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骸骨軍団  作者: ブルーベリージャム
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98話 ディアン公爵邸の異変

【 ル・ゴール帝国北西部 帝国北方騎士団第三軍城砦都市 】


この日の早朝、骸骨達が中央大森林より続々と集結し、南下を始めた。

その動きを一早く帝都に伝えるべく、連絡員を乗せた飛空挺が飛んで行く。


■■■


【 ル・ゴール帝国帝都 ディアン公爵邸 】


昼過ぎから始まったファルゴ新皇帝のパレードは2時間ほどを掛けて帝都の中心部を廻り、王城へと戻っていった。

王城ではこの後に祝賀パーティーがある。


帝都の人々はパレード後も音楽を奏で、歌い、踊り、飲んで食べての大騒ぎを続けている。


そんな喧騒をよそに、ディアン公爵の館は静かであった。

公爵夫妻は皇帝戴冠式出席の為に朝から出かけている。

公爵の館に同居している家族や親戚縁者、遠方からの客人達も祝賀パーティー出席の為に既に王城に向かった。

行儀見習いとしてメイドや執事として働いている男爵家や帝国騎士家の子弟も、祝賀パーティー出席の為に昼には実家に戻った。



夕刻。


年配の執事の男が一人、人気(ひとけ)の無い館内の見廻りをしていると、3階から大勢の人の気配を感じた。


おや、3階は空き部屋になったはずだが?

(つね)であればそのような事は無いが、今は家人(かじん)がいないので、執事かメイドの誰かが休憩中なのであろうか?

それとも、客人の誰かが祝賀パーティーから戻られたのか?


そのような事を考えながら階段を上り3階の廊下に出た。

すると廊下の先にメイドが一人、立ち止まっている後姿が見えた。

同時に、「ヒィィィィィ」という微かな悲鳴のような女の声も聞こえてきた。


不審に思いつつも執事の男はメイドに近付き声を掛ける。

「君、どうかしたのかね。」

メイドの身体が小刻みに震えているのがわかる。

メイドの顔は前を向いたまま、その口から悲鳴を漏らしている。

執事の男も廊下の先を見た。


ある部屋の扉が開いている。

その扉の前の廊下は影が色濃く、そこだけ日の光が届いていなかった。

その暗がりの中に人がいる。

青白い。

だから暗がりでも、その姿が判別できた。

だが、細部は良く見えない。

背はそれほど高くない。

ほっそりとした体躯に首の後ろを隠すほどに伸びた髪の毛。

女性のようだが横顔がはっきりと見えない。


「もし、そこの方。」

執事の男はその女性に声を掛けた。

彼女はゆっくりと頭を動かし、こちらに顔を向けた。

そこに顔は無かった。

暗い、穴。

穴があった。


執事はその穴から目が離せなかった。

穴を見つめれば、その暗い穴がどんどんと広がり、視界が暗くなった。


闇だ。

その中にポツンと小さく青白い点がある。

それは徐々に大きくなり、近付いて来るのが分かった。

それは老婆の姿だった。


腰を曲げた老婆が杖を突き、ゆっくりと近付いて来る。

ああ、彼女が持つのは杖ではない。

杖は長く、その先には鎌状の刃が付いている。


近付いて来る。

動けない。

老婆の姿がはっきりと見える。

動けない。

老婆が鎌を振り上げた。

動けない。

老婆が鎌を振り下ろした。


ゆっくりと。

ゆっくりと。

振り降ろされる鎌の動きがはっきりと見える。

「キィャ、キィャ、キィャ」

老婆の口から耳障りな甲高い笑い声が聞こえる。


刃の先が胸に突き刺さる。

痛い、いたい、イタイ、いたい、イタイ、痛い。

冷たい痛みが傷口から全身に広がる。

鋭い刃先に刺されたとは思えぬ、まるで無数の棘付きの板で肉をすりおろされるような、引きちぎられるような、そんな傷みが連続する。

刃が徐々に胸の奥に沈み、傷口が広がる。


だが、執事の男は声を出さなかった。

頭の片隅で、これが精神攻撃だと分かっている。

若い頃の帝国騎士だった頃を思い出す。

こいつは妖魔の一種か。

なぜ館の中にゴーストが?

大丈夫だ。

公爵様の部下として活躍していた頃を思い出し精神を集中すれば、この程度、耐えられる。


目の前に老婆の顔があった。

笑顔だ。

他人を不愉快にする笑顔があるのかと執事の男が初めて感じる程に、それは歪んだ笑顔だった。

その笑顔のまま老婆が言う。

「フェフェフェ、記憶を一つ、消すぞぇ」


その声を残して老婆が消えた。

胸の痛みも消えた。


闇だ。

その中にポツンと小さく青白い点がある。

それは徐々に大きくなり、近付いて来るのが分かった。

それは老婆の姿だった。


徐々に近付くその姿に、執事の男は攻撃が繰り返される事を知った。

だが、耐えて見せる。

そう、若い頃の、あの方との思い出を思い返せば。

あの方。

あの方とは、誰だ。

思い出せない。


次に思い浮かんだのは亡き妻の顔だった。

駄目だ。

思い出せば、思い出が消される。

駄目だ。

これは忘れたくない。

駄目だ。

老婆が鎌を振り下ろす。


廊下に女の悲鳴が響き、そこに男の叫び声が重なった。

その声を聞きつけ、数人の足音が階段を登ってくる。


廊下の暗がりはその領域を広げ、青白い人影がひとり、ふたり、と姿を現す。


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