27話 請求と支払い
ノールデア領領都に戻ってきた。
街門前に、多くの人影が見える。
俺たちが街道を進んでいくと、彼らが慌しく動き、整列した。
つまり、彼らは我が骸骨軍団の騎士達だ。
「シグス。」
「はい、マスター。」
「これは?」
俺は周囲に整列する骸骨騎士達を見渡した。壮観だな。
「はっ。戦力、増えた。訓練する。」
「そうか。全員いるのか。」
「いる。」
「そうか。デ・シーム騎士団長だったタバーニを中隊長にする。5番隊と6番隊を任せろ。」
「はっ。」
この会話は全て思念で行っているので、端から見れば骸骨2体が見詰め合っているだけだ。
俺は再び動き出した骸骨騎士たちの中から屍人のラムデスとジョセフを呼んだ。
ジョセフの頭の上には屍鼠が乗っている。
「ラムデス。俺の後にいるのが、新たな骸骨魔法操兵だ。彼らに鎖帷子と灰色マントを装備させろ。その後は訓練に合流だ。」
「畏まりました。マスター。」
骸骨魔法操兵はラムデスとジョセフの案内で騎士団本部に向かった。
俺も途中まで同行し、別れて領主邸に向かった。
◇
昼の領都は人が多く行き交い、普段の賑わいの様だ。
ただし、我々が通りを3列縦隊で歩いて行くと、急いで道を空けてくれた。
隊列と別れてディエゴと共に領主邸に向かう時も、同じだった。
その領主邸にはノールデア侯爵とデ・ルーの街のトールットが俺を待っていた。
「お帰りなさいませ、マスター。」
「うむ。そちらも、待たせたな、トールット。」
「お帰りなさいませ、マスター。」
応えたトールットは、そのまま俺を見ている。
俺はトールットが座るソファの対面のソファに座った。
「まず、トールットの件をすまそう。支払いだな。」
「そうです。マスター。」
「幾らになる。」
「こちらが請求書になります。ご確認ください。」
トールットがテーブルに1枚の書類を置いた。
ディエゴがそれを取り、俺に手渡す。
請求書の内容は、今回の馬用の飼料の準備作業一式と会戦時の馬の世話となっている。
「請求は、金銭ではないのだな。」
「はい。お金を生む物、でございます。」
「ふむ。いいだろう。」
俺は請求書をディエゴに渡し、ディエゴはそれをデデスに渡す。デデスはノールデア侯爵に渡した。
「ノールデア候。書類は準備できるか。」
「はい、マスター。私が任命推薦状を作成いたします。その後にルチーム伯が任命状を作成します。」
「うむ。トールット、しばし待て。」
「はい、マスター。」
「だが、トールット。領都の商業ギルドのギルドマスターとなっても、領都の人間はそれを良しとするか?」
「私がデ・ルーの街の人間という問題はありますが、幸いな事に私の学生時代の友人が領都の商業ギルドに数人おります。彼らが協力する約束ですので、心配はしていません。」
「そうか。」
「マスター。推薦状のご用意ができました。」
推薦状は公式の書式だが、文章の書き出しが「我がマスターの命により」となっている。
ルチーム伯もこれを読めば分かるだろう。
商業ギルドマスターへの任命推薦状を持って、トールットは執政官官邸に向かった。
◇
トールットの件が終われば、次はノールデア侯爵だ。
「ノールデア侯爵。」
「はい、マスター。」
「我が骸骨軍団は今夜にも領都を離れ、デ・シームの街に向かう。」
「はい。軍資金のご用意は出来ております。」
「今後の予定だが、デ・シームの街が前線となり、北方のフェンクル領と帝国の討伐隊に備えることとなる。このノールデア領領都は後方支援となろう。支援内容は承知しているな。ノールデア侯爵。貴様には領内の3つの街と農村などの人々の生活を守る勤めがある。貴様の用意した軍資金はその為に使うように。よいな。」
「承知いたしました。マスター。」
なぜか驚いているデデスを無視して、執政官官邸に向かう。
◇
執政官官邸。
「マスター。」
「トールット。まだここに居たのか。」
執政官の執務室のソファには、先程と同じようにトールットが座っていた。
俺は執務机に座るルチームに視線を向ける。
「ルチーム伯爵?」
「はい、マスター。申し訳ございません。任命状はご用意いたしました。ただ、現職の解任状を用意しまして、本人を呼び出し解任手続きを行う必要がございます。」
「面倒だな。」
「マスター。手続きは面倒な物でございます。」
「そうか。では、今はその男を待っているのだな。」
「はい。マスター。」
「では、仕事を頼むとしよう。ルチーム伯爵。」
「はい、何でございましょう。マスター。」
「ノールデア騎士団団員と領都守備隊の家族への遺族手当ての支給だ。ひと家族金貨20枚。これを商業ギルドのトールットギルドマスターに依頼する。」
「畏まりました。マスター。」
「では、我が骸骨軍団はこれよりデ・シームの街に向けて移動を開始する。ノールデア領領都の扱いについてはノールデア侯爵に確認するように。」
「畏まりました。マスター。」
◇
ル・ゴール帝国大使館。
「ガーギウス帝国大使。」
「はい、マスター。」
「我々はデ・シームの街に向かう。そこで帝国の討伐隊を相手にする事になるだろう。貴様もデ・シームの街に来るが良い。」
「畏まりました。マスター。では、帝国に移動の報告を行い、準備を整え次第、急ぎデ・シームの街に伺います。」
◇
ノールデア領領都街門前。
630人の骸骨は壮観だ。
そして、馬が足りない。
骸骨剣士100人は良いとして、骸骨騎士の一部も徒歩だな。
屍人騎士と屍人剣士は肉が邪魔して長距離の移動は疲れる。
これは生前のイメージに引っ張られるのだろう。
なので、彼らには馬に乗ってもらう。
丘に埋めた馬達が、綺麗な白骨体になるには10年は掛かるだろう。
それまで、ゆっくりと寝ていてもらう。
ふと、先日以来感じている疑問が蘇る。
100万の軍勢を手に入れるのに、何年掛かるのか?
まだ、その答えを得るには情報が足りない。
我が骸骨軍団は、デ・シームの街を目指して北上を開始した。




