99話 冥界へ
【 トーマス王子(かつて魔王と呼ばれた男)】
幽界の門は大きく開き、冥界へと続く坂道が伸びている。
すぐにでも駆けて行きたいところだが、少し準備が必要だ。
我が魂は生者の魂だ。
冥界に行くには隠蔽と守りの護符が必要だ。
なので自分の骨を素材に指輪を作る。
前回はそれで冥界深部まで行けたからな。
この魂でも大丈夫だろう。
ああ、何てことだ。
この身体では骨が小さすぎる。
自身の骨が一番魔力の通りが良いが、魔力の強い者の骨でも代用できる。
だが、隠蔽の指輪は自身の骨で作りたい。
現世での性能はもちろん、魔力に拠ってその能力は魂にも結びつくからな。
リリィが身体変化の術を知っているな。
それを使うにもこの身体は小さく、追加の肉と骨が必要だ。
アニタを喰うか。
いや、男の身体の方が馴染むのが早いな。
ああ、そこに男と女がいるじゃないか。
では、男の身体を喰うとしよう。
ずぶりぞぶり。
ぶちぶちぃぃ。
ごりぃ。
ぼりぼり。
がきんごぎん。
ぐちゃぐちゅ。
ずるゅりじゅるり。
ああ、喰うた喰うた。
腹が身体より大きく膨らんでしまったな。
どれ、馴染むまでに他の指輪を作るとしよう。
素材は魔力の強い骨があれば良い。
アニタの肋骨を4本貰うぞ。
水の吸収の指輪が一つ、土の吸収の指輪が一つ、火の吸収の指輪が一つ、風の吸収の指輪が一つ。
次はリリィの肋骨だ。
水の増幅の指輪が一つ、土の増幅の指輪が一つ、火の増幅の指輪が一つ、風の増幅の指輪が一つ。
これで我の存在は周囲に紛れる事が容易になる。
おお、腹もへこんだな。
では、リリィよ、我の身体を成長させるのだ。
おお、軋む。
骨が軋むぞ。
肉がちぎれ、そこに新しい肉が盛り上がり、骨が伸び、また肉がちぎれる。
ああ、痛い。
気持ちが良い痛みだ。
終わったか。
20歳ほどの肉体だな。
腕が4本ある。
ああ、門を開ける時に増えたか。
では、足はいらん。
リリィ、我が足を根元より切断せよ。
この足の骨を使って指輪を作る。
隠密の指輪が一つ。
気配断ちの指輪が一つ。
匂い断ちの指輪が一つ。
魔力抑制の指輪が一つ。
これで我の存在が掴みにくくなるだろう。
おお、そうだ。
あれも作るか。
エリーザの肋骨と心臓を貰うぞ。
これで準備は整った。
では、行くとしよう。
◇
冥界には監視者がいる。
その存在に見つかれば捕われる。
たとえ、生者の魂であってもだ。
見つからないのが一番だが、見つかった場合は現世に逃げ戻るしかない。
時間の概念は存在するが、存在しない。
ここで過ごす時間は永劫であり、瞬時であり、過去であり、未来であり、主観的であり、客観的だ。
つまり、現世とは違う時の流れがある。
我の様な迷い魂には主観的な時間が流れ、捕われた魂には永劫が訪れる。
いくつもの階層があり我が求める魂も何処にいるかは不明だ。
だが、我が思えばその者の居場所へと移動できる。
その移動もまた、長距離であり、短距離であり、永劫であり、一瞬だ。
◇
「あなたは!」
炎に焼かれている女の魂は我を見つけ声を上げた。
だまれ、監視者に見つかるではないか。
この女は、かつて聖女と呼ばれた者だ。
あの時も愚かな女と思ったが、やはりここにいたか。
我は彼女の手を掴むと幽界の門へと続く坂道の下に連れて行った。
「ここを登るの?一緒に?」
いいや。ここを登るのはお前一人だ。
関係のない者も坂道を続々と登っている。
そこに女を置いて、我は次の魂の元へと移動する。
我を殺した9人の勇者と騎士団員を全員連れて来るのだ。
最初に攻めてきたのは騎兵隊だった。
やつらに会いに行こう。
◇
門を再び開ける事に成功し、僕は冥界へと踏み込んだ。
しかし冥界は無限の広さを持つ底知れない深淵、そこに無限の魂が彷徨っている。
僕は彼女を探し出せるだろうか。




