20話 領主邸
領都の街門が開いた。
俺は突撃の思念を全軍に送った。
街門が開き始めると、レッドが火球を内部に向けて放つ。
その横を盾を構えたメイヤーと6番隊が突き進み、街門を押し開く。
街道の奥からは馬の足音が響いて来る。
マルクトーの2番隊、ドットの4番隊は後方へ下がり、馬に乗り込む。
街門を突破した6番隊は、その場の防衛隊を制圧した後は、街門周辺を抑える。
そして、シグス大隊長を先頭にオズマ副隊長とベニーの1番隊、タワーの3番隊、サンシャの5番隊の騎士が領都に侵入した。
ちなみに、6番隊の馬の世話は、ラムデス達の他にトールット達商業ギルドの職員達にも手伝ってもらっている。
契約外の仕事なので、後で請求すると言うので、領主の資産で払うと言っておいた。
さて、サンシャの5番隊が俺と骸骨魔法操兵の馬を連れて来てくれたので、俺も領主邸攻略に向かう。
この街門の守備隊の捕縛は2番隊と4番隊に任せよう。
その前に、これまでの街門周辺の戦闘結果の回収だ。
「吸魂」
◇
街、という広大な領域を守る時、どうしても守りが偏る。
街門を守るのは鉄則だ。
可能なら、街の外側に守備防壁も設けたい。
だが、そこを突破されたら、次は何処を守るか。
街の中に第二、第三の街門があれば、そこになる。
そこも突破されたら?
広い街を全て守る事は出来ないし、限られた人員を分散する事もできない。
なので、重要拠点に守備隊は集まる。
この領都で言えば、執政官官邸と領主の館だ。
領都守備隊隊員の魂を「吸魂」し、その位置は分かっている。
先頭を行くシグス以下の骸骨騎士達にも伝えている。
目標は領主邸、執政官官邸、最後に騎士団本部だ。
まずはノールデア領領主、ノールデア侯爵邸だ。
◇
闇の街中を80騎の骸骨騎士が駆け抜ける。
道の正面、領主邸の門は閉ざされ、その前方に防御陣が築かれている。
テラーを前衛に、と思ったが、シグスは馬の速度を緩めず、オズマ、ベニー、1番隊が続く。
シグスのスキルは魔技『退魔光照射円陣』で、これは人間相手には効果がない。
だが、オズマは片手剣の武技『装備破壊・斬』で相手の装備を破壊できるし、ベニーは『遠斬り』の効果で剣が届かない相手を斬る事ができる。
続く一番隊は槍を構えた。
シグスは隊列を右に寄せ、左前方に斜行して自分の右前方に敵の防御陣を置いた。
これは盾を使えない代わりに、攻撃は自在にできる。
しかし、スキルが使えるのは人間側も同じだ。
ベニーの『遠斬り』があるように、槍には『遠突き』がある。
人間側にも当然、そのスキルを持つ者もいるだろう。
シグスが剣を振り上げた。
その身に光の立体魔法陣が浮かび上がる。
だが、魔技『退魔光照射円陣』は人間には効果が無い。
しかし、今は闇夜だ。薄暗い闇に慣れた人間の目には強烈な光だった。
防御陣内の騎士達の目は眩み、そこに1番隊の骸骨騎士が次々に攻撃を加えていく。
斜行し終えた1番隊は左の側道へ抜けて行く。
壊滅した防御陣に3番隊の騎馬が襲い掛かる。
タワーも騎馬の速度を落とさず、突っ込んだ。
防御陣の後ろには高さ2m半ぐらいの鉄の門と石塀が立ち塞がる。
その先は館の前庭になっていて、そこにも騎士達がいる。
タワーは防御陣を足場に跳んだ。
3番隊の騎馬が、続けて跳んで行く。
我が軍団ながら、無茶をする。
侵入した3番隊の骸骨騎士が鉄の門を開け、我々と5番隊も侵入する。
戻って来た1番隊が館を囲んだ。
■■■
【ノールデア領領主ノールデア侯爵メリクソン】
「デ・ルーの街に骸骨が現れた?」
「はい、閣下。ルー伯爵より至急救援を乞う、との書状が届いております。」
むう。
魔物の出現自体は珍しい事では無い。
その為に騎士団を主要都市に配備しているのだから。
北の前線から遠く離れているとはいえ、洞窟の奥や森や山に突如出現するのが妖魔や魔獣という物だ。
だが、骸骨とは珍しいな。
しかし、骸骨ごときで、このノールデアに救援を求めるか?
「デデス、敵の情報は書かれておるか?」
「はい、閣下。えー、骸骨軍団の総数は100体以上。その力は強く、討伐には強力な騎士団を望む、とあります。」
これは不自然だ。
派遣するなら騎士団以外にありえない。
騎士団は唯一、ノールデア領都騎士団しかない。
なぜ、わざわざ"強力な騎士団"と書いた?
「デデス。ルチーム伯を呼べ。」
「はい、閣下。」
◇
「ノールデア侯爵。お呼びにより、ノールデア領領都執政官ルチーム、参りましてございます。」
「うむ。ルチーム伯、これを。」
「拝見いたします。」
・・・。
「デ・ルーの街からの救援依頼、ですか。」
「うむ。強力な騎士団を望んでおる。調べよ。」
「畏まりました。」
◇
「ノールデア侯爵。本日はお日柄も良く、ノールデア領の民も侯爵閣下に感謝しております。」
「うむ。ルチーム伯、今日は何用か?」
「はい。先日のルー伯爵からの救援依頼ですが、私の配下の者が調べました処、危険性は無い、とのことです。」
「そうなのか?」
「はい。骸骨どもは北方の魔族領に向かう途中で、デ・ルーの街に現れたのです。」
「そうか。しかし、この地より魔族領に向かうとは。」
「魔物の考えることは理解に苦しみます。」
「うむ。では、ルー伯爵は?」
「恐らく、伯の思い違いか、情報が無い状態での勇み足かと。」
「そうか。」
「はい。ノールデア候の御心を騒がした事、ルー伯爵に注意しておくべきかと。」
「よい。ルー伯爵も突然の事で混乱したのであろう。」
「これは。さすがは、ノールデア候。尊き慈悲の御心をお持ちでいらっしゃる。」
◇
「デデス!デデスはおるか!」
「こちらに、閣下。」
「館の外が騒がしい。静かにさせよ!」
「はい、ただちに。」
「閣下!大変でございます。」
「デデス。何を慌てておる。む、ハインザード騎士団長か。」
「閣下。敵が攻めて参りました。今夜は我と騎士団がこの館の警備に当たらせていただきます。」
「うむ。して、敵とは?」
「骸骨でございます。閣下。」
「何?骸骨ならば、北方の魔族領に向かったとルチーム伯が言っておったぞ。」
「では、デ・シームの街で進路を変えたのでしょう。今はこの領都に攻撃を仕掛けるべく、街門前に来ております。」
◇
ガシャーン!
またも何かが割れる音が聞こえた。
ドガァ!
今のは扉が壊された音か。
倒してくる、と言って出て行ったハインザードは戻ってこない。
デデスは私の横で震えている。
私は執務机の前で剣を構えている。
この剣を持つのは、いつ以来だろうか。
ルチーム伯の言葉を信じた自分が愚かだった。
いや、ルチーム伯が愚かなのだ。
では、その愚かな奴を執政官にした私は何だ。
やはり愚かだったのか。
ドガァ!
目の前の扉が勢い良く開き、そこに1体の骸骨が立っている。
暗い眼窩の中の赤い炎が私を見つめる。
なぜ、こんな事に。




