41話 クィッカー領騎士団ハリス
【クィッカー領領都騎士団 所属騎士ハリス】
クィッカー領領都、領都騎士団本部。
「5番隊、ハリスです。お呼びでしょうか。」
「入れ。」
「失礼します。」
ハービー副団長の呼び出しに執務室に入ってみれば、フォークス隊長もそこに座っていた。
「ハリス。フォークス5番隊隊長の推薦でな。君に遠征部隊の現況確認に行って貰いたい。」
「遠征部隊、ですか?」
「そうだ。騎士団が出発してから20日。予定通りなら既にノールデア領内に入っているはずだ。」
「そうですね。」
「だが、こちらに一切の便りが無い。」
「はぁ。」
「ハリス。君は騎士団を追い、状況確認をした後、戻って来るように。」
マジで?
「ハリス、復唱したまえ。」
「はっ!遠征した騎士団を追い、ウィンストン騎士団長にお会いして状況確認して参ります。」
「うむ。すぐに出発したまえ。」
マジで?
「はっ!失礼します。」
マジかよ。
小心者のハービーの奴、心配しすぎだろ。
フォークス隊長に裏切られた気分だぜ。
これは、アレだ。俺が出た後にウィンストン団長からの報せが届くやつだ。
くそっ、とんだ貧乏くじだぜ。
◇
フェンクル領領内に入り、丘陵地帯を抜けて街道の小さな村まで辿り着いた。
この村は農村であり、東西を結ぶ街道を行く者たちの宿場となっている。
野宿続きだったが、領都に入る前に身体を拭いてゆっくり休みたいので、ここで宿を取った。
だが、他に客がいなかった。
「夕食なのに、今夜の客は俺一人か?」
「そうですよ。やっぱり、お客さん知らないんですね?」
「何の事だ?」
「15日ぐらい前にウーノンサ領の騎士団が来たんですよ。なんでもノールデア領に行くそうで。それで、大きな戦いがありそうだってんで、今はウーノンサ領の商人もクィッカー領の商人も来てませんよ。」
「ウーノンサ領騎士団?来たのはウーノンサ領だけか?帝国やクィッカー領騎士団は?」
「ウーノンサ領騎士団だけですよ。300人ぐらいで村の外で野営してましたね。帝国騎士団なんかが来たら、村中大騒ぎですよ。」
はっはっはっ、と笑いながら主人は厨房に戻ってしまった。
俺はテーブルに置かれたスープに堅パンを浸す。
「どういう事だ?」
街道に人や荷馬車が少ない理由は分かったが、でかい謎が現れた。
理由を考えれば、「他のルートを通った可能性」、「この主人が不在の時に通り過ぎた可能性」、などが考えられる。
とりあえず、フェンクル領領都まで行けば分かる。
ノールデア領に入るには、領都に寄るはずだし、ここでフェンクル領騎士団と合流するはずだ。
◇
街道を西へ進み、フェンクル領領都の街壁が見えてきた。
だが、同時に微かな臭気も感じ取れた。
これは、血と肉の腐った匂いだ。
俺は馬を降りて、手綱を取ってゆっくりと街道を進んだ。
やがて左右の森が切れて、視界が開けた。
正面に見えるフェンクル領領都の街壁と街門。
左右に広がる草地は多くの馬に踏み荒らされた様に、でこぼこの地面を見せている。
そこには、多くの死体が並べられていた。
隅に積まれているのは鎧か。
あの鎧は、帝国の紋章が付いている。
では、ここで帝国騎士団が戦ったのか。
そして、負けたのだ。
死体を並べているのは、無数の骸骨だ。
骸骨達が、死体を運び、鎧を脱がし、並べている。
右も、左も、手前でも、奥でも。
一体、何が。
ウィンストン団長は?
うちの騎士団はどうなったんだ?
気付いたら、俺は街道を走っていた。
馬が、俺の横にいる。
慌てて馬に跨った。
戻らなくては。
戻って知らせなければ。
ああ、騎士団は負けたんだ。
皆、死んでしまったのだ。
■■■
【クィッカー領領都騎士団 5番隊隊長フォークス】
クィッカー領領都、領都騎士団本部。
「なんだと!騎士団が全滅だと?馬鹿な!!」
バンッ!
ハービー副団長が執務机を叩くが、それで報告が変わるものでは無い。
フェンクル領領都から不眠不休で馬が潰れる勢いでハリスが戻ってきた。
彼は「皆死んでいた」と言って倒れた。
「ウーノンサ領騎士団と帝国領土管理局に報せを出します。」
「ああ。いや、待て。本当に全滅したのか?」
「ハリスの報告では。」
「帝国騎士団だぞ。全滅するはずなど無い。そうだ、きっと何処かに退避し、再戦の機を伺っているのではないか。」
「だとして、それをどう確認します?」
「それは、状況確認の人員を出して、」
「既にハリスを出しました。私は彼を信頼してこの任務に推薦したのです。彼の報告を私は信じます。それに、生き残りが居たとして、彼らに必要なのは援軍です。ウーノンサ領騎士団と帝国領土管理局に報せを出します。よろしいですね。ハービー副団長。」
「わ、わかった。任せるぞ、フォークス隊長。」
「クィッカー侯爵へのご報告をお願いいたします。」
「なに?」
「ウィンストン団長が不在です。この報告を侯爵にお伝えいただき、街道封鎖の是非を伺うべきと思いますが。」
「そ、そうか。フォークス隊長、同行してくれるか。」
「私は帝国領土管理局への報告書を急ぎ作成いたします。」
「で、では。ルーカス隊長。」
「はい、同行しますよ。」
それまで黙って私の横に立っていたルーカスが応える。
ウィンストン団長がハービー副団長を置いていった理由もわかるが、残された者の身にもなって欲しい。
まだ生きていて欲しいものです。
たっぷりと愚痴を聞いていただきたいですからね。
■■■
帝都。帝国騎士団司令部。
「この報せは本当なのか。」
「出立の日より既に30日以上が経過しておる。だが、西方騎士団からは何の報せも届いておらん。」
「全滅、だと。」
「ディアン家め。徒らに帝国騎士を損なうとは。」
「それで、どうする。」
「どうする、とは?」
「決まっておるではないか、骸骨どもを殲滅するのだ。」
「帝都騎士団は動かせんな。東方騎士団を廻すことになる。」
「しかし、西方騎士団と3つの領国騎士団。2000人が全滅させられたのだぞ。東方騎士団だけでは同じ結果だ。」
「その通り。北方騎士団を呼ぶべきだ。」
「北方騎士団!?できるのか?」
「敵は骸骨、魔物だ。それが帝都の西に居るのだ。魔物相手ならば北方騎士団が適任であろう。」
「それは、そうだが。」
「だが、日数が掛かる。その間の守りをどうする。」
「ウーノンサとクィッカーの騎士団の残りに街道を封鎖させよう。その間に東方騎士団の半数を廻す。」
■■■
【ウーノンサ領領都騎士団 副団長クラーク】
街道封鎖地点。
西側に丘陵地帯、周囲は木立がまばらな林が広がり、山脈の峰々が聳え立つ。
ウーノンサ領としてはもう少し西側が領境なのだが、騎士団を配置するにはこの場所が適している。
骸骨どもが気の迷いで街道を逸れて南下すると、ウーノンサ領への侵入を許してしまうが。
「クラーク副団長。交代の時間です。」
「そうか。」
3日前から街道封鎖をクィッカー領騎士団と1日交代で行っている。
朝9時交代、翌朝9時までだ。
今日は少し冷える。
テントを出ると辺りは霧に包まれていた。
篝火の炎がぼんやりと霧の中に浮かぶ。
街道横の空き地に騎士団員が並び、クィッカー領騎士団の到着を待つ。
彼らは時間通りに東側の宿営地からやって来た。
「おはようございます。クラーク副団長殿。」
「おはよう。フォークス隊長殿。昨夜は異常なし。今朝はこの霧だがね。」
「昨夜は冷えましたから。」
「では、我々はこれで失礼する。」
「はっ。街道封鎖任務、クィッカー領騎士団が引き継ぎいたします。」
ピィィィィィーーー
街道の先、西から笛の音が響く。
交代式中も2名の監視を残している。
これは、この笛の音は、敵襲の合図だ。
「敵襲ーー!」
フォークス隊長の声が響いた。
私より早いとは、良い隊長じゃないか。
ドゴォォォォンンン。
そんな思いを打ち消すような大きな音が耳に届く。
一体何が攻めてきたんだ?




