54話 メドゥン=リンドットの戦い
俺の直営部隊と骸骨剣士部隊は北方騎士団第三軍の前衛部隊に接近していた。
周囲は夜闇が濃くなったが、念のために先頭にダークの暗闇を展開し、骸骨剣士がそれに続く。
「吸魂」は順調に魂を吸い取っている。
前衛部隊は陣の内部に侵入したビデスの部隊と腐肉喰い丸スライムの腐食ガスで壊滅状態だ。
その前衛部隊の周囲にはシグス率いる第一騎馬隊がいる。
シグスは周囲を固めることで瓦解した帝国騎士たちの逃亡を防いでいる。
それは生き残っている帝国騎士達を陣の中心に集中させることになり、ビデスたちの戦果に繋がる事を狙った行動だ。
対して、ドラゴ=ディアンが率いる第二騎馬隊は後方に陣取った増援部隊を相手にしている。
俺からの指示は城砦都市との間に陣取り、帝国騎士の城砦都市への退避行動を防ぐ、だ。
ドラゴは当初はそのよううに動いていたが、敵が10人の部隊単位でまとまって行動しているのを確認すると、これを各個撃破の好機と捉えたようだ。
骸骨馬の機動力と暗闇の利を生かし高速での突撃離脱行動を繰り返すことで増援部隊を確実に仕留めている。
形勢は確定したように見えるが、まだ戦闘は続いている。
前衛部隊では帝国騎士の数が少なくなった事で、骸骨剣士と帝国騎士の1対1の戦いが多く見られる。
こうなると帝国騎士は強い。
味方がいなくなった事で魔技を使うことに躊躇しなくなってきた。
シグス達も戦場を包囲しているがビデス隊の戦いを眺める形になっている。
それはドラゴも同じだ。今は帝国騎士部隊への突撃行動を止めて包囲陣を作っている。
シグス達の機動力が落ちれば帝国騎士の魔技・魔法で狙い打たれる。
一方で重傷を負って地面に倒れている帝国騎士も散見される。
俺は骸骨剣士部隊を足音高く前進させた。
これには3つの目的がある。
戦闘中の帝国騎士への牽制と敵生存者の掃討、そして骸骨軍団への戦闘が終局を迎えたことの伝達だ。
骸骨剣士部隊が敵の前衛部隊と接触した。
テラーが『恐怖』を撒き散らす。
骸骨剣士達が生き残っている帝国騎士達を仕留めていく。
■■■
【北方騎士団第三軍第一大隊 大隊長メドゥン=リンドット】
どれくらいの時間が経ったのか。30分か、3時間か。
周囲は闇に包まれている。
周囲から剣戟の音は聞こえるが、それは小さく散発的な音だ。
つまり、生き残っている騎士がほとんどいない、ということだ。
周囲から響いて来るのは骸骨馬の大きな足音だけになった。
どうしてこうなったのか。
夜間の戦闘は避けるべきだった。
だが、タイミングが悪かった。
しかし、視界が悪くても『気配探知』のスキルで魔物の位置は容易に分かるはずだった。
だが、この骸骨どもの気配は薄く、『気配探知』は上手くいかない。
これは、どういうことなのか。
ガッ!
私の相手をしている骸骨が突き出した剣を、私の剣がかろうじてはじく。
だが、反撃はできない。
もう、足は動かず、腕は上がらず、剣を振るうのは、相手の剣をはじく時だけだ。
はぁはぁはぁ。
相手の骸骨は、自分の剣を身体の正面に構えた。
そして、俺を観察するようにジッと見つめる。
暗い眼窩の奥で赤い炎が揺らめいているような目をしている。
ふぅ。
荒い息を落ち着かせる。
その瞬間を狙って骸骨の剣が突き出された。
ガッ!
私が剣をはじき、奴がまた構える。
何度目だ。
どれほど時間が経った。
どうして、こうなった。
◇
大砂百足が私たち第一大隊の左翼を突破した後に突入してきた骸骨騎士ども。
紫色の毒霧を撒き散らし多くの騎士が倒れた。
毒無効のスキルを持つ私は奴らに接近し襲い掛かった。
最初の相手は大槌を持った骸骨だった。
そいつが振り下ろした大槌を躱して切り掛かると、横から差し込まれた剣で防がれた。
それが、今、相手をしているこの骸骨だ。
最初の頃は周囲に帝国騎士がいたので武技を使って攻めていたが、それを悉く躱された。
上手く当てる事ができた時もあったが、骸骨の着ている鎧によって防がれた。
骸骨どもは帝国騎士の鎧を着ている。
その鎧には斬撃や打撃に対する耐性魔法陣が内部に描かれている。
武技による攻撃はその威力を減じられてしまう。
魔獣の爪や牙を防ぐための物が、今は私の剣戟を防いでいる。
それにしても、こいつだ。
この骸骨からはほとんど仕掛けてこない。
私の攻撃を防ぐだけだ。
そして、今のところほぼ完璧に防がれている。
数合、数十合の斬り合い。
気付けば、周囲には帝国騎士も骸骨もいなくなっていた。
辺りは闇が濃くなり、剣戟の音が遠くから聞こえる。
魔技が撃てる。
私は剣を大きく振りかぶり、魔技を放つ構えをとった。
その時、骸骨の持つ剣が光り輝いた。
周囲の闇を切り裂くような眩い輝き。
その剣が突き出され、光りの輝きが剣先から伸びてくる。
これは魔技だ。魔技『光鎖縛』だ。
光の鎖は私の身体に巻きついた。
魔力が身体に浸透してくる。
四肢から力が抜け、抗う気力が減退するのが分かる。
このままだと気絶しそうだ。
そうなれば、待つのは死だ。
「魔断剣!」
私の剣が光り輝き、骸骨から伸びている光の鎖を断ち切る。
すると、身体に巻きついていた鎖が消えた。
帝国騎士の鎧を纏い、魔技を使う骸骨。
こいつは、
「お前は帝国騎士なのか?」
骸骨に向けて疑問を口にした。
骸骨は応えない。
そいつは3歩ほど俺に近付いてくると、両手で剣を持ち身体の正面に縦に構えた。
これは決闘前や祭事の時の礼の構えだ。
つまり、そういう事なのだ。
私も同じように剣を構えた。
だが、先ほどの『光鎖縛』の影響で、力が入らない。
奴の左手が下がり、右手で剣を突き出してきた。
それをはじき返し左足を踏み込み切り掛かる。
奴は軽々と身体をひねり躱してみせた。
そして、剣を身体の正面に構えた。
◇
奴の剣が、鎧を貫通し、ずぶりと私の胸を貫いた。
骸骨の顔が目の前にある。
生前のこいつは一体誰だったんだろうか。
そんな他愛もない疑問が浮かんだ。
骸骨共の足音が大きく響く中、私は地面に倒れた。




