102話 魔王を倒した後
【 ル・ゴール帝国 皇帝 ファルゴ=グローバー=ゴール 】
帝都に幽鬼が現れた!
その報せに心が沸き立つ。
私は、戦いたいのだ。
アルメイヤのために。
私から多くの者を、大切な者達を奪った奴らを斬り倒したいのだ。
帝国騎士団司令部はホルト公爵とゲールマン公爵の推薦した者達が中心となり新体制となっている。
個人個人の能力は前任者と遜色なく、組織としての運用実績が足りないだけだ。
彼らに任せれば、王城大正門前は対応できるだろうが、帝都内の住民達の安全確保となると対応の規模が大きすぎる。
敵が幽鬼というのが問題だ。
主な対抗手段が聖水、光魔法、神聖魔法に限られる。
通常の騎士の装備では対応できない。
さらに、私は幼少時から北方騎士団第一軍での軍務を含め、ゴースト相手に戦闘をしたことは無い。
つまり、帝国騎士学校での授業で習った知識だけだ。
だが、今の私ならば問題なく斬れる!
私の指示に中央大広間にいる貴族達は動き出している。
戦闘に参加しない者達はここに留めておくのが良いだろう。
私は傍にいた内務大臣にそれを告げると、入口に待機する4人の神官を見た。
彼らは大聖堂で行った皇帝就任宣誓式の後に、大神官が私に付けてくれた光魔法の使い手だ。
魔人の女対策だったが、幽鬼相手にも役に立つだろう。
「そなたらは幽鬼を退けることができるな」
「はい、陛下」
私の確認に4人が応えた。
「では、付いて参れ」
私は大広間を後にし、武器庫に向かい装備を整えた。
神官達には鎖帷子を着せる。
無いよりはましだろう。
彼らは自分達の杖を持っており、光魔法の行使にはそれで十分だと言う。
私は神官と近衛騎士10名を引き連れ大正門に向かった。
私達の周囲を多くの貴族達が同じように大正門に向かって駆けて行く。
◇
大正門前広場。
私が到着すると、既に大神官も十数人の神官達を連れて来ていた。
そして、青白い骸骨馬に跨った青白い幽鬼の騎士どもと対峙していた。
既に大正門が破られているのか!?
私は大正門に視線を向けるが、大正門は閉じていて破壊されているようには見えない。
では、今ここにいる幽鬼どもは大正門を通り抜けて来たのか!?
大正門前の地面には倒れている帝国騎士と貴族の身体が数人分ある。
その周囲に幽鬼の騎士どもが並んでいる。
その数は60騎程か。
私は大神官の元へ行き、声を掛けた。
「リンドルット大神官。聖水はどこにある」
「陛下。聖水の壷は騎士に渡しました。あそこです」
大神官の指差す方を見れば、一抱えはある大きな壷が地面に置かれ、その周囲を多くの帝国騎士と貴族が囲んでいる。
壷に剣を差し入れ、聖水に漬けた剣を幽鬼の騎士に向けて構えている。
「聖水の壷は一つしか無いのか?」
「ございません。聖水もあれだけでございます」
「そうか。足りんな」
「大聖堂で神官と巫女達が祈りを捧げております。ですが、聖水の追加は明日の朝になるかと」
「わかった」
「陛下。これをご覧ください」
大神官はそう言うと左手に握る杖を振って、光弾を飛ばした。
光弾は目標とした幽鬼の騎士に命中し、ソレは煙の様に崩れて消えた。
だが、それだけだ。
他の幽鬼の騎士どもに動きは無い。
「やつら動かないのか?」
「はい。当初は門衛の帝国騎士が斬り掛かり、反撃を受けて倒されてしまいました。ですが、幽鬼どもはそれ以上は侵入せず、あの様に大正門前で整列しております。」
「なぜだ?」
「それが問題です。何か、あるいは、誰か、を待っているのか」
「誰か?」
この場所で誰かを待つならば、それは帝国皇帝、つまり私だ。
私は大神官から離れ、幽鬼の騎士どもの隊列の前に出た。
「陛下」
「陛下だ」
帝国騎士や貴族達から声が掛かる。
私の後ろには4人の神官が付いている。
近衛騎士達は聖水の壷の所に行っているようだ。
幽鬼の騎士隊の隊列中央正面で立ち止る。
空恐ろしさを感じるな。
「余がル・ゴール皇帝ファルゴ=グローバー=ゴールである。幽鬼の騎士どもよ、何を求めて現世に舞い戻ったか」
私の問い掛けにも幽鬼の騎士どもに動きはなかった。
違ったか、と思った時、大正門が動いた。
ギィィィィィ
とても大正門が立てる様な音ではない軋んだ音を立てて、ゆっくりと大正門が開いてゆく。
幽鬼の騎兵どもの隊列中央が開いて、そこを幽鬼の女性が歩いてきた。
ソレの背後には数人の幽鬼の騎士が、それぞれの武器を手に歩いてくる。
それらから感じる怖気は幽鬼の騎士どもよりも強烈だ。
幽鬼の女性が私の正面で立ち止まった。
顔は昏い影が色濃く、よく見えないが、その両目は赤く光っている。
服装は、旅装束の様な身軽な服装だ。
髪は長く背中に広がっている。
この女は誰なのか?
(あなたが皇帝。後ろに居るのはル・ゴール王国の貴族の末裔達)
(声が!?思念通話スキルか?幽鬼が使うのか!?)
屍人の様な声を想像していたが、頭の中に若々しい女の声が聞こえてきた。
(私は聖女と呼ばれた者です。そして、魔王を倒し、その後、ル・ゴール王国騎士団によって殺された者です)
(なに?)
(私の後ろにいる彼らも、勇者と呼ばれ、戦い、勝利し、殺されました。その理由が、皇帝のあなたには分かるわね)
(理由、だと?)
魔王との戦い。
それは300年前。
子供の頃より聞かされている魔王の軍勢とル・ゴール王国騎士団の戦い。
その話の中に聖女はいない。
勇者はいるが、王国騎士団の一人、剣の勇者だ。
だが、彼は魔王と相打ちとなった。
彼と騎士団の犠牲があって、魔王を討ち倒した。
帝国の子供たちが大人たちから聞かされる昔話だ。
ブキャナン叔父上から聞かされた、帝国の成り立ちと魔人の女との契約。
その話以外にも、隠されている真実があるのか。
(そう。伝わっていないのね)
(!!、思考を読まれた!?)
(私を刺した男は言ったわ。私の役目は終わったと。私が生きていては、これからの10カ国連盟とル・ゴール王国には邪魔なのだそうよ。だから、私は殺された。そして、トーレウス聖王国は滅びた)
(それは・・・)
(だから)
幽鬼の女の昏い顔に双眸が赤く紅く強く光り輝いた。
(私は王国を呪った。彼らの血を引く者を呪った。それは、あなた。あなた達。その血で!その魔力で!贖うがよい!)
彼女の両手がこちらに突き出され、急速に私に向かって伸びてくる。
私は咄嗟に腰の剣を抜き、横薙ぎに払った。
バッ
彼女の両腕は切断され、両手は煙の様に霧散した。
私の剣が、腕が、胸が光り輝いている。
ブキャナン叔父上が私の身体に刻んだ退魔の魔法陣。
帝都に戻り、光属性の魔力を注がれ起動したこの魔法陣の効力は、幽鬼退治には強力な武器となる。
私の反撃を受け、整列していた幽鬼の騎士どもが槍を構えた。
私の背後にいる帝国騎士と貴族達からは戦闘準備の気配が伝わってくる。
「貴様ら亡者の言い分は聞いた。聞いた上で、余はここに宣言する。亡者どもよ!冥界へ戻るがよい!」
幽鬼どもが動き出した。
開いた大正門からも多くの幽鬼と屍人の集団が入り込んできた。
元聖女を名乗る女の両腕は再生し、彼女の背後にいた元勇者の幽鬼どももその双眸を紅く光らせ、武器を構え前に出てきた。
両手持ちの大剣を構えた幽鬼と片手剣と丸盾を構えた幽鬼がいる。
そのどちらかがル・ゴール王国の剣の勇者であろうか。
他は、槍に弓に槌に斧に、杖持ちが2体。
無手のヤツは拳で殴るのか?
9体の元勇者の幽鬼ども。
さあ、戦闘開始だ。




