28話 デ・シームの街
デ・シームの街、南の街道。
デ・シームの街に残っていた騎士団員は副団長のガードンと1番隊隊長ギュラス以下20名だ。
彼らは迫り来る我が骸骨軍団の中に、自分達と同じ鎧があることで、仲間の運命を悟った。
そんな彼らの選択肢の一つに篭城戦があったかもしれない。
だがそれは、彼らが守る街の人間達によって選択できなくなった。
デ・シームの街の人間は噂話で知っていたのだ。
我が骸骨軍団が戦うのは騎士団のみで、街の人間には手を出さない、と。
デ・シームの街の街門前で俺たちを迎えたガードン達だが、彼らの中に逃亡や投降の選択肢はなかった。
彼らは絶望の雄叫びを上げて、我が軍団に突進してきた。
◇
骸骨軍団は街の中を通り抜け、北門から街の外へ出た。
北門の先はすぐにシステー河だ。
北門から続く石橋を渡った先の平原に骸骨軍団は駐留する。
ここはフェンクル領内になる。
俺はディエゴとテラーの一人を連れてデ・シームの街に戻り、シーム伯爵の館に向かった。
館の正門前には執事と思われる男が俺を待っていた。
彼が俺たちを応接の間に案内する。
◇
応接の間で俺たちを出迎えたのはシーム伯爵。
そして、デ・シームの街の商業ギルドマスターのゴーリンと守備隊隊長のメズノット。
3人の男が、引きつった笑顔で俺と相対する。
その横には、伝令として先行させたソニーが立っている。
「ようこそいらっしゃいました。私がデ・シームの街の執政官、」
俺は挨拶を述べる男の胸に剣を突き刺した。
ゴーリンとメズノットの二人が固まり、後ろに居た執事が何かを落としたようだ。
シーム伯爵の身体が崩れ落ちる。
守備隊隊長のメズノットが硬直から脱したようだが、テラーの『恐怖』に拠って、その意識は攻撃から自己防衛になったようだな。
「吸魂」
「授魂」
「シーム伯爵。」
「はい、マスター。」
すぐに立ち上がり、俺に応えるシーム伯爵の姿に、二人のギルドマスターの視線が動く。
俺とシーム伯爵はテーブルを挟んでソファに座った。
「このデ・シームの街はこれより骸骨都市となる。それを民に通知せよ。」
「はい。マスター。」
「騎士団の家族に遺族手当てを支払う。金貨20枚だ。迅速に処理するように。」
「畏まりました。マスター。」
「ソニー。」
「はい、マスター。」
「伝言は伝えているな。」
「はい、マスター。シーム伯爵は既にル・ゴール帝国領土管理局に対し、ノールデア領内における脅威の発生を伝えております。また、北方のフェンクル領の領主フェンクル侯爵宛にも救援要請を送りました。」
「そうか。」
俺は視線をソニーの横に立つ二人の男に向け、シーム伯爵を見た。
「さて、そちらの男達から、何か話があるようだな。」
「はい、マスター。この男共は我が骸骨軍団に対し、デ・シームの民の安全を求めております。」
「そうか。」
俺はソファの脇で立ちすくむ二人の男を見る。
「我々は魔王討伐の為の骸骨軍団だ。デ・シームの街の人間の安全は、彼らが我が骸骨軍団に協力する限りは保障する。」
「きょ、協力、ですか?」
「そ、それは、どんな事をすれば、よろしいので?」
「当面は我が軍団の馬の世話だ。そして、装備の提供。さらには成人男性の白骨体、馬の白骨体を望む。」
「馬の世話!それは、我が商業ギルドが受け持ちいたします。もちろん装備もです。武器屋、防具屋、道具屋、それに鍛冶屋も商業ギルドがまとめておりますから。」
「くっ。」
商業ギルドマスターのゴーリンは早口でまくし立てて恭順の言葉を並べる。
実質的に街を動かしているのは商業ギルドだから、これは良い事だ。
対して守備隊隊長のメズノットは歯噛みしている。
「守備隊は我が骸骨軍団と敵対しなければ、それで良い。」
「あっ、そ、それは、もう。」
メズノットがほっとした顔になる。
「では、早速だが、ゴーリン。我が骸骨軍団は街の北に駐留している。」
「か、畏まりました。すぐに職員を手配し、馬のお世話をさせていただきます。」
「うむ。」
俺はソファを立ち上がり、応接室を出ようとした。
「あっ、お待ちを。」
守備隊隊長のメズノットが俺に声を掛ける。
「白骨体。提供できるかもしれません。」
俺はメズノットを見た。
「できるかも?」
「は、はい。デ・ルーの街の東の山には幾つかの魔窟があります。その中に「腐肉喰い」と呼ばれるスライムがいます。」
「腐肉喰い、か。」
「はい。そいつを捕えて、その、死体の肉を食わせれば、白骨体ができます。」
なるほど。
それは有効な手段かもしれない。
「では、それを依頼しよう。デ・ルーの街の東というと、依頼もそちらになるのか?」
「いえ、私どもが手配しまして、デ・ルーの商業ギルドに申し渡します。」
「そうか。では、頼んだぞ。」
「畏まりました。」
◇
骸骨軍団と合流して、俺は先ほどの「腐肉喰い」について考えた。
おそらく、それはスライムの種族的な特性だろう。
もし、それがスキルの類であるならば、俺にも習得できるのだろうか。
それはつまり、腐肉喰いスライムの下僕を100匹以上作るようなことになるのだろうな。
しかし、スライムの魂を「吸魂」はできるだろうが、骨の無いスライムの死体に「授魂」することは可能なのだろうか。
メズノットが持ち込んでくるのを楽しみに待つとしよう。
■■■
【デ・ルーの街、守備隊本部。隊長タリュジーン】
朝は執務室での書類仕事から始まる。
本日の守備隊配置人員の予定確認。
前日の各部隊からの報告書の確認。
事務担当官から提出される経費報告の確認。
訓練予定の確認。
そういった報告書の次は、手紙や外部からの書類の確認だ。
その中に、デ・シームの街の商業ギルドからの依頼書があった。
「捕獲依頼、腐肉喰いスライム10匹、だと?なんでそんなもん、わざわざ依頼してくる?」
少し考えれば答えは出てくる。
東の山中には幾つもの洞窟があり、そのほとんどが鉱石の採掘場として整備されている。
だが、その中に獣が入り込むことが良くあるので、そんな時は俺たち守備隊が対処する。
そして、洞窟の奥に魔獣が湧き出す「魔窟」と呼ばれる洞窟もある。
魔獣といっても、大抵はコウモリやトカゲや蛇といった物が魔物化した奴だ。
俺たちで対処できる場合もあるし、騎士団を頼ることもある。
腐肉喰いスライムも、そんな魔物の一種だ。
だが、こいつは鼠の死体を処理するぐらいの奴で、鉱夫の持つ道具でも倒せるような奴だ。
それを捕獲する?
腐肉喰いスライムが肉を食えば、残るのは骨だけだ。
「デ・シームの連中、骸骨の仕事を請け負いやがったな。」
だが、骸骨の軍団が街を占拠すれば、軍門に下るのも仕方ない、か。
事情は分かるが、それを良し、とは中々に思えない。
なので、
「これは明日、依頼掲示するように。」
と、傍らに控える事務職員に手渡した。
「明日?ですか。」
「そうだ。掲示板は皆が見るだろう?暇な奴がこれを請け負うようにきちんと掲示しておいてくれ。」
「なるほど、わかりました。」
全てを心得ている職員の顔を確認し、俺は次の書類に視線を移した。




