67話 東砦から湿地帯へ
我々骸骨軍団はシーカーと骸骨大砂百足を先頭に2部隊縦列を作り森に侵入した。
別働隊を除けば104部隊あるので、隊列は2000mぐらいになるな。
先頭の骸骨大砂百足が森を抜けて沼地に入っても最後尾はまだ砦を出ていないぐらいには長いな。
森の中なので魔物の気配はするが、我々に襲い掛かってくるモノはいない。
森を抜ければ一面の花畑に出た。
骸骨大砂百足が通りすぎた後なのでかなり荒れてしまっている。
空気中には周囲が霞むほどに花粉が舞っている。
ドウアンはこの辺りを毒草が生えている、と教えてくれたが、この花粉がソレだろうか。
我々には毒、麻痺、睡眠、幻覚等は無効なので問題ない。
ただ、魔力吸い草という危険なモノがいた。
これは獲物の体の一部に動くつる草を絡め、獲物の魔力を吸い取る。獲物は脱力し、その場に昏倒してしまう。
動くつる草は独特の薄い青色をしているので、知っている者が見ればすぐに分かる。
我々は知らなかった。
十数体が巻きつかれたが、焼き切れば大丈夫だ。本体も焼いてしまう。
魔力を失った骸骨は行動不能となり、重傷の者は体を維持できなくなってバラバラになってしまった。
一晩寝れば治るので、所属部隊をその場に残した。
こういう事があると骸骨運搬用の背負い籠が欲しくなる。
◇
花畑の先は沼地が広がり大小の池が点在していた。ここは地面がぬかるんでいて歩くには面倒だ。
泥の中からは地上の獲物を狙う大ミミズのようなモノが骸骨騎士の足に食いついたが、これは問題なく退治した。
大沼蛙は池の中に逃げ込み、その水面には黒い蟲がいるが、こちらに飛んでくることはなかった。
池の岸辺には大トカゲがいたそうだが、これは骸骨大砂百足が捕食した。
進行速度が多少遅れたが湿地帯も抜けたようだ。地面は傾斜地となり足場は岩地となった。
この先は山登りになる。
◇
ギャアギャア。
ギャアギャア。
騒がしい鳴き声が上空から聞こえてきた。
空を見上げれば、大きな翼に長い首と長い尻尾を持った2本足の飛竜が10頭ほど群がっている。
どうやら、骸骨大砂百足を餌の蟲と思っているようだ。
シーカーはいつも通り、俺の肩に帰ってきている。
飛竜の群れから数頭が骸骨大砂百足に対して下降攻撃を仕掛けている。
そして、シーカーを追ってなのか、こちらにも1頭の飛竜が飛んできた。
翼を広げれば幅10mは超えるような大物だ。
4本足の飛龍は別格だが、この2本足の飛竜も空の魔物では最大クラスだ。
その姿を見て、俺は期待し、次いで後悔した。
期待は、こいつを「吸魂」すれば、骸骨飛竜騎士部隊ができる。
後悔は、腐肉喰い丸スライムが今は別行動をしている事、だ。
倒して「吸魂」しても骸骨化作業が今はできない。
腐肉飛竜にはできるだろうが、それは俺が嫌だ。
骸骨飛竜に乗る骸骨騎士が見たい。
骸骨飛竜は飛べるのか?それは確認の必要があるが、大丈夫だと信じている。
そのように俺が自分勝手な思考を巡らしている間に、レッドの『火球』が数発、飛竜に命中し高度が落ちたところに後方の骸骨部隊からも『電撃球』の魔法が飛んできた。
堪らず地面に墜落気味に着地した飛竜に骸骨部隊が群がり切り刻む。
ギャオオオオーーーン!
悲痛な鳴き声を上げて飛竜が倒れる。
そうか、移動を優先し、森の中の魔獣討伐はしていなかった。
戦闘意欲が骸骨騎士達に溢れていたんだな。
ビデスが遠距離魔法が得意な骸骨を40人、骸骨大砂百足の援護に向かわせた。
シグスは部隊が戦闘参加し易いように隊列を広げている。
風が吹き荒れ、火球が飛び、雷撃が空を走る。
飛竜は地に落ち骸骨が群がる。
半刻ほどで戦闘は終わり、13頭の飛竜が地に倒れ、俺は「吸魂」した。
土魔法で穴を掘り、飛竜の死体を埋め、目印となる巨石を置いた。
北方騎士団との戦闘が終わったら腐肉喰い丸スライムを連れてこよう。
■■■
【ル・ゴール帝国北方騎士団第二軍第三大隊 大隊長フランク=ホルト 】
骸骨どもの接近の連絡を受けた我々第二軍第三大隊は第三軍城砦都市を離れ、街道を東へ向かっていた。
そこへ、第二軍城砦都市からの伝令兵がやってきた。
彼から受け取った通達によって第一軍との共同作戦と第一軍への合流命令を受け取った我々は街道を南に逸れ、シロンクス領からバルバサ領に入った。
バルバサ領のデ・ディストの街は第二軍城砦都市への食料搬出拠点都市の一つだ。
我々がこの街に入った時には既に本隊は街を離れ、東のロイセン領に向かっていた。
我々もすぐに追いかけたいところだが、兵に疲れが見えるので1泊の休息をとった。
翌朝。
我々が出立の準備をしていると、一騎の伝令兵がやってきた。
彼は第二軍偵察部隊所属の騎士だ。
彼の名は知らなくても、彼の騎乗する白毛の山羊の魔獣は有名だ。
人が騎乗できるほどの大きな体躯に、それに似合わぬ俊敏な動きと馬にも匹敵する駆け足を持つ。
「大隊長。偵察部隊所属、ダリーム=フォルラーです。骸骨集団に関してご報告がございます。」
そうだ、彼の名乗りを受けて、私は彼の名を思い出した。
「うむ。」
「骸骨集団は本日未明、ノトブー峠を越えました。数は骸骨兵約300、馬車6台。それと大砂百足と思われる魔物が一体です。」
「300。それだけか。」
「はっ。本日未明に私どもが確認したのは以上です。」
「わかった。」
「では、私はこれより本隊に向かいます。」
「・・・うむ。」
立ち去る彼を私は引きとめようとしてやめた。
彼は自分が見た事を伝えるのが仕事だ。私から余計な情報を与えるべきではない。
彼が去り、私と一緒に報告を受けた部隊長達に向け、私の考えを話す。
「聞いた通りだ。峠を越えたのはごく小数の骸骨だけだ。骸骨の本隊は別の道を進んでいる。」
「そのようです。おそらく、東砦から東進するのではないでしょうか。」
「街道を真っ直ぐ進めばそうなるが、あの先は毒草の沼地だぞ。」
「奴等は魔物だからな。おかまいなしじゃないのか。」
「なるほど。」
「大隊長。もし奴等が予想通り東進したとすると、奴等は既に山を越えたのでは?」
「なっ!?」
若い部隊長の発言に場がざわつくが、私の予想も彼と一緒だ。
「そうだろうな。奴等は魔物だ。我々が寝ている間も歩き続け、我々が食事をしている時も歩き続ける。」
「しかし、あの急峻な山道を。」
「だからこそ、山を越えられない馬車だけが峠を越えたのですね。護衛を付けて。」
「しかし、そうなると我々が第一軍に合流する前に奴等は第一軍との戦闘になりますな。」
「そうだ。そして我々第二軍は奴らの背後を突ける。その為にも一刻も早く本隊に合流する。各部隊出発準備を確認せよ。」
「はっ。」
部隊長達は確認に向かった。
私は東の空を見上げた。
部下の前では言えなかったが、おそらく間に合わない。
城砦都市での篭城戦を選択した第三軍は一晩持たなかった。
第二軍が第一軍城砦都市に到着する頃には、恐らく第一軍は壊滅している。
それでも、我々は戦地に向かうのだ。




