19話 領都攻略
時間は夜明け前。
予定では昼頃に最後の宿場町で休憩し、夜に領都に到着する。
その後、領都の騎士団と戦闘に入る。
デ・シーム騎士団は、この戦闘の最中に領都に到着して我々を挟撃するつもりだろう。
だが、ソニーが確認したように、奴らとは半日の差がある。
それに我々が1日で進める距離は奴らの1・5倍相当だ。
我々が明日の朝までに領都を押さえれば、デ・シーム騎士団は遠征で疲れた処を我々と正面から戦うことになる。
さて、説明は以上だ。
俺はシグス以下9名の隊長達を見た。
「シグス。領都の街門は俺と骸骨魔法操兵が開ける。領都内に侵入した後は速さが求められる。」
「はい、マスター。」
「領主邸と執政官官邸、騎士団本部、朝までに落とせるな。」
「はい、マスター。」
「では、予定通りだ。日の出までに領都を制圧し、デ・シーム騎士団を迎え撃つ。いいな。」
隊長たちは部隊に戻り、移動を開始した。
領都での戦いを昼にすれば領都の人々が障害となる。
先にデ・シームの騎士団を叩く場合は、戦闘と後片付けに時間が掛かり、半日から1日が必要だろう。
そうすると、馬の飼料を用意しなくてはならなくなる。
骸骨馬が欲しくなる問題だ。
多少の危険はあるが、今夜、先に領都を落とす。
◇
領都前の最後の宿場町を通り過ぎた所に商業ギルドの荷車隊が待っていた。
ここのギルド職員の髪の色と目の色は、あの男と一緒だな。
「お前はトールデンの関係者か。」
「はい。トールデンの次男でトールットと申します。」
「領都の様子はどうだ?」
「我々は今朝の開門と同時に出立しました。その時に門の衛兵の動きが慌しかったので、おそらく骸骨軍団接近の情報が入ったものと思われます。」
「人々は?」
「私どもが骸骨軍団の強大さを吹聴いたしました。デ・ルーの街を見捨てたことに街の人々は憤慨しております。ですが、その脅威の骸骨軍団が領都に迫っているという話が流れれば、彼らは騎士団にすがるでしょう。」
「そうか。トールット、一つ仕事を頼みたい。」
「はい、伺います。」
2時間ほど馬を休ませた後、俺たちは領都に向けて出発した。
◇
夜。
今夜も赤い月と青い月が夜空に輝いている。
領都への街道に人間は居ない。
領都の街門は閉ざされている。
街壁上部の通路には魔光灯が灯り、騎士団と思われる人間が集まっている。
対して、我々は500m程離れた所に布陣した。
弓持ちのマルクトーの2番隊、ドットの4番隊が馬を降りて、暗闇に紛れて接近する。
闇に明かりを必要としないのが我々の優位だ。
人間側に気付かれずに街壁に接近した弓兵は、魔光灯に照らされた騎士団員を狙い撃ちする。
数人が貫かれ倒れた。
途端に街壁上が騒がしくなり、警笛の様な音が複数聞こえて来る。
メイヤーの6番隊は、同じく馬を降りて、盾を頭上に掲げて街門を目指して進軍する。
街門の上からも矢が撃たれるが、数は少なく、狙いは荒い。
6番隊の盾に守られながら、俺と魔法操兵が街門に張り付く。
テラーが『恐怖』を発動する。
レッドは火球の炎で街門を焼く。
ムーブは単独で街門を透り抜け、街門裏にいる衛兵に襲い掛かる。
但し、ムーヴは装備を持たない。素手で襲い掛かり、相手の剣を奪うのだが、剣の腕は素人よりマシ、の程度だ。
ムーブは相手が手強いと判断すれば、すぐにこちら側に戻ってきて、場所を変えて再び潜り込む。
これは嫌がらせだ。だが、効果的で相手は嫌がる。
そして、油断すれば、死ぬ。
特に、テラーの『恐怖』に心が萎えた者は、格好の的になる。
街門の方からは激しい打撃音が響く。
この軍団に二人しか居ない、ハンマーの武技『壁壊し』を持つ骸骨騎士が燃える街門にハンマーを叩きつけている。
だが、街門の方にも破壊耐性の魔法陣が施されている様だ。
◇
俺たちが街門に取り付き20分ほどが経過した。
そろそろ弓兵の矢が尽きる。
領都の騎士団の方もテラーの『恐怖』に耐えながら反撃を試みようとするが、散発的だ。
街門攻略の方はレッドの炎も、二人分の『壁壊し』の武技も残念ながら通用しないようだ。
攻城兵器は本当に必要なようだな。
そんな状況のなか、俺は数回の「吸魂」をしていた。
14人分の魂が俺の左手に集まってきている。
それで分かったが、領都にも騎士団の他に領都守備隊があり、この14人はそこに所属する人間だった。
この街門付近に騎士団員はいないようだ。
ムーブが街門をすり抜けて戻って来た。
街門の向こうには4体の死体がある。
そして、守備側の人間はムーブの嫌がらせを警戒し、門から離れた所まで下がっている。
これは朗報だ。
奴らは、俺たちが街門を打ち壊すことができないと判断したようだ。
俺は、街門裏に倒れている3体の死体に「授魂」した。
誰の肉体かは、魂の記憶で分かる。
彼らの目的はただ一つ。街門の閂を外し、門を開くことだ。
■■■
【ノールデア領領都守備隊所属兵士フーズ】
街門を透り抜けて来る幽霊の様な骸骨が去った。
隊長の言うとおり、壁抜けができる骸骨はあいつ一人の様だ。
しかもあいつは弱い。
素手で襲いかかってくるが、動きが遅い。
最初の攻撃の時に対応できなかった者が剣を奪われ、二人が立て続けにやられた。
だが、骸骨の剣の振りは遅く、体勢も悪い。
こちらが反撃すると剣を捨てて壁の向こうに逃げていく。
そして、また、街門の何処かから不意に現れて襲ってくる。
最初の頃の僕らもどうかしていた。
初めての骸骨の魔物との戦いで不安があったのだろう。
緊張で思うように身体が動かない、その隙を突かれた。
「貴様ら動け!この門を守れば俺たちの勝ちだ!」と隊長の叱咤が飛んだ。
でも、その後も壁抜け骸骨にてこずって二人が犠牲になって、隊長は僕達に街門から下がるように指示した。
「奴らは街門を破れん。それにあの骸骨は街門から離れた場所には来ない。我々はここで待機だ。」
前衛が盾を構え、槍隊が槍を突き出し、その後ろに弓士が弓を構える。
これで、もし万が一、街門が破られた場合に備える。
僕は槍を水平に構えながら前方を注視している。街門前に倒れている仲間の死体が視界に入る。
ドゴッ!ドガッ!
街門からは二つの打撃音が途切れる事無く聞こえて来る。
だが、街門は揺るがない。
街門前に倒れている4人の死体。
隊長は彼らをこちらに運び込みたいようだ。
壁抜け骸骨対策として応援に来た二人の騎士に援護をお願いして、運び込む準備をしている。
もぞり。
倒れている一人の身体が動いた。
「隊長!クロッカーの奴が動きました!生きてます!」
「なに!」
「クロッカー、こっちだ。」
「あっ、チャドムも、ティクスも動きました。」
「おい。クロッカーの奴、変じゃないか?」
「おい、クロッカー、チャドム、こっちだ。戻って来い!」
仲間達が動き出した3人に声を掛けるが、彼らは、街門に向かって歩き出した。
意識が朦朧としているのか?
「違う!魔物堕ちだ!屍人操者がいるんだ。弓隊、あの3人を撃て!」
「えっ?」
戸惑いの声が漏れるが、弓士も訓練された戦士だ。
仲間の身体を魔物にされて、放ってはおけない。
すぐに十数本の矢が、街門の閂に手を伸ばしている3人を目掛けて飛んで行く。
でも、その矢は悉く、あさっての方向に軌道が逸れた。
まるで、強風にでも吹かれたように。
ああ、閂が外された。
3人は外した大きな閂を抱えて、今度はこちらに向かって駆けてきた。
その後ろで、街門が開いていく。




