42話 東へ
フェンクル領領都。
帝国騎士団との戦闘終了の翌日にはデ・シームの街からガーギウス帝国大使を呼んだ。
彼に帝国騎士団の団旗を確認させ、これが西方騎士団であることの確認をする。
「帝国西方騎士団の撃破、おめでとうございます。マスター。」
「うむ。だが、魔技持ちの騎士が居なかったのが残念だ。彼らは北方騎士団に所属しているようだな。」
「左様でございましたか。私の知恵の及ばぬところ、申し訳ございません。」
「よい。これで帝国の騎士団は帝都騎士団と東方騎士団だな。」
「はい。マスター。」
いつもなら、ガーギウスなりフェンクル侯爵なりに帝都への報告書を出させるのだが。
俺はまだ決めかねていた。
「こちらをシーム伯爵より預かっております。」
「書状か。」
内容はデ・シームの街の商業ギルドマスターの解任と新任についてだ。
新任の男の名は、トールイム。
デ・ルーの街の商業ギルドマスターで副執政官にしたトールデンの長男だ。
「これは承認しよう。こちらは何だ?」
「商業ギルドからです。骸骨軍団の装備作成予定表でございます。マスター。」
「鎧、盾、剣と鞘、矢と矢筒、マント、馬用装飾衣、団旗、これらを100個単位で納品。鎧、盾、剣は使用中の物と交換か。」
「数があります。一度に、とはいかない様で。」
「そうだな。これも承認する。以上か。」
「はい。マスター。」
◇
シーカーが東の街道で慌てて走り去る騎馬を見つけた。
茶色のマント姿。一見すると村人か商人だが、何れかの騎士団の者かもしれない。
だとすれば、次の討伐隊が来るだろうか。
俺はシーカーに東の街道の様子を見ているように頼んだ。
◇
魔導馬車は使い所を選ぶようだ。
普段は4頭の骸骨馬に牽かせるが、戦闘時はこれを外し、馬車の後方の荷台に積んでいる衝角を装備する。
この作業に4人掛かりで20分は掛かる。
前回のように戦場が設定され、布陣が整ってからの戦闘にしか向かない。
そこにシーカーが数日振りに帰ってきて、東の街道の状況報告をしてくれた。
東の街道、丘の先で騎士団が土塁を盛って封鎖している。
人数は100人程度だ。
数日戻って来なかったので心配していたが、俺が「東の街道の様子を見てこい」と言ったので、東の街道に沿って延々と何か発見するまで飛んでいたらしい。
命令はきちんと伝えないといけないと反省した。
とりあえず、日暮れには帰途に就くのが原則と言っておく。
さて、今回も人間側は俺たちの封じ込めを計り、恐らく討伐隊編成の時間稼ぎをするつもりだろう。
フェンクル領と同じ対応だが、今回も攻めに時間が掛かるのが人間だな。
我々骸骨軍団がこれを無視して北上すれば、このフェンクル領領都を取られ、ノールデア領との連絡も絶たれる。
ここに留まって相手の到着を待つのも一つの手だ。
消極的だな。
やはり積極的にいきたい。
◇
俺は司令部を集め状況説明をした。
するとレイモンドから馬車を使った突撃案が出された。
我々との対戦では失敗した突撃攻撃だが、土塁程度なら吹き飛ばせる威力を持つという。
だが、これにジョーンズが反対した。
ジョーンズは元ウーノンサ騎士団団長だ。
「丘の道、険しい。馬車、動かない。」
「俺たち骸骨。問題ない。」
レイモンドの言葉にジョーンズが下がる。
なるほど、人間では険しい行程ゆえ道を逸れたが、今は骸骨だ。
アックスの腹に肉は無い。
クリストファーは老いの疲労感から開放されている。
問題が無いなら、出発しよう。
◇
今回は俺の直営部隊の他は、魔導馬車を有する22番隊を含むレイモンド配下の4部隊384人の骸骨騎士が出撃する。
全員が新たに加わった元帝国騎士だ。
俺たちは東の街道を昼夜ひた走り、夜明け前に丘陵地帯を抜ける位置まで進んだ。
こちらの都合の良い事に周囲は霧に包まれている。
そして、目標の封鎖地には篝火が焚かれている。
魔導馬車の換装が終わり、2台の馬車を先頭に出す。
馬車の後方には3列縦隊の騎兵が並ぶ。
俺の直営部隊は今回は俺と共に見学だ。
先頭の魔導馬車の脇の林の中に入る。
隊列の準備ができた事をキース、マシュー、レイザー、クルツの各隊長が確認する。
レイモンドが俺の横に来た。
「マスター。準備、できた。」
「行け。」
レイモンドが魔導馬車の後方に回り、それぞれの荷台を剣でドッ、ドッと叩くのが合図だ。
魔導馬車の四輪に描かれた魔法陣が青い光を放ち、馬車がゆっくりと進み始める。
「ウィンガー。」
「はい、マスター。」
ウィンガーの風が魔導馬車の行く手の霧を晴らしていく。
その晴れ間を埋めるように魔導馬車が街道を突き進み、骸骨騎馬軍団がその後に続く。
ドッドドッドドドッドドドドッ。
重く響く騎馬の足音。
それを打ち消す音が辺りに響いた。
ドゴォォォォンンン。
速度を上げた魔導馬車は土塁を衝角で吹き飛ばし、街道をひた走る。
その先には、騎士団が集結していた。
ズドォォォォ。
うわぁぁぁーーー!!
ヒヒーン!
多くの人間の叫び声と馬のいななきが聞こえる。
剣戟の音が響き、血の匂いが辺りに漂う。
「吸魂」
霧のもやの中、多くの青白い魂が、俺の左手に集まる。
◇
魔導馬車の運用を考えるには、今回の作戦は良い機会だった。
まず、魔導馬車は準備に時間が掛かる。
4頭の骸骨馬と器具を取り外し、荷台から鉄製の衝角を取り付ける。
これは事前に判っていたことだが、問題なのは確かだ。
次に、自走はできるが、方向転換はほぼできない。
操舵機能はあるが、馬車の中からは周囲の状況がほぼ見えない。
今回も土塁を粉砕し、相手の騎士団を突破したが、街道のカーブを曲がれず、林に突っ込んだ所で止まっていた。
これを街道に戻すには、骸骨馬8頭で引き上げる必要があった。
この重量は対象物を粉砕するには有効だろう。
当たり負けしないからな。
しかし、初動が遅く、制動が利きにくい。
改良ができるならばしたいものだな。
◇
魂の記憶に拠れば、街道封鎖任務を担当していたのはウーノンサ領騎士団とクィッカー領騎士団だ。
それぞれが100人の騎士を出して1日交代で担当していたが、我々は丁度その交代の時間に突撃をしたようだ。
200人分の処理を始めるが、最近は装備を外す時間の方が腐肉喰い丸スライムの処理より時間が掛かる。
それでも昼過ぎには処理が終わった。
26番隊隊長にクラーク、27番隊隊長にフォークスを任命してフェンクル領領都への帰路に就かせる。
彼らの中隊長にはデコースを任じればいいだろう。
レイモンドを先頭に4列縦隊で骸骨軍団が出発する。
隊列の最後に魔導馬車、直営部隊が殿につく。
「あれ?あの馬車って、アックスの伯父貴のやつじゃん。」
「そうだな。隣にも同じのがあるが。」
残る骸骨騎士も少なくなり、魔導馬車が動き出そうとした時、俺たちの背後から声が掛かった。
霧は晴れている。
だが、俺たちは、そいつらの接近に気付かなかった。




