32話追記 スライム狩り
デ・ルーの街。魔窟。
デ・シームの街の案内人役の人間達と別れ、ラムデスら5人の屍人は腐肉喰いスライムを捕えるために洞窟の奥へと進んでいた。
洞窟の奥からは鼠の鳴き声やコウモリの羽音が聞こえて来る。
「この辺りでいいか。」
ラムデスは左腕の袖をまくり、そこに短剣を当てた。
「おい、ラムデス。本当に大丈夫か。」
「ジョセフ。どうせ朝になったら元に戻る。」
「そうだけどよぉ。」
ラムデスは短剣を動かし、左腕の肉をこそげ落とした。
ボトリ。
ラムデスの肉が足元に落ちる。
「これで良い。クロッカーたちは奥側に下がれ、俺とジョセフはこっちだ。」
「はい。ラムデスさん。」
クロッカー、チャドム、ティクスの3人の屍人剣士が通路の反対側に駆けて行く。
その姿に、かつての守備隊の後輩の姿を思い出すラムデスだが、彼らの顔も名前も思い出せない。
屍人になる前の、人間だった頃の記憶は、だんだんと薄らいでいく。
「しかしよぉ。おれらの肉が腐っているからって、スライムが喰いつくかねぇ。」
「やつらは腐肉喰いだからな。でも、そうだな、もう少し腐らないと食べごろじゃないかもな。」
「ああ、そうなればわざわざ切り落とす必要は無いな。お前が寝ていればスライムが寄ってくるぞ。」
「いや、お前の方が美味そうな匂いがするんじゃないか。」
「ははは。」
ラムデスとジョセフが馬鹿話をしているが、反対側のクロッカーたちは緊張している為に無口だ。
ジッと通路に落ちたラムデスの肉を見ている。
ラムデスはここに来る道中で、元領都守備隊だった3人が魔獣も普通の獣の狩りも経験が無いことを聞いていた。
これがクロッカーたちにとって、初めての狩りなのだ。
キィキィ
タタッタタッタタッ
鼠の鳴き声と足音が近付いて来る。
複数だ。
気付いたラムデスが声を掛ける。
「洞窟鼠が来るぞ。餌を咥えて行きそうなデカい奴は狩れ。短剣を突き出し、素早く戻すんだ。いいな。」
「はい。」
洞窟鼠は街中に出る鼠よりでかい。
前歯も鋭く、噛まれれば肉を食われ、傷口が腫れ上がり、3日は発熱で寝込む事になる。
屍人になった彼らにはもう関係ないが。
キィキィ
キィキィ
洞窟鼠が来た。4匹が床の肉に喰いつく。
クロッカーが素早く回り込み、チャドムとティクスが左右に踏み出し、それぞれが短剣を突き出す。
ティクスが上手く鼠を突き刺した。
チャドムの突き出した腕を鼠が駆け上がり、動けないチャドムの顔に噛り付いた。
クロッカーは自分の周囲を駆け回る鼠を追い掛け、くるくると廻っている。
ラムデスは叫び声をあげるチャドムの顔に張り付いている鼠を掴み、握り潰す。
ジョセフはクロッカーの足元の鼠一匹を蹴飛ばし、もう一匹を踏み潰した。
屍人の身体になったので、こういう無茶もできる。
蹴られた鼠は逃げて行った。
「あっ、ラムデスさん。あそこ。」
チャドムのめくれた顔の皮膚を戻していたラムデスにティクスが声を掛ける。
ティクスの指先は床の肉を指し、そこに腐肉喰いスライムがいた。
「ジョセフ」
「任せろ。」
ジョセフが腰に付けた布袋を両手に持ち、その口を大きく開けてスライムに覆い被せる。
スライムを肉ごと袋に入れて口紐を閉じれば捕獲完了だ。
「あ、あの。ラムデスさん。」
「ん?」
チャドムの震える声にラムデスが振り向けば、チャドムの頭部に天井からスライムが落ちてくる所だった。
「チャドム。動くなよ。」
「は、はい。あの、頭がじゅわじゅわします。」
「スライムの食事が始まった。すぐに捕獲してやる。」
ラムデスが布袋をチャドムの頭に被せ、頭の皮膚を引っ張るように袋の口を絞りながら持ち上げた。
「これで、2匹目だ。」
「調子いいな。」
「あの、僕の頭、どうなってます?」
「チャドム、すっきりしてるぜ。」
「ああ、綺麗に真っ白だ。ははは。」
頭部の上半分が骸骨頭になったチャドムを皆がからかう。
「さて。腐肉喰いスライムは群れないというからな。場所を変えよう。」
「次は俺の肉を餌に使うのか?」
「そうだな。俺の肉は鼠4匹とスライム2匹だ。ジョセフの肉は何匹だ?」
「う。じゃあ、場所は俺が決めるぞ。」
「ああ。そうしてくれ。」
彼らのスライム狩りは続く。




