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婚約破棄された公爵令嬢を辺境へ連れ帰ったら、俺の領地が王国で一番幸せになりました!?  作者: ぱるめりあ
第九部 正しい独裁

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92/113

第92話 三十日間の非常権限

「期間は三十日です」


 暫定議会の緊急会議で、私は最初に期限を示した。


 議場の窓は閉じられている。


 外では、爆破犠牲者の名が読み上げられていた。


 まだ全員の身元は確認できていない。


 空席もある。


 昨日の爆発で負傷した議員。


 家族を失い、来られない代表。


「権限の範囲を説明してください」


 議長が言う。


 私は文書を開く。


「第一に、爆発物と武器の一時的な捜索権。裁判所の令状を待てない緊急時に限ります」


「誰が緊急と判断する」


「非常対策本部の責任者。現在は私です」


「事後審査は」


「二十四時間以内に法務委員会へ提出します」


「第二は」


「重要施設と交通路の一時閉鎖。通信と物資輸送の優先順位変更」


 商人代表が手を上げる。


「私有の荷車や倉庫も対象か」


「必要な場合は使用します。補償記録を残します」


「即時払いは?」


「可能な範囲で。困難な場合は証書を発行します」


「第三は」


「容疑者の緊急拘束。通常の勾留期限より短い、四十八時間を上限とします」


 議場がざわつく。


「令状なしで?」


「爆発物を所持している、現場から逃走した、具体的な情報と一致する場合に限ります」


「政治的所属だけで拘束しない?」


「しません」


 私は答えた。


「旧王党派であることも、急進派であることも、それだけでは理由になりません」


 別の議員が、被害者名簿を掲げた。


「この方々へ、手続きを守ったと説明できるのか」


「手続きを守れなかった部分は、説明します」


「謝罪で命は戻らない」


「戻りません」


「なら、もっと早く動ける権限が必要だ」


 賛成側から声が上がる。


 反対側は、権限が人を傷つけると訴える。


 どちらも、昨日の死者を見ている。


 違うのは、次の死を防ぐ方法だった。


 反対派の議員が立つ。


「昨日、指導部は議会承認なしで市街を封鎖した」


「緊急避難として実施し、昨夜、事後承認を申請しました」


「この権限があれば、毎日を緊急と呼べる」


「だから三十日です」


「延長は?」


「自動延長しません。再承認が必要です」


「拒否されたら」


「失効します」


 今は迷わず答えられた。


 議場の一角にガレスがいる。


 軍事担当として、危険の現実を説明する。


「爆発物は、あと十数個作れる量が市内へ入った可能性がある」


「根拠は」


「押収した火薬量と、密輸帳簿だ」


「推測では」


「推測だ。だから全市民を拘束しろとは言っていない」


 ガレスは地図を示す。


「だが、通常の照会を待てば、荷車一台が三区画を抜ける」


「軍へ捜索権を与えるのか」


「軍だけには与えん。文民責任者の命令と、法務官の同行を条件にしろ」


 彼も限界を求めている。


 マリアンヌ様が立った。


 議場が静かになる。


 兄が非常時を理由に権力を集めたことを、誰も忘れていない。


「私は、本議案へ賛成します」


 ざわめきが起きる。


「マリアンヌ代表。理由を」


「昨日、中央橋で退避命令が遅れました」


 彼女は記録を持つ。


「現場指揮官が負傷し、副官確認と議会警備隊への照会に時間がかかったためです。その間に欄干が崩れ、死者が出ました」


「制度の欠陥を、権力集中で補うのですか」


「一時的にです」


「兄君も、同じことを言ったのでは」


 マリアンヌ様の顔が白くなる。


 それでも立っている。


「はい」


 逃げずに答えた。


「だから、私は条件を求めます」


 指で条項を示す。


「三十日の明記。自動延長禁止。命令記録の公開。拘束者への医師と弁護人。議会による即時停止権」


「停止には何票必要か」


「過半数です」


 私は答える。


「三分の一から停止審議を要求できるようにします」


「指導者本人が議会を閉鎖したら?」


「その権限は与えられません」


「軍を使って入場を妨げたら?」


「違法命令として拒否できます」


 言葉を重ねるほど、安全に見える。


 制限された強い権限。


 正しく使えば人を救う。


「セラフィーナ様」


 マリアンヌ様が私を見る。


「この権限を、手放せますか」


 議場全体が答えを待つ。


「三十日後に」


「脅威が残っていても?」


「必要なら、議会へ再提案します」


「否決されたら?」


 一瞬、昨日の救護所が浮かぶ。


 小さな靴。


 布をかけられた遺体。


 遅れた命令。


「従います」


 私は言った。


 マリアンヌ様は、ゆっくりうなずく。


 法務官は、命令記録の公開方法を説明した。


「作戦中は概要のみ。終了後七日以内に全文を公開します」


「人名や捜査情報は」


「裁判所が非公開部分を個別に判断します」


「指導者が秘密指定できるのか」


「できません」


 私は、その条項へ署名する。


 金庫の中にある秘密命令が、指先へ重く触れるようだった。


 この制度なら、次は止められる。


 過去の一度だけは、制度の外へ残る。


 その矛盾を、私は口にしなかった。


 採決前、反対派の議員が最後の意見を述べた。


「この権限は、正しい人物へ渡すから安全なのではない」


 私を見る。


「間違った人物へ渡っても、止められる仕組みでなければならない」


「同意します」


「では、すべての命令へ署名と時刻を残してください」


「受け入れます」


「秘密命令は禁止」


 胸の奥で、封印した文書が重くなる。


「受け入れます」


 声は変わらなかった。


 私はすでに、一度秘密命令を出している。


 それを誰も知らない。


 今後は禁止する。


 過去の一度は、今回だけ。


 そう自分へ言い聞かせる。


 採決が行われる。


 賛成多数。


 反対票も記録された。


「三十日間の非常権限を、セラフィーナ・ローゼンフェルトへ付与します」


 議長が宣言する。


 槌が鳴る。


 王冠はない。


 歓声もない。


 ただ、一枚の文書へ多くの署名が集まる。


 私は最後に署名した。


「発効時刻は」


「本日正午」


 時計を見る。


 あと七分。


「最初の命令案が届いています」


 法務官が束を差し出す。


 爆発物倉庫の一斉捜索。


 北門の閉鎖。


 郵便物検査。


 火薬販売の一時停止。


 通常なら数日かかる。


 七分後、私の署名一つで動く。


「セラフィーナ様」


 マリアンヌ様が隣へ来る。


「私は賛成しました」


「はい」


「犠牲を止めるためです」


「私もです」


「兄上と同じにならないために、私は監督します」


「お願いします」


 心から言った。


「命令へ異議を述べた職員を、処分しない条項も必要です」


 マリアンヌ様が付け加える。


「受け入れます」


「内部告発の窓口を、議会側へ置きます」


「はい」


「セラフィーナ様ご自身の命令も対象です」


「当然です」


 即答した。


 正しい監督を恐れる理由はない。


 そう思える自分が、まだ残っていた。


 時計が正午を告げる。


 私は最初の命令へ署名した。


 伝令が走る。


 兵士と法務官が同時に立つ。


 扉が開く。


 三十日で終わらせる。


 終わらせて、アレンの墓へ行く。


 守れた人々の名を報告し、今度は約束を果たしたと言う。


 返事がなくてもよい。


 彼に恥じない私へ戻れるなら、それでよかった。


 三十日間。


 人命を守るための限定された時間が、始まった。

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