69話 第一軍城砦都市防衛隊隊長エドワード=ムーア
戦闘は30分もせずに終息した。
我々と小鬼と豚面鬼の集団が激突し、乱戦となった。
小鬼どもは素早く動き回ったが、こいつらに骨を断ち切る力はなかった。
豚面鬼は力が強いが、こいつらの動作は鈍かった。
前衛部隊は魔技と武技を放ち、こいつらを粉砕した。
赤鬼と青鬼は少し手強かった。
赤鬼が振るう棍棒は骸骨騎士の骨を粉砕した。
青鬼が放つ雷撃の魔法は骸骨騎士の動きを鈍らせた。
だが、我々はそいつらを圧倒した。
雷撃の魔法を受けて動作は鈍ったが、それは骸骨騎士の前進を止める事はできなかった。
骸骨騎士が骨を粉砕されても、次の骸骨騎士の剣が赤鬼の体を切り裂いた。
赤鬼と青鬼たちの前には常に骸骨騎士が立ち塞がった。
奴らが逃げようと背後を振り向けば、そこにも骸骨騎士の姿があった。
◇
倒した魔物の数は3000匹を超えるぐらいと思われる。
シグス、ドラゴの部隊も問題なく魔物を駆逐した。
武技持ちでも十分戦える事が確認できた。
500体ほどの骸骨と骸骨馬に被害がでたが、上出来だ。
さて、第一目標の魔物の群れは片付いた。
俺は全部隊に自由戦闘を許可した。
この後の第一軍との戦闘を考えて、とりあえず、この周囲にいる魔物は駆逐しておく。
◇
戦闘終了後、俺はこの地を確認したが、特に魔力的に特別な地ではないようだ。
単なる小鬼どもの拠点だったようだ。
その小鬼どもだが、死体は残らなかった。
奴等は絶命すると泥の塊になった。
その中には小さな丸い魔石が埋まっていた。
どうやら、こいつらは人工的に作られた泥人形の魔物だ。
俺は周囲を見渡した。
ここから南東方向には戦闘拠点の小さな防壁、その背後に城砦都市の3つの尖塔と巨大な街壁。
南西方向は我々が出てきた岩のトンネルのある山、そのまま西側には山々が連なりを見せている。
そして、北西方面の山の麓に「城」があった。
それを目にした俺は、そこに「何か」を感じた。
この感覚は、魔力の泉でも感じた、強い魔力の存在だ。
では、あの城が魔人の拠点なのだろう。
そして、泥人形の魔物はあの城で作られている。
■■■
第一軍城砦都市。街門、北西監視所。
「骸骨の集団を発見!」
見張り番から伝えられた内容に、来る戦闘に向けての軍議中だった司令部の面々は、しかし、慌てる事無く戦闘準備を始めた。
司令部は城を出て、街門上に設置されている北西監視所に場所を移した。
3本の尖塔よりは低いが、この監視所の方が部屋が広く、戦闘部隊への伝令も出し易いからだ。
そこで彼らは、骸骨の集団が魔物側の戦場拠点である廃村に突撃する姿を見たのだった。
◇
【第一軍城砦都市防衛隊 隊長エドワード=ムーア】
「ふーむ。どうやら、終わったようじゃな。」
望遠筒から目を離したブキャナン=グローバー騎士団長が静かに声を出した。
後方に控えていた私は窓の外から視線を戻した。
早すぎる。
それが私の感想だ。
我々が全軍突撃しても、多分同程度の時間で処理できるかも知れない。
だが、戦死者と負傷者が多数でる。
そんな事をしたら、次の日以降の防衛に支障がでる。
だから我々にはできない。
それを、あの骸骨どもはやったのだ。
死を恐れない魔物。
その戦闘力は我々以上か。
面白い。
私の中のムーア家の血がうずく。
それは、騎士団長も同じだろう。
彼も、最後に暴れたのは20年前だ。
以来、騎士団長として前線に出る事無く日々を過ごしている。
ゴール皇帝の異母弟。
その性格が政治向きでなく騎士向きなのは、母親がムーア家の出身だからだろう。
「叔父上、どう見ますか?」
騎士団長に声を掛けたのは、ファルゴ=グローバー第一軍軍団長にしてル・ゴール帝国第一王子だ。
彼は、16歳で帝国騎士学校を主席で卒業し北方騎士団第一軍に任官。
18歳で大隊長を務め、昨年、21歳で軍団長に就任した。
「強いな。」
「そうですね。情報通り集団戦に長けているようです。騎馬部隊が周囲を囲み、歩兵部隊が突撃する。魔物の集団とは思えないです。」
「うむ。おそらく統率者がおる。その者は人間か元人間なのだろう。」
「なるほど。そいつが骸骨の群れのボスならば、そいつを倒せばよい、と。」
「無論。敵もそう思っておるじゃろうがな。」
「そうですね。しかし、まずはその者を見つけるのが肝要でしょう。見張りの者に命じます。」
「戦の準備じゃが、土魔法の得意なものを集めよ。」
「土魔法。なるほど、敵の足を止めますか。」
「それもある。集団戦が得意ならば、それを離すのも手じゃ。」
「わかりました。では、一度下がります。」
「うむ。」
ファルゴ=グローバー第1軍軍団長が3人の大隊長と5人の参謀部員を引き連れ、北西監視所から街壁上に降りていった。
監視所にはブキャナン騎士団長と従兵2名と私が残った。
「エドワード。」
「はっ。」
「第二軍は間に合わんな。」
「そのようです。」
帝都からの共同作戦案には骸骨の集団は5日後の出現予想となっていた。
第二軍はその予定に沿って4日後の到着予定だ。
「失礼します。」
階段を上がって10人ほどの騎士が現れた。
敵首領を発見するための監視員だ。
手に持った望遠筒で骸骨の集団の監視を始める。
「では、私も西の兵舎に下がる。」
「はっ。」
騎士団長と2人の従兵も監視所を出て行った。
私は外の景色に視線を向けた。
見慣れた平原を、骸骨の複数の集団が駆けている。
どうやら鬼どもの拠点を潰したので、平原に散っている鬼や魔物を排除するために部隊毎の分散行動に移ったようだ。
私も望遠筒を覗き見る。
遊撃に出ている騎馬部隊の先頭には白マントや青マントを付けた骸骨がいる。
どうやら1部隊に1体か2体はこいつらがいる。
これは我々の装備だ。
白マントは騎士団長を表し、青マントは副団長・部隊長を表す。
骸骨もそうなのだろうか。
では、首領格の者もマントを付けているのか。
マントを付けずに紛れているのか。
わからんな。
望遠筒を動かしていると、ソレが見えた。
大砂百足の群れ。
この戦闘には参加せず、一塊になっている。死んでいるように動きがないが、こいつらも亡者なのだろうか。
私の城砦都市防衛隊にとっては、こいつらが最大の敵だ。
第二軍から提供された資料によれば、第三軍城砦都市は大砂百足の群れに襲われ陥落した。
我々は撃退できるだろうか。
いや、撃退しなければならないな。
私の中のムーア家の血がうずく。
これは戦闘に対する渇望なのか、それとも仇討ちの義憤か。
リッター=ムーアとレクター=ムーア。将来を有望視されていたムーア家の若者二人が休暇の際にノールデア領に向かって以来、行方不明となっている。
それに、同じくノールデア領で発生した骸骨集団の討伐に第一大隊の40人が派遣され、全滅している。
その相手が、力を付けて我々の前に姿を現した。
我々は、これを撃退しなければならない。




