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社畜転生したら【クエスト】が鳴り止まない〜地球の物資を取り寄せて、限界集落を大陸最強の街にする〜  作者: 月神世一


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10/14

EP 10

「みかん箱の値段と、内容証明郵便」

 ポポロ村の広場は、村人たちの憩いの場であり、弁当宅配事業の荷下ろしポイントでもある。

 その日の昼下がり、俺とニャングルは広場の隅で売上帳簿の確認をしていた。

「ええペースや。前線の連中、ゲロオムレツの反動でウチの芋シチュー弁当に完全に依存しとる。この調子なら、来月には村の赤字を三割は圧縮できるで」

「ああ。村のGDPが上がれば、俺の調達ルートも拡大できる。いい循環だ」

 缶コーヒーを傾けながら、俺は頷いた。

 平和な午後だ。フェイトは相変わらず『隣の犬の四十九日』に続いて『親戚の亀の三回忌』を理由にサボっているが、イグニスが真面目に空を飛んでいるおかげで事業は回っている。

 だが、その平穏は突如として破られた。

「——さあさあ! 命が惜しければ『暴行しない券』を買うんだな! 今なら家族割引プランでお得だぜ!」

 広場の中央で、ガラの悪い怒声が響いた。

 見れば、薄汚れた革鎧を着たチンピラが三人、村人たちを取り囲んで粗末な紙切れを押し売りしていた。前村長が持ち逃げしたという、あのふざけたみかじめ料ビジネスの残党だろう。

「やめるんですの! ここは村のみんなの広場ですの!」

 チンピラたちの前に立ちはだかったのは、小豆色の芋ジャージを着たリーザだった。

 彼女は自分の『ステージ』であるみかん箱を背に庇うようにして、両手を広げている。

「あぁ? なんだこの魚女。アイドルだぁ? 笑わせるんじゃねえよ!」

「や、やめるんですの! 陸人様が用意してくれた、私の大事なお立ち台——」

「こんなゴミがステージかよ。ギャハハハッ!」

 チンピラの一人が、嘲笑いながら足を振り上げた。

 無慈悲な蹴りが、ボロボロのみかん箱にクリーンヒットする。

 ベキッ、と乾いた音が響き、みかん箱は無惨にひしゃげ、バラバラに砕け散った。

「ああっ……! わたしのみかん箱が……!」

 リーザが地面にへたり込み、砕けたダンボールの破片を掻き集めて涙をこぼす。

「ギャハハ! ほら、暴行しない券を買わないと、次はお前の顔面がこうなるぜ!」

 チンピラが下劣な笑い声を上げた、その時だった。

「——お前ら」

 俺は、気づけば広場の中央に立っていた。

 声を荒げる気にもならない。ただ、ひどく静かに、頭の芯が冷え切っていくのを感じていた。

 チンピラたちが怪訝な顔でこちらを振り向く。

「あぁ? なんだてめえ、ヒョロっちい——」

 俺は相手の言葉が終わるのを待たなかった。

 下請けの工場で揉め事が起きた時、殴りかかってくる職人を躱すための『間合い』は体に染み込んでいる。

 一歩踏み込み、無防備なチンピラの顎の先端を、右の拳で正確に打ち抜いた。

 ——ガッ!

「ごぶっ!?」

 鈍い音と共に、チンピラが白目を剥いて崩れ落ちた。

 脳を揺らされたのだ。ただの一般人のパンチでも、無警戒の急所に入れば人はあっけなく倒れる。

 まあ、俺の右手の拳もジンジンと痺れて、めちゃくちゃ痛いんだが。それは表情には出さない。

「なっ!? て、てめえ、何しやがる!」

「ただのサラリーマンが、自社タレントの資産を守っただけだ」

 俺は痛む右手をポケットに隠し、冷たい視線で残りの二人を見据えた。

 静かな怒気を孕んだ俺の態度に、チンピラたちは気圧されたように一歩後ずさる。

「くっ、野郎! 覚えてろよ!」

 倒れた仲間を引きずり起こし、チンピラたちは捨て台詞を吐いて逃げ出そうとした。

「——覚えとく。支払い期日は今月末だ」

 俺の言葉に、チンピラたちの足が止まる。

「……はぁ?」

「器物損壊、営業妨害、それにうちのタレントへの精神的苦痛。立派な不法行為だ。損害賠償を請求する」

 俺は空中のウィンドウを開いた。

『複写式・公式請求書パッド&内容証明封筒:10P』

 手の中に現れたバインダーに、胸ポケットのボールペンでスラスラと項目を書き込んでいく。

 ステージ機材(みかん箱)の損壊。興行中止による機会損失。慰謝料。合計、金貨五十枚。

 ビリッ、と複写した請求書を破り取り、チンピラの顔面に叩きつけた。

「内容証明郵便と同等の効力を持つ請求書だ。逃げても無駄だぞ。期日までにゴルドスマイル銀行の指定口座に振り込まなければ、法的な回収手段ニャングルに移行する」

「ひっ……! 狂ってやがる、こいつ!」

 俺の事務的すぎる対応と、ヤクザより怖い猫耳の金融屋の名前を出されたことで、チンピラたちは完全にパニックを起こし、今度こそ村の外へと逃げ去っていった。

『ピコン』

【クエスト D-022:自社タレントの危機を排除せよ】

【内容:暴漢を撃退し、損害賠償を請求する】

【報酬:500P】

【クエスト達成】

【500Pを獲得しました】

【現在の所持P:3,110P】

 俺は息を吐き出し、へたり込んでいるリーザのそばに屈み込んだ。

「……ごめんなさい、陸人様。私のステージ、壊されちゃいましたの……」

「気にするな。あんなダンボール箱、どのみち明日には捨てさせる予定だった」

「えっ?」

 俺はウィンドウを開き、カタログを操作する。

 3,000Pあれば、もう少しマシなものが買える。

『折りたたみ式・簡易アルミステージセット:2,500P』

 発注ボタンを押す。

 広場の中央に、黒いシートが張られた頑丈なアルミ製のステージが現れた。高さ数十センチだが、みかん箱とは比べ物にならない『本物のステージ』だ。

「さあ、立て。アイドルの立つ場所は、そこだろ」

「陸人様……!」

 リーザは涙を拭い、真新しいアルミステージの上に立った。

 その瞬間、彼女の顔からドジな芋ジャージ娘の影が消え、プロのアイドルの顔に切り替わる。

 観客はいなくても、彼女の夢は一歩前に進んだ。

 だが、俺の静かな怒りと内容証明の請求書が、チンピラたちを余計に逆上させたことには気づいていなかった。

 村から逃げ出した彼らが、ポポロ村の裏山にある『封じられた遺跡』に足を踏み入れている頃。

 ——俺の視界に、これまで見たこともない凶悪な赤いウィンドウが、警告音と共にポップアップしようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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