101話 祝賀パーティー
【 ル・ゴール帝国 領土管理局局長 トモレフ伯爵 】
ファルゴ皇帝陛下の帝都パレードの間、我々は中央大広間から退出して待機しております。
飲食物の置かれている小部屋(それでも100人程は入れますぞ)での会話や、庭園の散策をしております。
この間に中央大広間は祝賀パーティーの準備を行っておりますし、戴冠式には出席しなかった若い者達が王城に到着して我々の会話に加わります。
おや、飛空挺も到着しましたな。
北方騎士団は全滅したと思っていましたが、まだ運用するだけの人員は残っているのでしょうか。
周囲を見渡せばホルト家、ゲールマン家、ムーア家の本家筋に近しい方々の姿もありますが、どなたも表情が厳しく、私などが気軽に声を掛けられる雰囲気ではありませんな。
それだけファルゴ皇帝陛下の先程のお言葉に衝撃を受けたのでしょう。
耳をすまさなくとも、彼らの話し声が聞こえてきます。
「骸骨どもは未だ北方におる。我らは遠征するのか?」
「遠征はせんだろう。準備を整え、奴らを迎え撃つのだ」
「時間はありますな」
「然様。北方騎士団からは骸骨対策の資料も届いていると聞いている。有効な手立てと武器を用意できるぞ」
「北方騎士団には準備をする時間が無かった。それ故に功をあせり足元を掬われたのだ」
「その時間が我々にはある、という事ですな」
「その通り」
彼らの楽観的な見通しが周囲に響きます。
それに呼応するように周囲の方々も少し力が抜けた雰囲気になったようですな。
女性陣は年若いファルゴ皇帝陛下についてのお話しもされているようです。
私は来る骸骨との戦いが頭から離れず、なかなか楽観的な気分にはなれませんな。
「やれやれ。すでに引退している身だというのに、勇ましいことで。そうは思いませんかな、トモレフ伯」
「おお、フォルハット伯。久し振りですな」
「トモレフ伯、紹介しますぞ。我が息子のジェンス。帝国騎士学校の3年生です」
「お初にお目にかかります。ジェンス=フォルハットです」
旧友の息子は年相応に溌剌とした長身痩躯の気持ちの良い若者です。
私は笑顔でうなずき、彼の挨拶に応えました。
「帝国騎士学校ですか。では、」
「うむ。この子は魔技持ちでな、我が家の秘蔵っ子よ」
そう言うと彼は私に身を寄せ、囁くように言いました。
「気付いておろうトモレフ伯。いまや帝都において我らディアン家は優勢。新皇帝の下、ディアン家が帝国を動かすのだ」
「そ、それは、」
「そうなれば、貴殿もすぐに新しい役職に就く事になろう。ククク」
身を引いた彼の笑顔は新しい玩具を手にした子供のようですが、その目は悪巧みを考える悪童のような意地悪い光を湛えています。
「ではまた後ほど。行くぞ、ジェンス」
「失礼します」
離れて行く旧友親子の背中を見て「我が身内にも楽観的な者がおるものですなぁ」とひとりごちてしまいますな。
◇
ファルゴ皇帝陛下がパレードからお戻りになり、我々も再び中央大広間に入りました。
中央大広間の壁際にも飲食物の置かれたテーブルが並び、前方中央はダンススペースとして開いております。
楽団員が曲を奏でる中、皇帝陛下が入場され壇上のお席に着かれます。
皇后様はやはり入場されず、何かあったのでしょうか。
となると、皇帝陛下のダンスのお相手は、いや、ダンスはなされないかもしれませんな。
皇帝陛下が入場なされた扉付近には近衛騎士の他に数名の神官の姿も見えます。
これは普段とは違いますな。
グローバー公爵夫妻から順に挨拶をしていますが、挨拶を終えた公爵達の顔色が悪いように見えるのは気の所為でしょうか。
ホルト公爵の周辺がにわかに騒がしくなっております。
ややしばらくしてから、その理由が聞こえてきました。
どうやら遠い北方の地にいる骸骨どもが南への移動を始めたそうです。
あの飛空挺はその報せだったようですな。
やつらが帝都に来ることが現実となりました。
あと何日の余裕があるのかが問題でしょうか。
大広間内にはダンスや会話を楽しむ方々と、深刻そうな顔で話し込む方々がいます。
私も幾人かの方々と楽観的な、悲観的な、好戦的な、消極的な、話をして時間が過ぎていきました。
ふと、大広間の端に目をやると、場違いな雰囲気の集団が目に付きました。
あれは各地の商業ギルドのギルド長達ですな。
周辺の貴族達から少し離れたテーブルに隔離された様に佇んでいます。
平民として給仕の者達からもぞんざいに扱われているようです。
彼らは平民ですが明日には領主代行を拝命する者達です。
準備段階では我々領土管理局が配慮しておりましたが、末端の担当者までは指示が徹底していなかったようですな。
私があのテーブルに行けば、担当者に注意もできるでしょう。
もっとも、この状況では領主代行の職務が吉となるか凶となるかは、我々と骸骨どもの結果次第でしょうか。
そのような事を考えつつ、私はグラス片手に人々の間を移動しておりました。
その時です。
ホルト公爵周辺から大きな声が聞こえたかと思うと、一人の帝国騎士が皇帝陛下の御前に進み出て跪きました。
「陛下。至急ご報告させていただきます」
「申せ」
「はっ。帝都内に大量の幽鬼が現れました。帝都住民に大勢の犠牲者が出ており、その犠牲者は屍人となってさらに帝都住民を襲っております」
「なんだと!」
「さらに現在、王城大正門には騎兵姿の幽鬼の集団が襲い掛かっており、騎士達が対応中です」
なんという事でしょうか。
まだ時間があると思っていた帝都での戦闘が、今まさに起こっているとは!?
ファルゴ皇帝陛下が立ち上がり、大きく手を振り指示を出します。
「大聖堂より聖水と神官を出せ!パーティーは中止だ!騎士団は武器庫を開けよ!戦える者は剣を取れ!弓を構えよ!魔人を倒すのだ!」
「おおぅ!」
やはり歓声を挙げたのはホルト公爵の周辺ですな。
他の皆は突然の事にどうして良いのか分からずにおります。
ですが、引退したとはいえ帝国貴族として育った身です。
我々はグラスを置いて武器庫へ向かいました。
剣を手にとるのは何年振りの事でしょうか。




