16話 間者
デ・シームの街からソニーが戻ってきて5日が経過した。
この間に我々が行ったことといえば、
・北の墓所の森の木を伐採し、土葬用の場所を作った。これは今後も拡張予定だ。
・神殿に安置されていた騎士達の死体を土葬する。
・地下墓地に安置していた騎士団員の死体も土葬する。
・神殿の神官たちに対して、今後は成人男性は土葬する事。その際、遺族には金貨10枚を支払う事を通知する。
・伐採した木の一部は木工業者に渡し、死体運搬用荷車20台を発注する。
さらに、
・来る戦闘に備え、馬用の装備の確認。
・馬用の飼料の確認。
・馬用の土葬用地の確保。
なかなかにハードな日々だ。
特に夕方から朝までの木の伐採と根の掘り起こしは重労働だ。
だが、こうした作業ができるのも、我々への討伐隊が来ないからだ。
これはどうした事だろう。
そんな事を思い始めた時に、俺は副執政官に任命したトールデンの来訪を受けた。
◇
「トールデン。」
「マスター。お時間を頂きありがとうございます。」
「よい。で、今日はどうした。」
「はい。実はここ3日程なのですが、街に不審な者が出入りしております。」
「ほう。」
「私が副執政官を拝命してより、正門には商業ギルドの職員がおります。その者たちが、聞き馴れない商会と取引する目的で街に入るノールデア領領都の商人を確認しております。」
「続けろ。」
「はい。その商会自体は商業ギルドに22年前に登録されています。ですが、それ以来、取引の記録がございません。」
「22年前。」
ルー伯爵が応じた。
「それは、私がこのデ・ルーの街の執政官を父から受け継いだ年です。マスター。」
「なるほど。と、言う事は、その者どもはノールデア領領都の間者で、目的はデ・ルーの街と我が骸骨軍団の調査だな。そして根城となっている商会は、ルー伯爵を監視するために作られていた。ノールデア侯とは、不仲であったのか?ルー伯爵。」
「そうは感じておりませんでしたが・・・。そうか、ルチームの奴か。」
「ルチーム?」
「はい、ルチーム伯爵。ノールデア領領都の執政官に任じられておる者です。あ奴とは、若い頃に衝突しました。おそらく奴の差し金でしょう。」
「それで、監視されたか。と、いう事は勝ったのだな。」
「はい、マスター。クラリスは私の妻となりました。」
「くくく、良い勝利だ。」
「ありがとうございます。マスター。」
「マスター。間者どもは如何致しましょう。」
「トールデン。その商会の場所は分かっておるのだな。」
「はい。マスター。」
「奴らの人数は?」
「男が3人いることを確認しております。」
「わかった。では、こちらで対処しよう。」
商会の場所を記した地図を置いて、トールデンは去った。
「マスター。トールデンの奴、信用できますか?」
「奴は金勘定のできる男だ。この街が取り返されれば、副執政官の地位は消えるし、我らに加担したとして処罰される。奴としては、我々が勝ち続ける限りは、この街で稼げるからな。」
◇
その夜、俺たちはその商会を襲撃した。
商会の建物は、商会らしからぬ、普通の木造2階建ての民家だ。
「人、居る。」
サーチャーの確認も取れた。
行くか。
やり過ぎないように、まずは捕える。
情報を聞き出したいからな。
いいな、お前ら。ロープは持ったな。
俺の背後には骸骨騎士になってから戦闘行為を行っていないシグス大隊長以下20名の選抜隊がいる。
相手は間者で、それなりの場数を踏んでいる。
戦えば手練だろうし、不利と見れば逃げるだろう。
そんな懸念も、我が骸骨軍団の戦闘に飢えた騎士達には不要だった。
◇
家の中には3人の男と1組みの老夫婦がいた。
老夫婦は22年前からこの家で暮らす間者、草と呼ばれる者だ。
このデ・ルーの街で異変が起これば、すぐにノールデア領領都に知らせる。
3人の男は、その知らせを受けてノールデア領領都から来た間者だ。
俺はロープで縛り上げられた彼らを問い質した。
「それで、報告書は領都に送ったのか?」
「そうだ、今日の昼に送った。間に合わなかったな。」
「で、その内容は?」
「もちろん、貴様らの討伐依頼だ。すぐにノールデア領領都から騎士団が遣って来て、貴様らを滅ぼすぞ。」
「それは上々。」
「何!?」
「では、お前達は連れて行こう。」
3人の男に猿轡をして、骸骨騎士が担ぐ。
老夫婦はロープを解き、そのまま放置した。
「ノールデア領領都には我が骸骨軍団の恐ろしさを伝える様に。」と言い残し、民家を出た。
◇
3人の男の身体は将来の骸骨騎士になる。
魂も戦闘向きだ。
老夫婦の家で処理したのでは、血が流れてしまい、死体の運搬で骸骨騎士達の装備も汚れてしまう。
いろいろ気を使った結果、3人の男を森の墓場に運んでから処置した。
「吸魂」を行うと直前の記憶や、名前などの定着した記憶、強い思い出などが、俺の中に入り込む。
俺と話した男の名前はリデルと言った。
こいつの最後の想いは「怖い、討伐依頼をすれば良かった。」という後悔だった。
どうやら、俺は騙されたようだ。
こいつらの荷物は持って来なかった。
俺は老夫婦の家に急いで戻った。
◇
幸いな事に老夫婦は逃げずに家に居て片付けをしていた。
俺たちが戻って来たのは予想外だった様だ。
「な、何かまだ、用がおありで?」
「うむ。あの男たちの荷物を調べたい。どこだ。」
「2階が彼らの使っていた部屋でございます。」
今回はラムデスとジョセフの二人を同行している。
書類探しの様な繊細な仕事は、骸骨騎士の仕事では無いからな。
2階の捜索はラムデス達に任せて、俺は老人に尋ねた。
「先程のリデルの話は嘘であったようだ。彼は領都への報告で我らの討伐依頼はしていない、と言った。何か知っているか。」
老夫婦はお互いの顔を確認して、老人が口を開いた。
「恐れながら、骸骨様たちは魔王討伐が目的と聞きました。」
「うむ。その通りだ。」
「騎士団を倒したのは、お、恐ろしい事です。ですが、その後は街の人間を襲っておりません。街の生活も今まで通りです。ですので、私らは、骸骨様たちの準備が整えば、いずれ街を出て、魔王討伐に向かうもの、と思っております。」
「うむ。その通りだ。」
「ですので、私どもは事を荒げず、時期を待つべき、と報告いたしました。」
「何だと!」
「ひぃぃ!」
これは迂闊であったか。
人間どもは自分の領域内に脅威があれば、それを積極的に排除すると思っていたが。
奴らは、我々を脅威と見なさなかったか。
いずれ去り行く脅威と見たか。
ならば、自分達の損失を避け、このデ・ルーの街の犠牲を以って良し、としたのか。
何という事だ。
では、こちらから挨拶に向かうとしよう。




