33話 紋章を考える
フェンクル領領都から戻ったシグス達に拠れば、今のところフェンクル領の残存騎士団に動きはないようだ。
俺は新戦力も入り人員も増えたので、彼らにデ・シーム近郊での訓練を命じた。
現在の骸骨軍団の陣容は以下の通り。
大隊長シグス、直営部隊に骸骨騎士10人。
第1副隊長オズマ、直営部隊に骸骨剣士60人と魔法操兵19人。
1番隊隊長ベニー、骸骨騎士90人。
2番隊隊長マルクトー、骸骨騎士90人。
第2副隊長ガナベル、直営部隊に魔法操兵19人。
3番隊隊長タワー、骸骨騎士100人。
4番隊隊長ドット、骸骨騎士100人。
第3副隊長タバーニ、直営部隊に骸骨剣士60人と魔法操兵19人。
5番隊隊長サンシャ、骸骨騎士90人。
6番隊隊長メイヤー、骸骨騎士90人。
第4副隊長グレイ、直営部隊に骸骨剣士66人。
7番隊隊長ラモン、骸骨騎士100人。
8番隊隊長ブラスト、骸骨騎士100人。
俺のところに来ていた伝令役の骸骨騎士8人は本隊に戻した。
伝令役はサイクス達屍人騎士にやってもらう。
ガナベルに骸骨剣士を割り当てていないのは、彼の部隊に足の速さを求めたからだ。
グレイの部隊は全員がフェンクル領領都騎士団出身にした。
魔法操兵は3人の副隊長預かりになっているが、彼らに関しては訓練の為の割り振りだ。
実際の運用は戦闘開始前に俺とシグスで決めるので流動的になる。
短期間で膨れ上がった軍団なので、部隊を纏めるためにもここで訓練時間を取る。
帝国騎士団の到着予定までまだ日があるだろうから、十分に連携を深めてもらいたい。
骸骨軍団をシグスに任せ、俺はノールデア領領都に向かった。
◇
腐肉喰いスライムの輸送はデ・シームの街の商業ギルドのギルドマスター、ゴーリンに任せた。
その時にゴーリンに言われたのは、荷物に紋章を入れますか、という問い掛けだ。
木箱への焼印や荷車の荷物に覆い被せる布に紋章を入れて、誰の荷物か分かる様にするという。
その時は不要としたが、骸骨軍団の装備もノールデア領とフェンクル領の紋章が混ざっている。
ノールデア領領都へ向かいながら、我々の紋章はどんなものか、と考える。
◇
ノールデア領領都。
領都到着は3日後の朝になった。
サイクス達には騎士団本部に馬の作業を行うための道具を取りに行かせた。
俺はディエゴと共に領主邸に入った。
腐肉喰いスライムの荷馬車も届いているはずだ。
「お帰りなさいませ。マスター。」
「うむ。」
「本日のご予定は?」
「骸骨馬を生み出す作業に来た。腐肉喰いスライムの荷馬車が届いているな。」
「はい。昨夜届いております。今は厩の方に入れております。」
「街門前の馬を埋めた丘まで運ばせろ。サイクス達が作業を始めているはずだ。」
「畏まりました。デデスに指示します。」
ノールデア候はそう言うと、脇に控えていたデデスに手を振った。
それを見てデデスが部屋を出て行く。
「もう一つ、相談があるのだが。」
「相談、でございますか?マスター。」
「うむ。我々骸骨軍団の紋章を定めようと思う。良いモチーフはあるか。」
「そうですな。まずは我々を象徴する物、武器、色、形などを挙げていき、それらを組み合わせるのが良いと思われます。」
そう言いながら、ノールデア候はソファを立ち上がり、部屋にある書棚から2冊の本を取り出した。
テーブルに置かれた本は2冊、「ル・ゴール帝国家名総覧」と「帝国騎士団の歴史」だ。
「こちらの本にはル・ゴール帝国の過去から現在までの有力家名とその紋章が描かれております。もう一冊には騎士団の紋章が載っております。」
「なるほど。」
「お気に召したデザインに我々のモチーフを組み込めばよろしいかと。それを草案とし、商業ギルドに持ち込んで清書させましょう。」
「うむ。」
街門前の丘に埋められている馬は120頭。
それの白骨体を用意するには8時間以上は掛かるはずだ。
俺はゆっくりと総覧を眺め、我々の紋章を考えた。
◇
紋章は眺めている分には楽しい。
初期の頃は盾形や円形の枠の中に数色の色で簡単な模様を描くだけだった。
そこに動物、剣や槍などの武器、草花などのアイテムが加わる。
さらに時代が進めば、それらの紋章を2個3個と組み合わせて、どんどん複雑化してゆく。
紋章の中には歴史が描かれているようだ。
そう考えると、我々の紋章はシンプルな方が良い。
目的も魔王討伐と明確だ。
俺は盾形の枠に馬のシルエットと交差した2本の剣を描いた。
「ふむ。」
「良いですな。我々骸骨軍団が戦闘集団である事を示しております。」
「色は濃紺にしよう。我々は闇の者だからな。1点、馬の目は鮮やかな紅にしよう。」
「失礼ながら、マスターの目は美しい蒼色でございます。」
「良い。この紋章は我々骸骨軍団の物であり、皆の物だ。」
「畏まりました。では、商業ギルドのトールットを呼びましょう。」
「うむ。後はノールデア候に任せる。細部の変更は認める。」
「畏まりました。」
俺は領主邸を出て、街門前の丘に向かった。
◇
馬の白骨化作業は既に50頭ほどが終わっている。
俺は彼らに「授魂」し、馬具を載せていく。
ここまで騎乗してきた馬達は領都の騎士団本部に戻す事になっている。
腐肉喰いスライムはさらに分裂し、その数は300匹に迫ろうとしていた。
さすがにこれは多い。
俺は腐肉喰いスライムの「授魂」を試すことにした。
今回は木箱を使ってみる。
前回は核を刺した後のスライムの身体が液状化して土に染み込んでいた。
今回はどうだろうか。
やはり身体は液状化し、「吸魂」した魂は小さく、「授魂」はできなかった。
次は分裂直前と思われる程に大きくなったスライムだ。
だが、「吸魂」した魂は小さく、これも「授魂」は失敗した。
魂の大きさと身体の大きさは関係ないようだ。
ふと、魂の在庫を確認してみた。
騎士の魂は無い。
馬の魂は49頭分。
スライムの魂はゼロ。
これはどういう事だ?
確かにスライムの魂の存在は感じる。
俺が魂を持っている事は確かだ。
だが、数として現れない。
つまり、スライムの魂は数を集めなければ1匹分に成らないのか。
たしか、分裂した時は6匹に分裂したな。
しかし、6匹を「吸魂」してもまだ在庫はゼロのままだ。
ならば、60匹ではどうだ。
成功した。
スライムは60匹の魂を「吸魂」してようやく1匹分の魂となった。
では、これで「授魂」できるのか。
俺は61匹目の核に慎重に剣を突き刺す。
「吸魂」
小さな魂が俺の左手に吸い込まれた。
俺はスライムの魂を確認する。
「授魂」
出た。
俺の左手から青黒い魂が浮き出て、スライムの核に吸い込まれていく。
数瞬。
スライムは周辺の液体を核の周囲に集め、球状の身体を作った。
元の身体より幾分か小さく、10cm程度の球体だ。
そして、身体が不透明の暗い青色をしている。
そいつはぷるぷると身体を揺すり、目を開けた。
目が付いている。
一つ目だ。
こいつは何だ?




