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社畜転生したら【クエスト】が鳴り止まない〜地球の物資を取り寄せて、限界集落を大陸最強の街にする〜  作者: 月神世一


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EP 2

「罠にかかった天使と、書き換わる業務命令」

 木と木の間に仕掛けた高張力ワイヤーネットの中央。

 キャルルが撒いた特製人参クッキーの欠片を、そいつは無防備に拾い上げていた。

 ポリポリ、サクサクと、小動物のようにクッキーを齧る音が静かな森に響く。

 だが、どう見ても『トライバード』という鳥型の魔獣ではない。

 淡い桜色のツインテール。背中に生えた小さな純白の翼。そして、頭上に浮かぶネオンサインのようにピカピカと発光する光輪(ヘイロー)。

「陸人様、あれ……鳥じゃないですの。どう見ても人ですの」

「ああ。だが、なぜあんなネオン管みたいなのを頭に乗せた奴が、鳥の罠の真ん中でクッキーを食ってるんだ?」

「しかも、めちゃくちゃ美味しそうに食べてます……私の分が減っちゃいますの!」

「お前の分じゃない。鳥の餌だ」

 よだれを垂らすリーザを制し、俺はウインチの起動スイッチを握り直した。

 状況が読めない。だが、相手は明らかにこちらの仕掛けた罠の中心——つまり『キルゾーン』に居座っている。

 ここで見過ごして逃がせば、本来のターゲットであるトライバードが寄り付かなくなるかもしれない。

「……キャルル。あいつ、危険な魔獣の変異体か何かの可能性は?」

「いえ、心音からは敵意も殺気も感じません。ただの……少し変わった天使族の女の子みたいです。でも、どうしてこんな辺境の山に?」

「なら、話は早い」

 俺は躊躇なく、ウインチのスイッチを押し込んだ。

 ——バシュッ!

 仕掛けていたワイヤーネットが弾け飛び、凄まじい勢いで収縮する。

「ふぇっ!?」

 間抜けな声と共に、クッキーを齧っていたピンク色の天使がネットに絡め取られ、そのまま木の枝高くへと吊り上げられた。

『ピコン』

【クエスト E-038:罠にかかった未知の対象を確認せよ】

【内容:捕獲した対象の正体と安全を確認する】

【報酬:50P】

「よーし、大物ゲットですの! これで今夜は唐揚げ——って、やっぱり鳥じゃないですのぉぉ!」

 リーザがみかん箱を踏み台にして飛び出し、吊り上げられたネットの下で地団駄を踏む。

 俺とキャルルも茂みから立ち上がり、罠の下へと歩み寄った。

「ふぇぇ〜ん! 助けてぇ〜! 私は美味しくないよぉ〜!」

 ネットの中でモガモガと暴れながら、天使の少女が涙目で叫んでいた。

「食べないでぇ! 私の羽は唐揚げにしてもパサパサだし、光輪は蛍光灯みたいな味がするから絶対お腹壊すよぉ!」

「誰も食わない。落ち着け」

 俺は冷静にツッコミを入れ、ウインチを少しだけ緩めてネットを地上すれすれまで下ろした。

『ピコン』

【クエスト達成】

【50Pを獲得しました】

【現在の所持P:1,250P】

「痛っ……もう、ひどいじゃないの! 女の子を網で捕まえるなんて、コンプラ違反でアカウントBANされちゃうんだからね!」

 地上に降り立った天使は、涙を引っ込めると急に態度を変え、ポンポンと服の埃を払った。

 彼女が着ているのは、フリルがふんだんにあしらわれたサイバー地雷系の衣装だ。この世界の一般的なファンタジー装備とは明らかに一線を画している。

 そして彼女は、どこからともなく取り出した小さな魔導通信石——いや、ドローンカメラのような浮遊端末に向かって、とびきりの笑顔でウインクを作った。

「みんな見て〜! 辺境の村に潜入しようとしたら、ガチのトラップに引っかかっちゃった! でも、この天然のリアクション、最高の『撮れ高』でしょ♡ スパチャよろしくね〜!」

「……撮れ高?」

 俺が眉をひそめると、彼女は振り返ってビシッと俺を指差した。

「そう! 私は全大陸に八千万人のリスナーを抱えるメガゴッドチューバー、キュララちゃん! 飛んでたら下からすっごく美味しそうなクッキーの匂いがしたから、つい『食レポ配信』の枠を取ろうと思って降り立っちゃったの☆」

「……」

 鳥の餌(クッキー)に釣られて罠にかかったのか、こいつは。

 月収二億を稼ぐトップ配信者だと聞いていたが、根底にある食い意地は路上生活をしていた頃から変わっていないらしい。

「ちょっと待つんですの!!」

 その時、リーザが目を血走らせながらキュララに詰め寄った。

「あ、あんた! そのピカピカ光る輪っかと、ウザいほどあざとい喋り方……! まさか、私の太客(石油王)を奪い去っていった『アホ毛天使』ですの!?」

「ん〜?」

 キュララは小首を傾げ、リーザの小豆色の芋ジャージと健康サンダルをジロジロと見分した。

「あーっ! わかった! 君、最近ネットの掲示板で『底辺の極み』ってちょっとだけ話題になってた、みかん箱の魚アイドルでしょ! な〜に、この貧乏魚。実物、本当にジャージ着てるんだ。ウケる〜♡」

「ウケるじゃないですの! あんたのせいで、私の五円玉スパチャがパッタリ止まったんですの! 責任取って、今すぐ現金で補填しなさいの!」

「え〜、やだ。リスナーは魅力的なコンテンツに課金する自由があるんだよ? 資本主義の基本でしょ? みかん箱で歌うより、私のチャンネルでコメント欄のモデレーターでもやった方が日給稼げるよ?」

「ギギギギギ……ッ! ぶっ飛ばしますの! 今日こそアンタのその羽をむしって焼き鳥にしてやりますのぉぉ!」

「ちょっ、やめ、痛い痛い! 暴力反対! 特定班動かすよ!?」

 キャットファイトならぬ、フィッシュ・アンド・エンジェルファイトが始まった。

 互いの髪を引っ張り合う低レベルな争いを横目に、俺は静かに缶コーヒーをあおった。

 変なのを獲ったな。

 だが——。

「(全大陸に八千万人のリスナー、か)」

 俺は内心で素早く算盤を弾いた。

 ニャングルが言っていた『知名度不足』。それを一撃で解決できるメガ・インフルエンサーが、文字通り向こうから罠に飛び込んできたわけだ。

 彼女の配信網を使えば、ポポロ村の特産品や弁当事業のPRなど造作もない。

 それに、村のGDPが上がれば、俺の【クエスト】の発注上限も跳ね上がる。ビジネスチャンスとしては、これ以上ない極上の獲物だ。

「……よし。あの二人が疲れるまで待ってから、契約の交渉に入るか」

 俺がそう判断し、キャルルに「放置でいい」と合図を送ろうとした、その時だった。

『ピコン』

『ピピピピッ!』

 突如、俺の視界に展開されていた半透明のウィンドウが、ノイズ混じりに激しく明滅し始めた。

「……なんだ?」

 エラーか?

 俺は目を細めてウィンドウを凝視した。

 表示されていた『クエスト C-036:ポポロ山でトライバードを5羽捕獲せよ』の文字が、バグったように文字化けを起こしていく。

【クエスト $%&#……】

【システム干渉を検知】

【クエスト内容の強制書き換えを実行します】

「書き換え、だと……?」

 俺のスキルは、状況に応じて自動でタスクを生成するものだったはずだ。それが、まるで何者かの『意志』によって上書きされていくような不気味な挙動を見せている。

 スパパパッ! と文字列が再構築され、赤い縁取りのウィンドウが新たにポップアップした。

【緊急クエスト C-036(更新):天使族の少女を保護せよ】

【内容:迫り来る脅威からキュララ・アルセルラを防衛し、村へ連れ帰る】

【報酬:3,000P】

「……脅威から防衛?」

 俺は思わず、周囲の森へと視線を走らせた。

 木々の葉が擦れる音。風の音。

 だが、その奥から、微かだが明確な『殺気』のようなものが滲み出しているのを感じた。

「——陸人さん、危ないッ!」

 隣にいたキャルルのウサギ耳がピンと立ち、彼女が俺の前に飛び出してきた。

 直後。

 キュララを追いかけ回していたリーザの足元、その地面の影が不自然に歪み、刃のように鋭い『黒い棘』が飛び出してきた。

読んでいただきありがとうございます。

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