60話 魔力の源泉
我々骸骨部隊は「魔力の源泉」に向かい出発した。
この魔力の源泉は20年前の魔物の大発生以前から確認されていた場所だという。
だが、確認はできたが近付くことはできていない。
北へ2日、巨大蟻の岩山の手前辺りで東へ転進し草原地帯を横切り森の中へと進む。
我々は森の中を歩いた。
騎馬隊も騎乗は枝葉が邪魔になるので徒歩だ。
骸骨馬たちは草原で待機させる。
我々の中に斧持ちの斧の武技使いはいるが、木を切り倒していては時間が掛かる。
魔技の疾風斬系での木の切断も可能だが、同じように時間は掛かる。
炎系の魔技では必要以上の被害を齎す。
森の木々を避けながら進むのは困難だが、骸骨大砂百足に先行してもらい、ある程度の枝葉と下草を均してから進む。
彼らは木々の間をするすると進むので、基本的に木は倒さない。
シーカーが行き先を確認し、時折先頭を行く骸骨大砂百足の頭に降り立ち進行方向を指示している。
いつの間にか仲良くなっているな。
骸骨大砂百足の先頭集団の後ろに俺と直営部隊が、その後にシグス達の部隊が続く。
昼間の移動時には、やはり周囲の魔獣は逃げ隠れして我々の進軍を阻むモノは現れなかった。
我々は夜間も休憩を取らず進軍を続けたが、夜になると大型の魔獣が動き出すようだ。
頭部に角が生えたトカゲの魔物と思われるモノが骸骨大砂百足に炎を吐いたが、すぐに骸骨大砂百足の集団に纏いつかれて喰われた。
後方では魔猿の集団が襲い掛かり、魔熊が爪を振るい、魔鹿が角から雷撃を放ち、巨大なツタ植物が骸骨騎士達を絡めとったらしい。
全て問題なく撃退した。
我が骸骨軍団は素晴らしいな。
振り返れば森のあちこちから煙が立ち上っているが、延焼はしないだろう。
◇
翌日になると「魔力の源泉」が近くなった影響か昼間でも我々に襲い掛かってくる大型の魔獣が現れた。
蜘蛛や蟷螂のような蟲が巨大化した魔獣は我々を避けて逃げ隠れしている。
だが、その気配がひしひしと感じられる程にその数は多い。
元々身体が大きな獣が魔獣となったモノが襲い掛かってくるようだ。
さすがに骸骨大砂百足の集団は避けるようで、戦闘行為は我々の後方を進む骸骨部隊が担当することになった。
鳥の魔獣もやはりいる。
シーカーがソレを感知して骸骨大砂百足の群れの中に逃げ込み、俺の肩に戻ってきた。
頭を撫でてやると皮膚がめくれ眼球が零れ落ちた。
シーカーも腐鷹として熟成している。
頭骨をカリカリと撫でてやる。
頭上には大きな翼を広げた魔鳥が飛んでいる。
さすがに、アレには攻撃が届かないな。
しばらくすると飛んで行き、シーカーは再び骸骨大砂百足の頭上での進路確認に戻った。
鳥の魔獣を警戒してか先程より少し高度が低い。
夕方頃に我々は隊列を10部隊X10部隊の方形に変更した。
「魔力の源泉」周辺の魔獣を排除するために前線の人数を増やす。
さらに後方部隊を右方向に展開し包囲することもできるだろう。
木々や地形の関係で綺麗にはできないが許容範囲だ。
「魔力の源泉」の状況確認をする目的で俺と直営部隊は前線に位置している。
横には俺たちのカバーも兼ねてビデスの部隊が位置している。
シグスの部隊は右後方に位置し、包囲陣を完成させる役目を担ってもらう。
◇
ゴオォォォゥゥゥゥ・・・
シーカーを狙った炎の塊が上空を飛んで行く。
飛距離と威力の大きさが窺い知れる。相当な大物が前方にいるようだ。
シーカーは既に骸骨大砂百足の頭部に着地してこれを躱している。
そして、俺の方に向けて飛んでくる。
ドゴォォォ!!
シーカーの後方、つまり前方の骸骨大砂百足の前方で炎が弾けて、大きな火柱が燃え上がる。
俺にはまだ相手が見えないが、骸骨大砂百足の群れは速度を上げて突撃していった。
ガォォォ!
グルルルルゥ!
吼え声と唸り声が聞こえてきた。
敵は2頭だ。
肩に止まったシーカーのイメージを受け取ると、前回襲ってきた火吹きトカゲのさらにでかい奴が相手のようだ。
額から角を生やし、大きな牙を持つ口に黄色い目。
トサカから背中に掛けて赤い炎のような模様のある黒緑の鱗状の皮膚をした巨躯。
前足は左右に大きく開き、鋭い爪が見える。
長い尻尾の先には多数の棘状の突起が生えている瘤が付いている。
地竜に近い存在のモノだ。
体長10mはありそうな巨大な火トカゲが口から炎を吐き出し骸骨大砂百足と乱闘を始めた。
俺は骸骨大砂百足達に「魔力の源泉」から離れて暴れるように思念を送った。
乱戦の火柱は徐々に右手前方に移動する。
シグスに連絡し、この乱戦に巻き込まれないように部隊を広げる。
炎の熱に焼かれ、木々が倒されてしまった前方をゆっくりと進んでいくと視界が開け、大き目の池のほとりに出た。
向こう岸では火トカゲと骸骨大砂百足の乱戦が繰り広げられている。
骸骨大砂百足の一匹が身体を食いちぎられているが、火トカゲの1匹も骸骨大砂百足に身体を拘束されているな。
左手側は岩山の崖が迫り、そこに大きな洞窟の窪みが開いていた。
この洞窟からは小さな小川が流れ出し池へと続いている。
おそらくこの小川の水に濃い魔力が混じり、この池の周囲と水を飲みに来た獣を魔獣化させたのだろう。
この洞窟の窪みの内部が火トカゲの巣になっている。
そして、小川の流出元には暗い洞窟がさらに暗い奥へと続いている。
俺はそこに「何か」を感じた。
おそらく強い魔力を感じたのだろう。
間違いない。この奥が「魔力の源泉」だ。
◇
俺はビデスに土魔法と水魔法が得意な者を20名選出させた。
狭い洞窟内に入るので、彼らには槍と短剣を装備させた。
剣の魔技が使えなくなるが、彼らは魔法使いなので、魔法発動に武器種は関係ない。
魔法使いと魔技使いの大きな差だな。
他には俺の直営部隊からディエゴ、サーチャー、ムーブを連れて洞窟の奥へと進んだ。
サーチャーの能力「周辺探知」は外での戦闘行動ではその能力を十分に生かせないが、この様な見通しの悪い場所では貴重だ。
相変わらず対象の情報は大雑把だが、それでも「動くものがいる」と分かるだけで不意を突かれる事はない。
しばらく奥へと進むと激しい水音が聞こえてきた。
どうやら滝があるようだ。
サーチャーからはこの先に動くモノはいない、との報告だったので、そのまま歩き進む。
そのサーチャーを始め、同行している骸骨は赤い目が光り輝いている。
おそらく俺の目も青く輝いているのだろう。
俺たちの目は暗闇でも光を必要としない特別性だ。
その視界には闇の中に光り輝く魔力が溢れていた。
人間の目にも、この美しい光景は映るのだろうか。
同時に身体の中心に感じる"熱"。
これは魔力だ。
この洞窟内を満たしている魔力が体内に侵入してくる。
なんと心地良いのか。
このまま身をさらし続ければ、我々も魔獣となるのだろう。
やがて、洞窟の行き止まりの空間に出た。
水は上方から流れ落ち、滝つぼに落ちる。
周囲はその音で満ちている。
滝つぼは直径5m程。
深さは計り知れないが水底から魔力の輝きが溢れている。
どうやら滝つぼの底が地下の魔力の流れに合流してしまい、地上に魔力が流れ出たようだ。
では、滝つぼの底を塞げばここの魔力の源泉は塞がるだろう。
永続ではないが。
その前に。
この滝つぼの中程には一人の女の裸体が浮かんでいた。
確かに動いてはいない。
この魔力の奔流の中で、識別するのは困難だ。
なのでサーチャーの責は問わない。
その女が、ゆっくりと起き上がり、水面に立つ。
濃灰色の身体には上半身に大きな火傷の跡があった。
白色の長い髪に整った美しい顔。
その目が開き、蒼い瞳が紅く光り輝き、赤い唇が動く。
「邪魔。」
その女は右手を振った。
魔力の圧が我々を押し潰さんと迫る。




