63話 第三軍鉄騎部隊クロウ
我々骸骨軍団は出城に戻ってきた。
次の目的地は東の帝国北方騎士団第二軍だが、その移動は骸骨大砂百足の回復待ちなので、明日までは骨休めだ。
シグスは隊列を作り集団行動訓練に入った。
真面目な奴だ。
俺は腐肉喰い丸スライムに頼んで魔人メリッサの身体を骸骨にする。
「授魂」
「吸魂」の時のような異変は無く、青黒い魂は骸骨の身体に吸い込まれた。
骸骨の額には魔法印が浮かび上がり、骸骨魔法操兵となった。
スキルは『魔力操作』。元魔人らしいスキルだな。
彼女が動き出す。
「メリッサ。」
「・・・。」
おかしい、返事がない。
いつもならここは「はい、マスター。」と返事を返してくれる所だ。
やはり魔人だから何かが違うのか。
俺への従属効果が付与されていないのか。
「・・・ない。」
「うん?」
メリッサの思念が小さく聞こえた。
目の前に立つメリッサは頭をやや下げて、左手を胸骨にあてている。
「どうしたメリッサ。なにか不具合でも?」
「胸が・・・。」
「うん?」
「胸がな~~い!!うえぇぇぇぇぇーーーーん。」
メリッサの骸骨は走り去ってしまった。
その後をポヨンポヨンと腐肉喰い丸スライムが跳ねて追って行く。
そうだな。
骸骨だからな。
女性には大問題か。
ルー伯爵夫人クラリスは屍人だ。
元は女性だったゴーストもいるが、ほぼ自我が無いので問題なく骸骨魔法操兵となっている。
いや、他人がどうこうよりも、これは彼女の問題だな。
受け入れてもらうしかないのだが。
できれば今日は彼女の記憶の中の「魔王」と俺が討伐対象としている「魔王」についての確認をしたかったのだが。
今はそっとしておくか。
■■■
【帝国軍北方騎士団第三軍 鉄騎部隊クロウ】
第二軍第三大隊と共に城砦都市に戻った俺とステファンはフランク大隊長から骸骨達の動向調査を命じられた。
元より偵察任務が俺たちの主任務だ。
鉄騎に跨り、この出城までやってきた。
まさか、自分達の砦を偵察する日が来るとは。
砦より500mほど離れた大岩の影に隠れながら望遠筒で監視をする。
俺たちには同行者が一人いる。獣使いのドウアンだ。
第二軍の担当地域は中央大森林だ。そのため馬や鉄騎での移動はできない。
そこで伝令や通信役として活躍するのが彼ら獣使いだ。
ドウアンは伝書鳩という鳥を使役する。
俺たちが見た骸骨達の状況を紙に記し、伝書鳩の足に付けた通信筒に収めて、伝書鳩を城砦都市に飛ばす。
小さな鳥なので書類用紙の4分の1程度の大きさの紙しか運べないが、驚異的な速度で空を飛べるので出城から城砦都市までは5分と掛からない。
城砦都市側で担当官が通信筒を開け、返信が無ければすぐに戻ってくる。
接近しても羽ばたきの音は小さく、今も気付けばドウアンの肩に乗っている。
◇
骸骨どもの動きだが。
俺たちがこの地に着いたのは夜明けを過ぎた頃だ。
周囲は静かで出城の周囲には180から200体ほどの骸骨が立っていた。
なんで砦の中か防壁の上ではないのか?と思ったが、所詮は奴らも魔物だ。奴らの考えは分からない。
その日はそのまま何も無く日が暮れた。
特筆すべきは、立ち番と思われる推定200体の骸骨どもが微動だにしない事と出城周辺に魔物が出現しない事だ。
城砦都市から出城までの地域は魔物の掃討を進め、人間が支配力を高めた。
だが、出城周辺から北側には魔物が大量に出没する。
特に夜間は魔狼の群れが周囲を囲むのが日常だ。
それが、静かだ。
出城も静かだ。
骸骨どもの本隊はここには居ないのか。
では、この200体の骸骨はなぜここにいるのか?
◇
翌日の昼に骸骨の本隊が現れた。
どうやら北の方へ遠征していたようだ。
大砂百足の姿は見えない。
出城周辺の200体の骸骨も集結した。
肩に鳥を乗せた白マントの骸骨を中心とした20人ほどの骸骨が出城に続く石階段を登っていった。
あの白マントが骸骨のボスか。
出城の正門が内側から開けられ、その内側に複数の人影が見えた。
骸骨ではない。彼らは誰だろう。
200体の骸骨は彼らを守っていたのか。
他の骸骨どもは隊列を組んで行進を始めた。
大人数の一致した足音が周囲に大きく響く。
隊列の先頭を始め、数人の白マントと青マントの姿が見える。
ああ、あれは元騎士団の隊長達の装備をそのまま着ているのか、と納得した。
あの骸骨達も隊長役なのだろうか。
それにしても一体何体いるのか。
それが、見事に統制が取れて行進している。
この状況をドウアンは複数の紙片に書きとめ、伝書鳩に城砦都市との往復をさせている。
ん?
正門から一体の骸骨が走り出てきた。
そのまま石階段を駆け下り、途中で空中に飛び上がり、大きな砂煙を上げて落下した。
なんだ?
あっ、砂煙の中から走り出てきた。
その骸骨は、我々の方に向かって凄い勢いで駆けてくる。
まさか、我々の存在がばれたのか!?
ステファンとドウアンに撤収準備の声を掛ける。
あっ、止まった。
我々よりかなり手前の岩に着いた所で骸骨は立ち止まり、岩に腰掛け、膝を抱えた。
なんだ?
まるで落ち込んでいるか、泣いているかの様な行動だ。
少しして何か小さなモノがその骸骨の周囲に現れた。
膝を抱えていた骸骨は、ソレを手で捕まえて、放り投げた。
ふたたび小さいモノが骸骨の元に戻り、ソレを骸骨が投げる。
それを数回繰り返した。
あ、骸骨が立ち上がった。
足を上げ、手を大きく振って、小さなモノを遠投した。
投げられたモノは空高く飛び、あっ、鳥に捕まった。
だが、飛んで行くと思われた鳥は、なんと足で捕まえた小さなモノを再び骸骨の元に届けた。
この鳥は、白マントの骸骨の肩にいた鳥か?
骸骨は再び小さいモノを手に取った。
しばらく手の中のモノを見ている。
ん?その手を胸にあてたのか?
手を離した骸骨の胸には小さなモノが張り付いているように見える。
骸骨は両手を挙げて飛び跳ねた。
鳥もその頭上で円を描く。
あっ、骸骨が出城に向かって走りだした。
どうやら我々の存在がばれた訳では無いようだ。
では、俺が見たのはなんだったんだ。
同じく望遠筒で様子を見ていたステファンとドウアンの三人で意見交換をした。
結論はでなかった。
予想はしたが、骸骨に女の子がいるか?
ドウアンは報告書の文面に思案している。
その小さな紙片には書ききれないような変事が起きていたのは確かだ。




