59話 出城周辺地域の掃討
第三軍の出城も城砦都市同様に岩山の上に建てられた砦だ。
先行したシーカーの報告では出城の周囲は百匹を超える魔狼の集団がたむろしていたようだが、我々が近付くと逃げ出してしまった。
魔獣は獣が魔力を持ったモノだ。
身体強化され凶暴化し、中には魔法を発現するモノもいる。
その状態からさらに魔力を溜め込むと魔物と呼ばれる化け物になる。
身体は巨大化し、角や翼など本来持たない部位が発生し、元の獣とは違う姿形になる。
ここからはそういったモノが出現する地域だ。
そして、それらは我々骸骨軍団の敵だ。
我々は出城内で待機していた第三大隊1000人を仲間に加え、この地域の魔物狩りを開始した。
◇
出城にある周辺地図と骸骨騎士達の記憶によれば、「魔力の源泉」と呼ばれる場所が北東の森林地帯の奥にある。
魔力は地中に多く存在している。
俺の前世での神官の教えを思い出せば、地下には魔力の大河が流れており、その魔力が土に染み込み地上に上がってくるそうだ。
その魔力は主に植物によって濃縮され、植物を食べた動物や人間の体内に蓄積される。
人間が魔法を使える理由だ。
だが、それだけでは獣は魔獣にはならない。
土の中の魔力は均一ではない。
当然、地上よりも地下の方が魔力は濃い。
その地上にも魔力の濃い場所と薄い場所がある。
そのような魔力の濃い場所では植物や動物は普段より多くの魔力を吸収してしまう。
すると、体内の魔力量が増大し、魔獣・妖獣に変じる。
魔獣は獣の特性を持っているので、子を産む。
魔獣の子は生まれつきの魔獣だ。
なので魔獣は狩りつくさなければならない。
「魔力の源泉」は地中からの濃い魔力が地上に溢れ出している場所だ。
発生源が分かっているなら、その場所を潰さなければ新たな魔獣が次々と生まれる。
だが、魔力の濃い場所には多くの魔物が集まり、それらは強大な力を持つ。
◇
第三軍の担当地域は西の海岸から砂漠、岩地、草原、東側の広大な森林地帯と様々な自然環境を有する。
北には5日程度の距離までが作戦展開地域だ。糧食や夜間の安全などを考え、それ以上は危険度が増すために踏み込んでいない。
もっとも、その先は"大陸横断山脈"と呼ばれる大陸を南北に分断する山々が連なっている。
4000mを超える山々の頂は雲と雪に覆われ、この地からは朧に見える。
まずは砂漠だ。
大蟹や有翼毒蛇などの魔獣もいるが、砂漠の最大の脅威は大砂百足だ。
仲間にした大砂百足とは違う群れがこの辺りにもいる。
砂漠への進軍に当たって、出城の留守番としてラムデスやルー伯爵夫妻ら屍人たちを置いた。
彼らの移動手段は馬車だが、この先は馬車では困難な道が多い。
その馬車も4台もある。
1台は普通の幌馬車だ。ラムデスやサイモンら屍人が乗り込み、腐肉喰い丸スライムの木箱も積んでいる。
3台は帝国貴族用の豪華な馬車だ。
それぞぞれにルー伯爵夫妻とシーム伯爵、ガーギウス大使とノールデア候爵とルチーム伯爵、フェンクル侯爵と
キステード候爵が乗っている。
同じ理由で魔道馬車2台も置いていく。
アックスとクリストファーも留守番だ。
守備隊にサイクス達屍人騎士と骸骨剣士200人を置いた。
◇
砂漠への道中では何匹かの魔獣に遭遇したが、その全てが逃げていった。
砂漠で行進を始めると、数分で大砂百足が現れた。
最初の1匹だ。
砂中からの飛び出しに注意はしていたが、数人の骸骨が飲み込まれ、数十人の骸骨が空中に放り出された。
その後は多少の犠牲を出しつつ退避行動を行い、群れをおびき出す。
すぐに2匹目、3匹目が砂中から出てきた。
我々は攻勢に出て、これを仕留める。
元北方騎士団の部隊は大物相手には強いな。
仕留めた後は腐肉喰い丸スライムに食事をしてもらい、喰われた骸骨騎士を救出する。
この作業を数回繰り返し16匹を仕留めた。
この群れはこれで全滅のようだ。
俺は今回は吸魂せずに放置した。
大砂百足はすでに21匹いるからな。
損傷した骸骨達の回復の為に1晩待機する。
翌朝にも砂漠を行進するが大砂百足は現れなかったので、我々は次の目標に向かって移動した。
◇
岩地での目標物は出城から北へ2日の地点にある穴だらけの岩山だ。
ここは巨大蟻の巣で、その数は数千匹にもなる。
体長1mから2mの赤い大きな身体には人間の胴体をも噛み千切る大きな顎があり、その口からは酸性の液体を吐き出し、触れれば皮膚は爛れ、盾と鎧には穴が開き、剣は折れてしまう。
実に厄介な連中だ。
幸いな事に周囲1000m程度が縄張りのようなので、帝国騎士たちはこれまで積極的に退治活動はしていなかった。
我々は1万人いるので、全員で当たれば問題ない。
岩山を視認する所まで接近すると、骸骨大砂百足達がそわそわしてきた。
俺が意識を向けると、強烈な食欲を返してきた。
なるほど、蟻は餌なのか。
では、食べていいぞ、と伝えれば骸骨大砂百足と腐肉大砂百足の21匹はこれまでの最速の進軍速度で巨大蟻の巣に突入した。
我々は周囲を囲い巨大蟻が逃げ出さないように監視するだけだ。
骸骨大砂百足達は地上に出ていた巨大蟻に噛み付き、砕き、飲み込む。
岩山の穴に頭を突っ込み、内部の巨大蟻に噛み付き、砕き、飲み込む。
さらには穴の奥にまで潜り込んでいく。
でかい骸骨大砂百足は岩山の岩ごと噛み砕いて穴を広げて掘り進んでいく。
やがて、蟻は地上から姿を消し、穴だらけの岩山は崩壊し、満足そうな骸骨大砂百足と腐肉大砂百足が整列した。
腹の中の蟻はいくら時間が経っても消化されない。
今はまだ、動けばガラガラと音を立てているが、その内に体内で粉々に砕けて外殻の隙間から落ちていくだろう。
◇
蟻退治が終わり、一度出城に戻った。
サイクスからは「夜間に魔狼の群れが近付いてくるが、それ以上は接近せず日の出と共に東の方へ去る」との報告があった。
おそらく、これまでは人間達の匂いを、今は屍人の匂いを餌と思って接近するのだろう。
だが骸骨剣士200人が周囲を固めているので、接近できずにいるようだ。
草原地帯は立ち木や草むら、小川や池がある。
多くの魔獣が森林地帯から草原地帯に出没するが大型のモノは少ない。
おそらく我々が行進していけば、皆逃げて姿を隠すだろう。
俺はシグスに声を掛け中隊長達を集め、陣形の説明をした。
出城から北に向かって魔技持ちの骸骨騎士を5m間隔で一列に並べる。
6900人程いるので、その距離は34km以上になる。
池などで進路を塞がれたときは回避していいが、基本は隊列を崩さずに東の森林地帯へと進む。
そうすれば草原地帯の魔獣も逃げずに襲い掛かってくるだろう。
騎馬隊は部隊単位で前列の後方に控え、魔物の出現に応援が必要なら対応する。
骸骨大砂百足は出城で待機だ。
準備に半日掛かったが、我々は前進を開始した。
森林地帯の森の境界線までは早ければ1日、遅くとも2日で到達した。
一部の骸骨たちが幸運にも魔狼の群れや虫型の魔物や狼の頭に人の身体を持った人狼の集団と遭遇しこれを撃退した。
この人狼は森の中に幾つかの拠点があるようで、目撃報告は多かった。
そして、倒すとその体は泥の塊になった。
その他の多くの骸骨は特に大きな群れにも魔獣にも遭遇せずに各々の骸骨騎士が対応しつつ進軍できた。
森の際で1晩は待機させたが、魔獣が出てくる事もなく、我々は出城に帰還した。
◇
これで、出城の周辺1日から2日までの距離には大きな脅威は存在しない。
俺は周辺地図を確認した。
次の目標は森林の北の奥地。
山脈からの小川が流れ込む池の岸にある洞窟、「魔力の源泉」だ。




