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骸骨軍団  作者: ブルーベリージャム
105/111

100話 帝都の夜

【 ル・ゴール帝国帝都 ディアン公爵邸 】


夜。


ディアン公爵邸の門を一台の馬車が通り抜けた。

祝賀パーティーから早々に帰宅した者がいるようだ。


正面玄関前に馬車が止まり、二人の男が降りてきた。

ノールデア領領主代行を務めるトールットと従者の男だ。

二人が降りると馬車はすぐに走り出し車庫へと向かう。


「やれやれ、御者の男も我々を馬鹿にする態度を隠そうともしませんね。これが帝都の貴族社会ですか」

「仕方ない。領主代行とはいえ平民ですからね」

「トールット様」

「ディアン公爵とはご挨拶ができ、帝都滞在中のお世話もお受けしています。先ほども言いましたが、他の貴族と我々が親交を持つ必要もありません。この堅苦しい服も似合っていませんし、早く着替えて街に出ましょう」

「そうですね。帝都の活気を肌で感じる良い機会でしょう。それにしても、家の者が誰も出てきませんね。若いメイド達も夜の祝賀パーティーに出席すると言っていましたが、何人かは屋敷に残っていると思いますが」


そう言うと従者の男は扉に手を掛けた。

扉は内側に音も無く開いてゆく。

中は薄暗く静かだった。


「誰もいませんね。只今戻りました!どなたかいらっしゃいますか!」

従者の男が呼びかけるが応える者はいない。

「さすがにおかしいな」

「どうしたのでしょうか」

二人が顔を見合わせると外から男の悲鳴の様な声がかすかに聞こえた。

馬車の御者の声、とあたりを付けた二人は車庫へと走った。


車庫には馬車があり、馬2頭がつながれたまま倒れている。

車庫の先には(うまや)があり、その厩へ続く道端に男が座り込んでいた。


「どうしました。大丈夫ですか?」

従者の男が駆け寄る。

「あ、あぁ、馬、馬が」

「馬?」

御者の男は弱々しく震える右手を上げ、厩を指差した。

トールット達は視線を厩の中に向けた。


馬がいた。

体格の良い茶毛馬だ。

その馬体に黒い塊が絡み付いている。

煙のような(もや)のような質感をした動く塊だ。

それが馬体に絡み付いている。


馬体は細かく振るえ、馬は白目を剥いて口からは泡を吹いている。

黒い塊が動くとその下から干からびて赤黒く変色した馬体が現れた。

それが全身に広がり、ついに馬の頭部を飲み込む。


黒い塊が馬体の背に移ると、ミイラの様な馬の全身が(あらわ)になった。

その背に、今は人が跨っている。

全身が淡く、青白く、透けた、(かすみ)のような、幽体の全身鎧姿の騎士。

それが、右手に青白い槍を持ち、黒い(もや)(まと)ったミイラの馬に跨っている。


幽体の騎士が足でミイラ馬の腹に合図をすれば、ミイラ馬はゆっくりと(うまや)から出てきた。

その後に、続々と青白い幽体の骸骨馬に乗った幽体の騎士達が続く。

300騎を超える幽体の騎兵隊はそのまま帝都の街へと屋敷を出て行った。


トールット達は言葉を発する事無く、それを見送った。



トールット達が飛び出し、開け放たれたままの正面扉。

その玄関ホールに上階から階段を下りてきた数多(あまた)の青白い幽体が現れた。

その先頭は年若い女性の姿をしている。

彼女の後に続々と人々が続く。

彼らは老人、若者、子供、剣士、農夫、町人、様々な年代の様々な服装の死者の魂だ。

生前の姿のままの者、傷つき倒れた姿の者、虚ろな表情、怒りの表情、様々だ。


彼らは玄関を通り抜け屋敷の外に出ると、先行する騎兵隊の後を追うように進み出した。


トールット達3人はその行進する死者の長い列も、黙って見送った。

その表情は恐怖に染まり、声を出すことも逃げ出すことも身動きすら出来なかった。

極度の緊張状態に陥った彼らは、失神することで精神の安定を保つ道を選んだ。

彼らの身体は倒れ、そのまま気を失った。


■■■


【 ル・ゴール帝国帝都 王城前大通り 】


酒場や食事処はもちろん、通りに出ている屋台の周辺でも多くの人々が飲食を楽しみ、騒いでいた。

話題はもっぱら年若い新皇帝の事だ。

時間も遅くなり楽曲を奏でる者がいなくなったが、人々の笑い声や話し声で大通りはにぎやかだった。


そこへ、悲鳴が遠くから聞こえてきた。

男の震え声の様だ。

最初にそれに気付いたのは、テーブルに座り仲間の話を聞いていた剣士の男だった。

彼は周囲に「静かに!」と言うと椅子を立ち上がり、腰の剣に手を置くと周囲を警戒する素振りを見せた。

周囲の男達は彼の仲間だ。

彼の言葉と行動の意味をすぐに理解し、酒の入ったジョッキをテーブルに置いて同様に周囲を警戒する。


大通りの先から何かがやって来る。

何か、何か、わからないが、それは怖いモノだ。

そう感じる。

たまらず男達は抜刀した。

それを見て屋台のテーブルの他の客達もおしゃべりを止めて、ある者は立ち上がり、ある者は建物の方へ身を寄せ、ある者は同じように武器を構えた。


ソレがやって来た。

パカッパカッパカッパカッ。

馬の足音にしては軽い音が響く。

その音は馬一頭分だ。

だが、男達の目には無数の青白い骸骨馬に跨った青白い騎兵達の姿が見えた。

先頭は赤黒い痩せ馬に乗った騎士だ。

それに数百の騎兵が続き、大通りを王城方向に駆けて行く。


サワサワサワサワ

ソレが纏う周囲の空気は寒気を覚えるほどに冷たく、暗く、異質だった。

その空気が揺らり揺らりと周囲に広がっていく。

その空気の中を今度は青白い姿の群集が歩いて来た。

彼らもまた、王城を目指して歩いて行く。


ガラン。

剣が音を立てて通りに落ちた。

剣を落としたのは最初に警戒した剣士の男だ。

彼は震えていた。


ゴーストの集団だ。

教会に行き、神官様に報告して聖水を分けてもらえば退治できる。

いや、先に守備隊本部に報告に行くべきか。


頭の中では次の行動についていろいろと考えるが、体が言うことを聞かない。

ゴーストのスキル『恐怖』の効果だが、彼はそれを知らなかった。

震える身体をなんとか抑え、仲間に声を掛けようと顔の向きを変えた。


そこに青白い首があった。

身体は無い。

男の怒った表情をしている。

激しい怒りの視線を向けている。

それが、彼に向かって大きく口を開けた。

彼は頭から飲み込まれた。



やがて、倒れた彼の身体は立ち上がり歩み出した。

だが、その歩みはふらふらと頼りなく、その口からはうめき声が漏れている。

彼の心を占めるのは「飢え」だ。

それを解消する為の方法を彼は知っている。

それは生者の魔力を奪うこと。

どうすれば奪えるのか?

その答えも知っている。

生者に噛み付けば良い。

特に首に噛み付き、血を啜るのが良い。

彼は歩み始めた。

生者を求めて。

より強い魔力を求めて。


その彼の後を追うように、彼の仲間だった男達の身体もふらふらと歩み始めた。



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