61話 魔人の女
ディエゴが俺の正面に回り込み盾を構える。
ディエゴにはスキル『魔法吸収壁』が備わっているので、大量であっても魔力による圧力は吸収できる、と思われる。
吸収限界量はあるのだろうか?
他の骸骨達も盾や土壁、水壁を展開し衝撃に耐えたようだ。
キシィィィ!
滝つぼの水が凍り付いていく。
骸骨の中に氷魔法が得意な者がいた。これで足場は確保できた。
ドスゥウゥゥゥ!
周囲の土壁から無数の土槍が飛び出し女を襲う。
だが、女の周囲の魔力の壁が土槍を受け止め、それを土塊に戻す。
この女は魔人だ。
理由は分からないが、この場所で魔力を吸収していたようだ。
魔人の女の周囲の空間に幾つもの赤い光の文様、魔法陣が浮かび上がる。
おそらく複数の炎の魔法攻撃を仕掛けようとしている。
「抑えろ!」
咄嗟にでた俺の指示でディエゴが俺の正面から魔人の女に向けて走り出した。
魔人の女の周囲に展開している魔力の壁は、『魔法吸収壁』に吸収され、ディエゴは魔人の女の身体に組み付き両手を押さえる。
「なっ!!」
これには魔人の女も驚いた様だ。
「離れろ!骸骨めが!!」
魔人の女は振りほどこうと身じろぎするが、ディエゴがそれを抑える。
魔人の女も身体強化はしているが、その効果もディエゴの『魔法吸収壁』の力でほぼ無効化されている。
ディエゴの骸骨の身体が光り輝いている。
この場の魔力を吸収し、その力で『魔法吸収壁』の力を増大させ、さらに魔力を吸収している。
空中に描き出されていた魔法陣も消えた。
俺の体内に感じていた魔力の熱も肩から腕を伝い、両手の指先から抜けて行くのが感じられる。
この感覚は魔人の女も感じていることだろう。
さて、この場は魔法が封じられたことになる。
では、攻撃手段は武器による物理的な攻撃だ。
ディエゴが正面から抱きつくように魔人の女を抱えているので背後は空いている。
魔人の女を6人の骸骨騎士が囲み、槍先を突き込む。
「ギャァァァァ!!」
突き込んだ槍先を引くと傷口から流れ出た血が止まり、傷口が塞がるのがわかる。
骸骨騎士達は再び槍を突き刺し、そのままにした。
「ウゥゥゥ・・・イ、イタイイィィィィ・・・」
周囲の骸骨騎士は入れ替わり、さらに6本の槍を突き刺し、交代し、さらに6本の槍を突き刺す。
ブチィ
ドサ
「ゥゥ・・・ァァァァ・・・・」
脱力した魔人の女からディエゴが手を離すと、彼女の身体は氷の上に落ちた。
多数の槍によって分断された上半身と下半身。
その心臓と頭部に槍を突き入れ、魔人の女は死んだ。
「吸魂」
青黒い魂が魔人の女の身体から抜け出し、俺の左手に向かう。
だが、その動きが左手の前方で止まった。何かの力が吸魂の力に抗っている。
通常ならば、死体から漂い出る魂は青白い。
この魔人の魂は青黒い。
青黒い魂は「授魂」の魂の色だ。その魂には俺のスキルによる影響がある。
では、この魔人の女の魂も、誰かからの何らかの影響を受けているという事だ。
俺はディエゴに、俺の左手の前5cmの空間に対して魔力を吸収するように命じた。
ディエゴの右手が翳される。
ディエゴに魂は見えない。
だが、彼もそこに魔力の塊があると感じたようだ。
ディエゴが意識を集中し『魔法吸収壁』の能力を右手に集中させる。
青黒い魂から黒いもやが離れ、ディエゴの右手に吸い込まれた。
青白い魂が残り、俺の左手に吸い込まれた。
◇
土魔法による滝つぼの埋め立てを行い、さらに石と土を盛り上げ、上方からの水の流れを受け止めるように斜面を作った。
これでこの魔力の源泉は塞がれ、数百年は持つと思われる。
この地域の魔獣の発生率は下がり、帝国北方の脅威は少し減じるだろう。
我々は魔人の女の死体を持って洞窟を出た。
■■■
【 魔人 メリッサ 】
人間だった頃の記憶はない。
唯一の記憶らしいイメージは、赤い炎と黒い煙、獣の大きな口と牙。
獣か魔獣の群れに襲われた村は壊滅し、焼けた家に一人取り残されていたのが私だ。
通りかかった男が死にかけの私を助けた。
気まぐれ、と男は言ったが、そのお陰で私は生き延びた。
魔人として。
男の魂から分け与えられた力で、私は生き延びた。
男の魂から分け与えられた力で、私は彼に忠誠を誓った。
男の魂から分け与えられた力で、私は多大な魔力を有した。
男の魂から分け与えられた力で、私は人を殺した。
男の周りには多くの魔人がいた。
男は周囲から"魔王"と呼ばれていた。
私は魔王の配下となり、彼のために働いた。
隣接する人間の国を攻め滅ぼし、その先の人間の国々も滅ぼした。
そして海を渡り、この大陸の人間の国も滅ぼした。
魔王と多くの魔人達は次の大陸へと去った。
私達は残った。
私達は何度も魔物の大発生を起こした。
魔獣の多くは魔力の源泉の力に拠って生み出された。
魔人スーニャが作りし傀儡の泥人形も多数が参加した。
私は魔獣の群れを率いて森を南下し、奴らの砦に襲いかかった。
人間どもの右往左往する姿、必死に抵抗するも最後は逃げ出す姿は、私達の愉しみだ。
あの日も、私は魔獣の一団を率いて森を駆けていた。
そこに眩しい程に輝く光が射し込んだ。
光を纏った人間の騎士が掲げ持つ剣から、強烈な光が射し込む。
私の目が焼けた。
顔の皮膚が爛れ、上半身が強烈な熱で焼かれて煙を噴き出す。
あれは"退魔の光"だ。
私は一目散に逃げ帰った。
その周囲を魔獣たちも同じように逃げていく。
私の状態を見たスーニャは私を"魔力の源泉"に連れてきた。
「この泉で魔力を吸収し身体を治すように」と言って、彼女は去った。
以来、私は魔力の源泉で魔力を吸収し身体を癒していた。
私が魔力を使うことで魔力の源泉の力を減じてはいるが、私の傷はなかなか癒えない。
魔人の不死性がこの傷を治す力を阻害しているようだ。
この傷はもう直らない。
この傷を受け入れる事はできない。
もうしばらく、こうして泉に浸かっていれば、あるいは。
そう思い続けてきた。
そこに、骸骨どもが来たのだ。




