105話 骸骨軍団、帝都へ向かう
【 骸骨 】
ル・ゴール帝国北方、中央大森林。
「これより骸骨軍団は帝都へ向かい、魔王を倒す」
俺の言葉は骸骨軍団の全員に届いた。
「マスター、ご武運を」
ルー伯爵らに再度の別れを告げ、俺とディエゴは屍人の岩城を出た。
ここから徒歩で西の草原に向かうと時間が掛かり過ぎるので、ドウアンに連絡し骸骨飛竜に迎えに来てもらった。
夜明け前に草原に到着したが、その場には5千人ほどの骸骨騎士と骸骨兵士がいるだけだ。
多くの者が中央大森林内を移動中だ。
シグス配下の骸骨騎士の多くは森林の西側にいるので、このまま西の草原に出てくる。
ブキャナン配下の部隊は森林の中央から東側にいるので、彼らは一度、第二軍団城砦都市周辺に集合してから街道を西進して第三軍城砦都市に向かわせた。
距離的には、第二軍団城砦都市から南へ進む方が帝都へ向かうには近いが、道中での領国騎士団との衝突が予想されるので、それを避けた。
我々も西の草原に留まらず、日が昇る頃には南下を始めた。
集合場所は第三軍団城砦都市の南、大砂百足と戦った砂漠地帯とした。
◇
さて、骸骨騎士達が集合を完了するまでに、彼らが昼夜休み無く歩き続けたとしても、5日から6日は掛かる。
その後に帝都に向けて移動を開始し、キステード領、フェンクル領、進路を東へ変更し、ウーノンサ領、クイッカー領を経て帝国領に着く。
帝国領境から帝都の王城までは、さらに時間が必要だ。
どんなに急いでも20日以上は掛かるな。
俺はドウアンを呼び出し、骸骨飛竜と飛竜騎兵部隊に、帝都上空からの偵察を命じた。
こちらの動きは我々大部隊の動きから、おそらく既に帝都に連絡済みと思われる。
城砦都市内部には人間達が残っているからな。
なので、骸骨飛竜の動きから我々の動きが帝都の人間を通じて魔王に知れても良い、との判断だ。
我々の行軍に関しては、帝国領領域付近までは帝国東方騎士団との戦いで既に移動済みであるし、その先、帝都と王城までの道程も骸骨騎士達の記憶から判明しているので問題ない。
問題は時間だけだ。
俺の胸中には得も知れない不安があった。
魔王との「魂の接続」とも言える繋がりを今は感じないが、感じられない程度の繋がりが残っているのだろう。
ひんやりとした背筋が凍るような感覚があった。
これは魔王がさらなる魔力を得た影響ではないか?
あの時、俺が魔王を認識したように、魔王もまた、俺を認識したのではないか?
そして、我が骸骨軍団のことも。
で、あれば、赤子の身体ではあるが、魔王も何らかの行動を起こしているのではないか?
骸骨に転生して始めて感じる不安だ。
その不安の払拭の為にも、骸骨飛竜騎兵達に帝都の様子を見てもらいたかった。
◇
骸骨飛竜騎兵達は偵察任務から早々に戻ってきた。
やはり、空を飛べるものは速いな。
悪い予感は的中し、現在の帝都は魔力を帯びた黒い雲に覆われ、雷が頻繁に鳴り響き、大雨が降り続けているようだ。
地上には多くの屍人が徘徊し、黒い雲に遮られ日の射さない状況に昼間でもゴースト共が姿を現している。
そして、魔力を帯びた黒い雲の影響だろう、魔獣の姿もあるという。
戦いの舞台は整っているようだな。
■■■
【 魔王 】
ル・ゴール帝国帝都、王城内中央大広間。
魔王は大広間内にいた。
彼の身体は床から2m程の宙に浮かび、その背後には冥界に通じる黒い穴があった。
その穴からは、今も青白い幽体が這い出して来ている。
宙に浮かぶ彼の周囲には、3人の魔人の女の身体が浮かんでいた。
その身体は黒い穴から伸びた骸骨の腕に掴まれたままであった。
ガッガッガッガッ
大広間では一人の男が青白い幽体の騎士と剣を交えている。
剣戟の音は実剣同士が打ち合う音が響くが、幽体の騎士が振るう剣は実体の無い青白い片手剣だ。
それが実剣と打ち合っているのは、魔力によって硬質化されているからだろう。
ガッリィィ
男が剣を突き出すと、それを幽体の騎士が丸盾で弾いた。
男は体勢を崩した様に見えたが、流された剣の方向に2歩踏み出し、素早く身体を反転させると幽体の騎士の斜め後ろを取った。
「はっ!!」
裂帛の気合を込めて突き出された剣先が幽体の騎士の身体に突き刺さり、その身体は形を崩し煙の様に消えた。
「ハァ、ハァ、これで、9人、次は、そいつだ」
「見事だな、皇帝よ。傷を治すがよい」
男、ファルゴ=グローバー=ゴール皇帝に幽体の女性が近付き、その身体に手を伸ばし、触れる。
数瞬の後、幽体の女性は離れて行った。
すると、ファルゴ皇帝は全身に力を漲らせ、剣先を魔王に向けて突き出した。
「魔王!約束を違えるなよ。私は9人の勇者を倒した。次はその魔人の女だ!」
「クックックッ。約束は違えん。ここまでの戦いは見事であったと言ったであろう、皇帝よ。腕を切られ、治され、足を切られ、治され、お前が勝つまで何度倒れようとも回復させられて、延々と戦いを繰り返してきたのだ。その身に刻まれた退魔の魔法陣を失ったにも関わらず、尚も戦い続ける貴様の精神、いや、復讐の炎には敬意を払ってやろう。さあ、お前の望んだ相手だ」
魔王の右手の一つが振られると、魔人の女の一人、エリーザの身体が宙より床に降ろされ、身体を掴んでいた骸骨の腕が離れた。
エリーザの強張っていた表情が緩み、彼女は笑みを浮かべた。
「ファルゴ。嬉しいわ。あなたが私を解放してくれたのね」
「そうなるのか?だが、お前は私に斬られる為に解放されたのだ。お前だけは許さんぞ!八つ裂きにしてやる!」
「ふふふ。そうだったわね。それ程までに私を想ってくれるなんて、嬉しいわ」
「だまれ!」
「ふふふ。あら?」
エリーザは辺りを見渡した。
「私の剣が無いわ」
「これを使え」
魔王の手に一振りの剣が現れ、それをエリーザに差し出す。
「あら、ありがとうございます」
エリーザは剣を受け取り、魔王の腕に向けてソレを振り下ろした。
ザン!
魔王の右腕の手首の上辺りが切り落とされ、その手は煙の様に消滅し、指に嵌めていた指輪だけが宙に浮かんでいる。
だが、失われた右手はすぐに再生し、2本とも揃っていた。
宙に浮かぶ指輪が移動し新しい指に嵌る。
「クッウアァァァ」
「ギィィヤァァァァ」
宙に浮かぶリリィとアニタの口から悲鳴が漏れる。
「あら、いただいた剣の切れ味を確認しましただけですのに。いけませんでした?」
「自分の腕で試せ」
「次はそうしましょう。さて」
エリーザはファルゴに向き直り、笑顔を見せた。
「ファルゴ。リリィお姉さまは魔法が得意なのだけど、ご存知だったかしら?」
「知らん。魔人だから得意なのであろう」
「あら、魔人にも得手不得手はあるのよ。リリィお姉さまは魔法が得意。アニタは転移が得意。そして、私は」
エリーザが剣を振った。
ザン!
ファルゴ皇帝の左腕が床に落ちた。
ファルゴ皇帝の背後に移動したエリーザが言葉を続ける。
「私は、剣が得意なの。どうでした、今の動き。私は美しいでしょう?」
その顔は満面の笑顔だった。




