↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された公爵令嬢を辺境へ連れ帰ったら、俺の領地が王国で一番幸せになりました!?  作者: ぱるめりあ
第九部 正しい独裁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/113

第93話 救われた人々

「爆発物を発見しました!」


 非常対策本部へ伝令が駆け込んだ。


 非常権限の発効から十二日目。


 王都東区の集会所地下。


 樽四つ。


 導火線。


 鉄片を詰めた小袋。


「起爆時刻は」


「本日夕刻。礼拝帰りの通りを狙ったものと」


 地図を見る。


 夕刻には、数百人が通る。


「周辺を封鎖。住民は二本先の通りへ避難。爆発物処理班以外を地下へ入れないでください」


「容疑者は二名確保」


「負傷は」


「ありません」


 息を吐く。


 間に合った。


 情報の始まりは、郵便物検査だった。


 通常なら開封に令状が必要な荷。


 火薬商会から架空の工房へ送られた請求書。


 非常権限で保留し、法務官が確認した。


 工房は存在しない。


 住所は集会所。


 令状を待たず緊急捜索。


 地下で樽を見つけた。


 速かった。


 手続きの一部を短くしたから。


「住民避難、完了しました」


 次の報告。


「爆発物を無力化します」


 私は現場へ向かった。


 東区の通りは封鎖されている。


 兵士だけではない。


 法務官。


 救護者。


 消防隊。


 非常権限の命令系統で、一つの指示へ動いている。


「セラフィーナ様!」


 避難所から女性が走り寄る。


 衛兵が止めようとする。


「構いません」


「娘が、集会所の隣で働いているんです」


「避難名簿を」


 係が確認する。


「縫製工房の従業員二十四名、全員避難済みです」


「娘の名前は」


 女性が答える。


 名簿にある。


「第三避難所です」


 女性の膝から力が抜ける。


「生きている」


「はい」


「ありがとうございます」


 私へ頭を下げる。


「私だけではありません」


「でも、命令を」


 彼女は泣いている。


 私は手を取らなかった。


 今は、次の報告が来る。


「地下から追加の導火線!」


「処理を続けてください」


 夕刻前、すべての爆発物が無力化された。


 樽四つ。


 市場爆破の数倍の鉄片。


 もし起爆していれば、通りだけでなく周囲の工房まで被害が出た。


 死者はゼロ。


 負傷者もゼロ。


 避難中に転んだ老人が一人、軽い傷を負っただけ。


 対策本部へ戻ると、職員たちが小さく拍手した。


 誰かが歓声を上げる。


 次々に広がる。


「まだ、捜査は終わっていません」


 私は言った。


「はい!」


 返事は明るい。


 成功だった。


 明確に。


 非常権限が人命を救った。


 その夜、議会への報告会が開かれた。


「令状なしの郵便保留は、四十三件」


 法務官が読み上げる。


「うち四十件は無関係と確認し、当日中に返却。三件から爆発物調達に関する記録を発見しました」


「無関係の荷への補償は」


 商人代表が問う。


「遅延損害を支払います」


「集会所の捜索は」


「緊急性を認定。二十四時間以内に事後令状を取得しました」


「拘束者は」


「二名。医師の診察と弁護人面会を実施」


 条件は守っている。


 記録もある。


「成果は、死者ゼロ」


 議長が言う。


「非常権限がなければ」


「通常手続きでは、捜索が夕刻以降になった可能性があります」


 法務官が答える。


 議場から安堵の声が漏れる。


「権限付与は正しかった」


 誰かが言う。


「延長も検討すべきだ」


 まだ十二日目。


 三十日の半分にも達していない。


「延長議論は、期限が近づいてからです」


 私は言った。


「ですが、脅威は続いている」


「今は、現行期間で対応します」


 そう答えた。


 マリアンヌ様が私を見る。


 わずかに安堵した表情。


 私は期限を忘れていない。


 報告会の後、救われた人々が官邸前へ集まった。


 縫製工房の女性たち。


 礼拝帰りに通る予定だった家族。


 周辺の店主。


 花やパンを持っている。


「受け取れません」


 私は最初に断った。


「税で動く公務です」


「では、皆で食べてください」


 パン屋が籠を差し出す。


「対策本部の人たちへ」


 それなら受け取れる。


「ありがとうございます」


 子どもが紙を持っている。


『まもってくれてありがとう』


 大きな文字。


 私は受け取った。


「お名前は」


 子どもが答える。


「今日、東通りを通る予定でしたか」


「お母さんと、お祈りの帰りに」


 母親が子どもの肩へ手を置く。


「避難命令がなければ、時間に間に合わないから近道をするつもりでした」


 集会所の前。


 爆発物の真上。


「本当に、ありがとうございました」


 母親が泣く。


 私の胸の中に、温かいものが生まれる。


 安堵。


 正しさ。


 私は守れた。


 アレンを守れなかった。


 市場の死者も。


 けれど、今日は守れた。


 強い権限があったから。


「セラフィーナ様」


 マリアンヌ様が隣へ来る。


「多くの方が救われました」


「はい」


「よかった」


「はい」


 二人で、子どもたちの紙を見る。


 ガレスが対策本部から出てくる。


「次の捜索候補が三件ある」


「根拠は」


「押収帳簿と供述。二件は薄い」


「同時に行います」


「薄い二件も?」


「時間をずらせば、情報が漏れます」


「令状なしで?」


「非常権限の範囲です」


 ガレスは少し黙った。


「法務官を全班につけろ」


「もちろんです」


「住民への説明も」


「事後に」


「事前は?」


「証拠を移されます」


 彼の眉が寄る。


「わかった」


 反対ではない。


 慎重さを求めている。


 私は成功を見た直後だった。


 だから、躊躇が小さくなっていた。


 翌朝、一斉捜索が行われた。


 三件のうち一件から火薬が見つかった。


 一件は違法な銃器。


 残る一件は無関係だった。


 家族は怯え、店の商品が一部壊れた。


 補償を命じた。


 謝罪文も出した。


 それでも、二件の危険を止めた。


 反対の書簡もあった。


『無関係の家へ兵が入り、子どもが眠れなくなった』


『郵便を開かれ、商売上の秘密が漏れた』


『謝罪と補償だけで済ませるのか』


 私はすべて記録させた。


「非常権限の成果報告と同じ冊子へ載せてください」


「支持が下がります」


「事実です」


 少なくとも、その時は隠さなかった。


 対策本部へ届く支持書簡が増える。


『もっと早く捜索してほしい』


『反対する者は犯人の味方だ』


『三十日では足りない』


 最初の二つは、気持ちとして理解できる。


 三つ目は、まだ考えない。


 私は救われた人々の名簿を開く。


 数百人。


 爆発が起きれば、死傷した可能性のある人々。


 一人ずつ名前がある。


 家族。


 仕事。


 帰る場所。


 権限は数字ではなく、この人々を守った。


 その事実が、重かった。


 正しい判断だった。


 少なくとも今回は。


 机の向かいの空席へ、私は報告書を置いた。


 報告書には、救われた子どもの年齢まで書かれている。


 七歳。九歳。十二歳。


 もし火薬が爆発していれば、家へ帰れなかった子どもたち。


 私は空席の前で、指輪を握った。


「見ていますか」


 それは問いではなかった。


 見ていてほしいという願いだった。


「守れました」


 声にする。


 返事はない。


 けれど、以前ほどその沈黙に迷わなかった。


 結果が答えだと、思い始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。