=グローバー
【ル・ゴール帝国皇弟ブキャナン=グローバー】
骸骨の首領との会談を終え、今後の事を考えていると、夜が明けた。
私は朝食前に小型飛空挺の準備を命じると、朝食後に帝都に向かった。
◇
帝都。帝国騎士団司令部。
「魔導通信書が北方騎士団ブキャナン騎士団長殿より届いております。」
「見せろ。・・・。戦況報告に来る?騎士団長が前線を離れるとは、まだ骸骨どもとは開戦していないのか?」
「来訪予定だけか?ならば詳細はお聞きすれば良い。司令部の人員を集めろ。」
「はっ。」
◇
帝都。宮殿内の一室。
「おはようございます。陛下。」
「うむ。今日の予定を聞かせてくれるか。」
「本日は北の前線よりブキャナン騎士団長が帝都にお戻りになるそうです。陛下にお会いしたいとのお話が来ております。」
「ブキャナンか。久しいな。いつ会えるのだ?」
「午前中は騎士団司令部で過ごされますので、ご昼食をご一緒されてはいかがでしょうか。」
「うむ。それで良い。」
「では、そのように手配いたします。その後、15時のお茶会が白ばら庭園でございます。主催はナタリー=ゲールマン侯爵夫人でございます。」
「うむ。では、昼までは時間があるのだな。」
「はい、ご予定はございません。陛下。」
「うむ。ではトーマスに会ってくるとしよう。」
「はい、陛下。」
◇
私は帝都に到着してすぐに騎士団司令部へと通された。
部屋の中には司令部の面々が揃っている。
では、彼らに話すとしよう。
帝国が滅びの道へと歩み始めた事を。
そして帝国の未来を託さなくてはならない。
これは騎士団長ではなく、皇弟ブキャナン=グローバーとしての勤めだ。
◇
私の話は終わり、部屋の中には不思議な静寂の時が訪れた。
これは嵐の前の静けさというやつだ。
この後、一人が話し始めれば、この場は罵声と怒号と悲嘆と運命を呪う声で満ち溢れる。
私は席を立ち、部屋を出た。
声を掛けられたようだが、私が伝えるべき事は既に伝えた。
◇
兄である皇帝と昼食を供にした。
彼の横にあの女がいないのが幸いだ。
食事は私の大好きだった肉の腸詰めと芋のスープだった。
私がこれを好きだったのは10代の頃だが、おそらく兄か昔なじみの料理長の計らいだろう。
「勝ってこい。」
別れの時に兄から声を掛けられた。
私は黙って頭を下げた。
口に出しては、嘘になるからだ。
◇
帰りの小型飛空挺の中で、今後の事を考える。
今回の事は私が地位を利用し、騎士団長の務め、皇弟の務め、と理由をつけたわがままだ。
全ての騎士達に別れを伝えたい者がいるだろう。
だが、それを叶えてはやれない。
ファルゴだけは、何か理由を見つけて帝都に帰す。
それが、私の最後のわがままだ。
◇
戦闘準備の日々が過ぎ、合流が遅れていた第二軍第三大隊2000人も城砦都市に到着した。
日が暮れて夜になる。
城砦都市は張り詰めた空気で満ちている。
誰もが声を潜め、物音を立てずに静かな夜を過ごしている。
最後の夜だ。
朝日が昇れば、骸骨との戦いが始まる。
■■■
帝都。北の館の一室。
「陛下。もうお休みになりませんか。」
「休んではおれんのだ。これは帝国の危機なのだぞ。」
「あら、私にはわかりませんが、それほど難しい問題なのですか。」
「そうだ。18の領国を各侯爵家に割り当てねばならん。失敗すれば帝国内の勢力バランスが崩れてしまう。」
「まぁ。でも、領国は平民の代官に任せるのでしょう?帝国のバランスを崩すようなことになりましょうか?」
「ああ、そうだとも。王族の血を継ぐ者では無い、ただの平民を領主代行にするのだ。彼らは帝国を裏切る事もないであろうからな。」
「では、ご心配は無いですわね。」
「ああ。いや、どの侯爵家がどの領国の領主となるのか、それを検討せねば。」
「まぁ。それは明日にできませんの?もうお休みの時間ですわよ。」
「18の領国があるが既にキステードはグローバー家に、ノールデアとフェンクルはディアン家に決まっておるな。やはり帝都近郊はグローバー家に任せたいが、うむぅ。」
「まぁ。私は先に休ませてもらいますわね。」




