32話 腐肉喰いスライム
デ・シームの街。
我々骸骨軍団は街北側の拠点に戻り、負傷した骸骨達には休息を与えた。
さらにシーム伯爵を通して馬の世話と装備の整備の手配を行う。
それが済むと、俺はデ・ルーの街に向かった。
今回のフェンクル領領都で「吸魂」した魂の「授魂」の為だ。
それと、ラムデス達に任せている腐肉喰いスライムの捕獲作業の確認もある。
◇
デ・ルーの街。
しとしとと小雨の振る昼前、灰色ローブのフードを被り、デ・ルーの街に入った。
目立たないようにしている格好だが、27人もの大人数だと、それだけで目立ち、街の人間にはすぐに骸骨だとばれてしまったようだ。
この人数には理由がある。
骸骨軍団の人数が増えた時の軍団編成会議において、シグス達からマスター直営部隊を作れと迫られた。
元々骸骨魔法操兵はディエゴを含め一人づつは手元に欲しいと思っていたので、それは了承した。
人数の少ないサイクス達屍人騎士9人とクロッカーら3人の屍人剣士も引き受けた。
そして、伝令役として8人の骸骨騎士を付けられた。
31人の直営部隊だ。
今回ライファノンを骸骨騎士達の治療の為に置いてきたので、27人での街入りとなった。
まぁ、少人数で行動して隙を見せると、人間との間に余計な問題を起こす可能性もある。
示威行動が必要な事もあるだろう。
街に入り、ラムデス達に思念を送ったが返事が無かった。
おそらく洞窟内に潜っているからだろう。
ルー伯爵には俺が街に入り、北の墓所の森にいることを伝えた。
そして、ラムデス達と連絡を取り、彼らにも北の墓所に来るように言付ける。
俺たちは街中を通り抜け、北門から北の森に入った。
◇
北の墓所入口。
周辺の森の木を倒し、土葬用の土地を確保しているので、入口前はかなり開けた場所になっている。
以前作業した時に使った荷車や鍬、スコップはそのまま置かれていた。
ラムデス達が捕獲したスライムをここに連れて来るだろうから、骸骨騎士達には以前埋めた死体の掘り起こしを頼む。
俺はディエゴを連れて地下墓地へと降りていく。
この地下墓地も入口近くの亡骸は皮膚が残っている状態だ。
これらも腐肉喰いスライムで綺麗にできるか試してみたいものだ。
俺は白骨体となっている亡骸から「授魂」をしていく。
今回は骸骨騎士342人に骸骨剣士86人だ。長丁場になる。
亡骸は足りるだろうか。
◇
亡骸は足りた。
だが、ここは4番通路らしい。
この先に眠る白骨体の残りは100体も無いようだ。
それと、今回は俺の新たなスキル取得はなかった。
この法則は不明なままだが、授魂した魂の数では無いようなので、おそらく同一スキル持ちの人数が関係しているのだろう。
また、新たな仲間に魔技持ちも居なかった。
シグスの特殊性が分かる。
これは帝都で学んだという彼の履歴に拠るものか。
だとすると、来る帝国騎士団との戦いの結果が楽しみだ。
◇
外に出るとすっかり闇に包まれていた。
「授魂」した骸骨達は騎士団本部にて待機を命じているので、ここには俺の直営部隊が居るだけだ。
そして、ラムデス達腐肉喰いスライム捕獲部隊が合流していた。
「ラムデス、戻ったか。」
「はい、マスター。」
「腐肉喰いスライムの捕獲はどうだ?」
「8匹を捕獲しました。すでに3体を白骨体にしました。」
「おお!」
見ると、ラムデスの言うとおり、綺麗な白骨体が3体、穴の中に横たわっている。
「ラムデス、1体当たりの作業時間はどれほどだった。」
「おそらく30分程度です。マスター。」
「そうか。」
今は8匹の腐肉喰いスライムが4体目の白骨体に覆い被さっている。
この亡骸は、俺が最初の夜に倒したデ・ルー騎士団団員のものだ。
まだ皮膚や筋肉が多く付着しているので、これを30分で綺麗にするのは早いな。
だが、残念なことに俺に魂の在庫がなかった。
4体目が綺麗な白骨体になったところで作業を終了し、スライムたちを木箱に入れて蓋をする。
「ラムデス、腐肉喰いスライムの捕獲は難しいか?」
「彼らは群れません。新鮮な肉より腐肉を好みますが、腐肉を罠にすると他の獣が先に来て大変です。」
「そうか。」
最初に来た獣が腐肉を喰い、その食べ残した腐肉を食うのが、この腐肉喰いスライムなのだろう。
少ない食べ残しを奪い合うことになるので群れないのか。
では腐肉喰いの捕獲依頼は継続しつつ、この8匹を大切に育てていこう。
「ラムデス、案内人の人間はどうした?」
「彼らは人間、今は宿で寝てます。マスター。」
「そうか。役に立ったか。」
「はい、マスター。」
「そうか。メズノットに礼をするか。」
俺たちは綺麗になった白骨体を再び土に埋めて、騎士団本部に戻った。
◇
騎士団本部に居並ぶ骸骨騎士達からグレイ、ラモン、ブラストの3名を呼び出した。
グレイはフェンクル領領都騎士団団長、ラモンは副団長だ。
もう一人の副団長はマンディだが、彼は事務方で有能な男のようだ。
なので、1番隊隊長であったブラストを採用した。
グレイには4人目の中隊長としてラモンの7番隊とブラストの8番隊、骸骨剣士1隊を率いてもらう。
最初の任務は、部下を率いてデ・シームの街を経由しフェンクル領領都に行くことだ。
彼らの装備があるからな。
俺たちは闇の中を行軍し、デ・シームの街に戻った。
◇
デ・シームの街。
シグスにグレイ達を紹介し、8部隊体制になることを伝える。
さらに彼らの装備を整えるためにフェンクル領領都に向かうことを頼んだ。
領都騎士団が壊滅しフェンクル侯爵が屍人となっているので他の街の騎士団員が領都に来ているとは思えないが、来ていた場合はできるだけ捕獲するように伝える。
俺とラムデス達は、フェンクル領領都の戦いで死んだ馬の亡骸の処理だ。
43頭が土の下に眠っている。
彼らを掘り起こし、身体を清め、新たな魂を授けよう。
◇
腐肉喰いスライムは木箱の中で静止していると球状の姿をしている。
半透明の茶色の身体は綺麗ともいえるだろう。
その姿は移動すると崩れ、腐肉を捕食する際には薄く膜状に広がる。
この広がりが重なるとスライム同士の争いになるようだ。
最初の馬には8匹のスライムを投入したが、1時間ほどの時間が掛かり、スライム同士の争いのような動きも見られた。
なので、2頭目、3頭目には4匹ずつのスライムを投入した。
この手は上手くいき、時間はほぼ一緒の1時間で処理できたので、4匹1チームで処理に当たらせた。
そして、最初の1頭目に「授魂」した。
目を覚ました骸骨馬はすぐに立ち上がり、首を2、3回振ると俺にその頭骨を擦り付けてきた。
うむ。かわいい奴だ。
ラムデスとジョセフが俺の乗馬から手綱と鞍を外して、骸骨馬に載せる。
骸骨馬は大人しくそれらの装着を許してくれた。
俺は骸骨馬に乗ってみた。
うむ。問題ない。
俺はスライムの作業を見守りながら、骸骨馬に「授魂」していった。
◇
5時間程が経過し、11頭の骸骨馬を処理した所で、明らかにスライムの体積が大きくなった。
そこで、3匹、3匹、2匹の3チーム体制とした。
さらに時間が過ぎ、フェンクル領領都から骸骨騎士達が戻り始めた頃、スライムたちの動きが止まった。
さすがに馬20頭も処理させたので、腹が膨れて休息かと思ったが、やがて、スライムの身体が球状に丸まり、弾けた。
どうやら栄養十分で成長したので分裂したようだ。
腐肉喰いスライムの総数は8匹から48匹に増えた。
馬の処理を再開させると共に、俺は1匹の腐肉喰いスライムを手元に引き寄せた。
スライムの急所は体内にある球状の核だ。
俺は狙いを付けて剣を突き刺す。
スライムの身体から張りが無くなり、どろりと液状化する。
「吸魂」すると、淡い小さな魂がふらふらと俺の左手に吸い込まれた。
「授魂」は、地面に水溜りのようになった塊に向けて行った。
だが、スライムの魂は俺の左手からは出てこなかった。
どうやら、スライムの取り扱いは難しいようだ。
◇
43頭の骸骨馬が生まれた。
腐肉喰いスライムは運搬用の木箱と荷馬車を手配して、ノールデア領領都の領主邸に送った。
あそこには120頭の馬が眠っている。
荷馬車は4日後の到着予定なので、それに合わせて俺も動こう。




