70話 第一軍第一大隊大隊長ロッド=グローバー
周辺の魔物討伐の為に散開していた部隊が戻ってきた。
泥人形の小鬼たちの他に魔狼や魔犬の群れ、大きな角を持った牛のような普通の魔物もいたようだが、その数は多くはなかったようだ。
では、第一軍城砦都市攻略に、と行きたい所だが、峠越えの別働隊との合流がある。
先に開戦しては、彼らに怒られるだろうし、何より腐肉喰い丸スライムがいない。
それに、おそらく第一軍側も第二軍との合流はしていないだろう。
やはり、ここは敵を合流させて一度に叩きたい。
では、第一軍にはそれを理由に開戦延期の連絡をするとしよう。
今回もガーギウス大使に連絡役を頼もう、として俺の動きが止まった。
そう、彼は馬車の中で、別働隊としてこちらに向かっている最中だ。
ここにいる骸骨軍団の中で、人間と会話ができる者は俺だけだ。
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【ル・ゴール帝国北方騎士団第一軍第一大隊 大隊長ロッド=グローバー】
ファルゴ軍団長の命を受けて、第一軍の土魔法が得意な騎士達が集められ、西門の外に多数の土壁を作成している。
べリン参謀長たち5人の参謀が考えた集団戦を避けるための曲がりくねった複数の細道を作る作業だ。
これが完成し、期待通りの効果が出れば、集団戦の得意な骸骨共は分散し、部隊単位での戦闘に慣れている我々が有利になる。
私の騎士達はその作業の外側で周辺警戒をしている。
離れているとはいえ、約1万体の骸骨の集団には注意が必要だし、それ以外の方向にもいつも通り魔物の出現を警戒しなくてはならない。
「ロッド大隊長。敵に動きがあります。大砂百足が1匹、こちらに来ます。」
「百足、か。」
「ええ、頭に骸骨が乗っているようです。」
「なっ?」
北西の方を向けば、骸骨の集団からゆっくりとした動きで大砂百足がこちらに接近しているようだ。
「全軍に通知しろ。第一大隊は西門正面に防御陣。土魔法の連中は下がらせろ。」
「はっ。」
◇
相手が1匹とはいえ大型の魔物だ。こちらも油断はできない。
盾を構えた騎士を前面に並べて、第一大隊の騎士2000名が分厚い防御陣を作る。
その手前30mほどのところで大砂百足は止まり、頭を地面に降ろした。
その頭から、2体の骸骨が降りてくる。
一体は灰色ローブに盾を持ち、腰には剣を提げている。
もう一体は鎧姿に白マント、盾は持たず剣を提げている。そして、左肩に鳥を一羽とまらせている。
その二人がゆっくりと歩き、10mほどの距離で止まった。
そのまま止まっている。
なんだ?
私が戸惑っていると、隣に立つリングス隊長が話しかけてきた。
この男はファルゴ軍団長が私を大隊長に任じる前の第一大隊大隊長だった。
「ロッド大隊長。彼らは特使でしょう。」
「特使?」
「はい。開戦前の挨拶、かと。」
そうか。いや、魔物がそんな事をするのか?
「私が対応いたしましょうか。」
「いや、私が話す。リングス、付いて参れ。」
「はっ。」
ここで彼のいいなりになれば、部下達に示しがつかない。
ファルゴ軍団長の騎士学校の同級生であった私は、彼が軍団長になった時に大隊長に抜擢された。
参謀長と他の2人の大隊長もそうだ。
「仲良し司令部」と陰口が囁かれているのは知っている。
隙を見せてはいけないのだ。
前衛の盾兵の間を抜けて、私とリングスが骸骨の前に立った。
骸骨が口を開く。
「第二軍は合流したか?」
骸骨が流暢に話しかけてきた。
第二軍との合流予定を知っている事に驚いたが、こういうやり取りではペースを握った方が勝つ。
「ふ、まずは名乗ろうではないか、特使殿。私はル・ゴール帝国北方騎士団第一軍第一大隊大隊長ロッド=グローバーである。」
「そうか。私は骸骨だ。で、第二軍とは合流したのか?」
む。名乗らぬか。まぁ、魔物ならばそうであろう。第二軍との合流が気になるようだが、こういう相手が欲しがる情報は出し惜しむ事と決まっている。
「名乗っていただけないのは残念だな、骸骨殿。しかし、第二軍との合流か。答えんでもないが、それを聞いてなんとする?骸骨殿。」
「単純だ。合流しているのならば戦う。合流してなければ、合流するまで待つ。で、第二軍とは合流したのか?」
合流してなければ待つ?
本当か?
しかし、「合流した」と言えば、すぐに戦闘開始だという。
土魔法での細工はまだ始めたばかりで準備が整っていない。
ならば「合流していない」といえば時間が稼げる。
だが、魔物がそんな約束を守るのか?
守らなければ、すぐに戦いを仕掛けてくるだろう。
それでは「合流した」と言うのと替わらん。
ならば。
「第二軍とは合流していない。」
「予定はいつだ。」
今度は日数の確認か。予定では4日後だが。
「合流予定は6日後だ。」
「6日後。わかった、では戦闘開始は7日後の日の出だ。」
「7日後の日の出。」
私が復唱すると2人の骸骨は背を向け、大砂百足の頭に登った。
そして、大砂百足がゆっくりと動き出し、北西の鬼の拠点に戻っていく。
私は無言でその姿を見送った。
私は時間稼ぎに成功したのだろうか。それとも、罠に嵌ったのか。
「ロッド大隊長。見事な交渉でした。ファルゴ軍団長への報告をいたしませんと。」
動かない私にリングスが声を掛けてきた。
私の意識が城砦都市に向く。
「そうだな。リングス、ここは任せる。作業を再開させろ。私は司令部に報告に行く。」
「畏まりました。」




