39話 クィッカー領騎士団長ウィンストン
【クィッカー領領都騎士団 騎士団長ウィンストン】
左翼を任せられた。
通常ならば、とても名誉なことである。
なので、「武人の名誉を賜り、これ以上の喜びはございません。」などと言ってしまった。
昨夜、フェンクル領騎士団のテントで見た地図では、左翼は街道から一番遠い位置だ。
つまり、俺たちに最初に戦場に入れ、と言っているのだ。
あの帝国騎士団長め。
レイモンド副団長は話の通じる奴だったが、奴も所詮は帝国の人間だったな。
フェンクル領領都の街壁が見えた。
左右の森が終わり、街道脇の木立の隙間から切り開かれた土地が見える。
俺が先頭に立ち、木立の切れ目から街道を逸れて草地に進んだ。
後続が続く。
隊列はそのまま草地を東に進み、この戦場の端を目指す。
俺は視線を右手に向けた。
遠くに、隊列を組む騎馬が見える。
音は聞こえてこない。
その佇まいは、静かだ。
魔物といえば、大きな叫び声で暴れまわるイメージなんだが。
俺たちは戦場の左翼に布陣し、帝国騎士団の布陣を待った。
正面に居る骸骨達も静かに待っている。
◇
ピィィィィー
甲高い笛の音が吹かれ、布陣が完了したことが伝えられる。
「帝国騎士諸君!我らの招集に応じてくれた領国騎士団諸君!我らは今より歴史を作る!」
布陣中央で帝国騎士団長の訓話が始まった。
それが終われば戦闘準備だ。
おっ、伝令兵が来たな。
「クィッカー領騎士団100名、馬を降りて盾を持ち、前衛に出よ!」
「何だと!」
「二度は言わん。早くしろ!」
そう言い捨てて伝令兵は戻って行った。
くそっ。騎兵に馬を降りろってか。
俺は横にいるウェバー副団長の顔を見た。
「だとよ。」
「帝国騎士も馬を降りました。全軍のようです。」
俺が振り返ると、ウェバーの言うとおり、帝国騎士達も馬を降りた盾持ちが前衛に出てきた。
「ウェバー、1番隊と2番隊を盾持ちにしろ。」
「了解。ボブ!サージェス!馬を降りろ!」
骸骨達が動き出した。
こちらも盾持ちの前衛がゆっくりと前進を開始する。
無言で迫ってくる骸骨騎馬ってのは、変な感じだ。
人間なら気合の雄叫びを、魔物なら威嚇の声を上げる。
骸骨馬の足音だけが、大きく響く。
「来るぞ!槍を構えろ!弓士、構えろ!撃てー!」
シュシュシュン
俺の頭の上を幾本もの矢が飛んで行く。
ドゴォッ!
前衛の盾と骸骨馬が激突した。
骸骨騎兵の槍が突き出され、こちらも槍を突き出し骸骨騎兵を狙う。
骸骨馬は態勢を崩しながらも倒れずにその場を離れる。
ドゴォッ!
ドゴォッ!
すぐに次の骸骨馬がぶつかる。
前衛と骸骨馬の攻防が続く。
あの骸骨共は弓矢は気にしていないのか?
それに槍の連突きや遠突きの武技を使っているのか?
それじゃあ、まるで、人間の騎士の様じゃないか!?
後方の騎士たちが遊兵となっている。
「ウェバー、3番隊も馬から下ろせ。盾の後ろから槍を出させろ。」
「了解!フォスター!槍を持って前衛に付け!急げ!」
「馬が跳ねたぞ!囲め!」
「くそ、脚だ!脚を切って動きを止めろ。」
「盾を降ろすな。馬を跳ばすな。」
「う、腕がぁ。」
「負傷した者を下がらせろ。密集しろ、隙間を埋めるんだ!」
「くそ、脚を切られた。この骸骨まだ動くぞ。」
「頭を潰せ!」
その後も前進を続けたが、前衛の消耗が激しく、前進が止まった。
すると、敵の攻撃も変わった。
俺たちの正面にいた骸骨どもが、急に森の中に消えた。
どうなっているんだ?
俺は視線を中央に向けた。
そこでは骸骨騎兵の突撃が行われていた。
帝国騎士隊の前衛に攻撃を仕掛けた骸骨騎士は、そのまま速度を落とさず、こっちに向かってくる。
■■■
【帝国西方騎士団参謀イアン=グローバー】
「ドラゴ殿、中央が下がりましたぞ。」
「そうだな。」
そうだな?
敵の中央が下がれば、突入して切り裂けば良い。
こちらの陣形も先程、紡錘陣のように中央が突出した陣形になっている。
このまま全軍で前進すれば骸骨どもは蹴散らせるというのに。
「参謀としては全軍突撃を具申しますぞ。騎士団長殿。」
「まだ早い。」
「早い?」
何を言っているのだ、この男は。
敵に時間を与えれば、後退した位置で陣を立て直すではないか。
「それでは、敵に時間を与えてしまいますな。」
「イアン参謀。ドラゴ騎士団長は両翼の敵を見ておられる。敵の騎兵の動きがおかしいのだ。」
なんだこいつは?
確か副団長だったか。
「副団長ごときが、口を挟むな。私はイアン=グローバーなるぞ。」
「ですが、ここは戦場です。そして貴方は参謀だ。作戦を立案はしても、それを強要することはできない。」
「貴様!」
「やめろ。イアン参謀。敵の両翼の騎士が街道に逃げている。ここで前進すれば、彼らが我らの背後に廻る。」
「ふっ、魔物ごときにそのような知恵があるとは思えませんな。やつらは単純に逃げているにすぎません。我らの力を恐れているのですよ。」
「そうだと良いがな。」
「それに、やつらの指導者、マスターと名乗る骸骨はあの中央にいる白マントでしょう。ここで中央を突いてアレを仕留めれば、この戦いは終わりです。反撃などする気もなく、やつらは逃げ散りますよ。」
「しかし、イアン参謀。中央突破するには、骸骨共の防御陣をまずは破らなくては。」
この副団長は煩いだけだな。
「ドラゴ殿。アックス=ムーア卿とクリストファー=ホルト卿に先陣を任せましょう。」
「彼らに?」
「左様。彼らの馬車は魔導馬車です。その真価は戦場でこそ発揮される物。」
「わかった。伝令を出せ。」
「はい、騎士団長殿。」
くっくっくっ。
そう、私の言うとおりに動けば良いのだ。
きちんとこの戦いに勝利し、貴様らディアン家にノールデア領をくれてやる。
◇
後方に控えていた2台の馬車が前衛に出てきた。
今は4頭の馬が外され、車輪に描かれた魔法陣の力で自走している。
さらに馬車の前方には特製の衝角が付いている。
この2台の突進を止められる者などおるまい。
「突撃!」
2台の馬車が突進し、その後を副団長が率いる騎兵が続く。
馬車の前方に盾持ちの骸骨が集まるが、ほれ、吹き飛ばされた。
何匹か取り付いているが、あの馬車の外壁は破れん。
くくく、終わりだな。
ん?
馬車が止まった。
なぜだ、なぜ2台とも止まったのだ。
後ろに付いていた騎士達も止まってしまった。
くそ、我々本隊との間を骸骨騎士達に埋められた。
魔道馬車と騎兵が敵に取り囲まれたではないか。
どうなっている?
なぜ、私の言った通りにならんのだ。




